抗がん生薬(がんを縮小させる効果をもつ生薬)の中にマラリアの治療に用いられているものがあります。中国の南方地方などではマラリアの治療に漢方薬が古くから使用されていました。このような漢方薬の中から抗がん物質も見つかっています。

青蒿(セイコウ)Artemisia annua
青蒿(セイコウ) という生薬は強力な解熱作用があり、中国医学でマラリアなど様々な感染症や炎症性性疾患の治療に古くから使用されていました。1972年に中国の湖南省長沙市の郊外で発掘された馬王堆漢墓は2100年以上前に作られた墓(古墳)ですが、その中から見つかった「五十二病方」という医書の中に、青蒿が記載されています。
青蒿はartemisia annuaという植物です。artemisiaとはヨモギのことで、青蒿はキク科ヨモギ属の植物です。
英語ではsweet Annieやwormwoodと呼ばれ、和名はクソニンジンとかカワラニンジンと呼ばれています。

その解熱成分の アルテミシニン(artemisinin) とその誘導体(アルテスネイトジヒドロアルテミシニンなど)は マラリア の特効薬として薬品として使用されています。近年、このアルテミシニン誘導体が抗がん物質として注目を集めています。
アルテミシニン誘導体の抗がん作用については多くの研究グループが報告しており、さらに臨床例で著効した症例の報告や、ランダム化比較臨床試験での有効性が報告されています。

【アルテミシニン誘導体の抗がん作用】
アルテミシニン誘導体の一種 のArtesunate(アルテスネイト)の構造式は下図の右に示しています。この物質は分子の中に鉄イオンと反応してフリーラジカルを産生するendoperoxide bridge を持っています。
がん細胞はトランスフェリンレセプターを介したメカニズムでを多く取り込んでいます。がん細胞内には鉄イオンが多く含まれ、アルテスネイトは鉄イオンと反応してフリーラジカルを発生するため、がん細胞が選択的に障害を受けることになります。アルテスネイトを投与する前に、鉄を投与してがん細胞内の鉄の量を増やしておくと抗腫瘍効果を増強することができます
正常細胞は鉄をあまり含んでいませんのでがん細胞に比較的特異的に細胞障害作用を示します。さらに、がん細胞はSODやカタラーゼやグルタチオン・ペルオキシダーゼといった抗酸化酵素の量が正常細胞と比べて非常に少ないので、アルテスネイトによる細胞傷害作用を受けやすくなります。

アルテスネイトは様々ながん細胞に対して抗腫瘍効果を示すことが報告されています。培養細胞や動物を使った実験では、白血病、大腸がん、肺がん、悪性黒色腫、肝臓がん、卵巣がん、骨髄腫、膵臓がんなどに対する抗腫瘍作用が報告されています。
臨床例での有効性を認めた症例報告もあります。例えば、進行した悪性黒色腫に著効した症例報告や、進行した非小細胞性肺がんの抗がん剤治療にアルテスネイトを併用すると抗腫瘍効果が高まることを示したランダム化比較試験の報告などがあります。(詳しくはこちらへ
抗腫瘍作用のメカニズムに関しては、上記の如く、がん細胞内でフリーラジカルの産生を増やし、酸化ストレスを高めて、がん細胞に細胞死(アポトーシスや壊死)を引き起こすのが基本です。さらに、腫瘍組織の血管新生を阻害する作用、細胞外の結合組織を分解する酵素の活性を阻害することによってがん細胞の転移と浸潤を抑制する作用、トポイソメラーゼIIα阻害作用や細胞内シグナル伝達系に作用してアポトーシスを誘導する作用など、多彩な抗がん作用が報告されています。

【アルテミシニン誘導体の抗腫瘍効果の基礎研究 】

Cytotoxic terpenoids and flavonoids from Artemisia annua.(青蒿に含まれる殺細胞性のテルペノイドとフラボノイド) Planta Med, 60(1):54-57, 1994

(要旨)
青蒿(Artemisia annua)から分離されたテルペノイドとフラボノイドの抗腫瘍活性(殺細胞活性)を種々の培養がん細胞を用いて検討。Artemisinin と quercetagetin 6,7,3',4'-tetramethyl ether ががん細胞に対して強い殺細胞活性を示した。

The anti-malarial artesunate is also active against cancer.(抗マラリア薬のartesunateはがんに対しても効果がある) Int J Oncol ;18(4):767-773, 2001

(要旨)
Artesunateは、中国生薬の青蒿(Artemisia annua)の活性成分であるartemisininの半合成誘導体であり、多剤耐性のマラリアに対して著明な治療効果を持つ。この論文ではArtesunateの抗腫瘍活性を55種類のがん細胞株について検討した結果を報告。
Artesunateが最も効果を示したのは白血病と大腸がんであり、50%増殖阻止濃度は1〜2μMの濃度レベル であった。
非小細胞肺がんが最も感受性が悪く、50%増殖阻止濃度は10〜40μのレベルであった。
メラノーマ、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、中枢神経系腫瘍、腎がんに対しては中間のレベルの抗腫瘍活性を示した。 Artesunateの抗腫瘍作用を示す濃度は、通常の抗がん剤と同じレベルであった。また、 通常の抗がん剤に耐性のがん細胞に対しても抗腫瘍活性を示した。 Artesunateは毒性が低いので、がん治療薬の有望な候補と考えられる。

mRNA expression profiles for the response of human tumor cell lines to the antimalarial drugs artesunate, arteether, and artemether.(抗マラリア薬のartesunate, arteether, artemetherに対するヒトがん細胞株の反応を示すmRNA発現プロフィール) Biochem Pharmacol;64(4):617-623, 2002

(要旨)
抗マラリア薬のartemisinin の誘導体である artesunate, arteether, artemetherは著明な抗腫瘍活性を持っている。この論文ではこれらの物質の抗腫瘍活性のメカニズムを、遺伝子発現の面から他の抗がん剤と比較検討。その結果、artemisinin 誘導体の抗腫瘍活性のメカニズムは既存の抗がん剤とは異なることが示唆された。

Dihydroartemisinin Potentiates the Cytotoxic Effect of Temozolomide in Rat C6 Glioma Cells. (ジヒドロアルテミシニンはラットのグリオーマ細胞に対するテモゾロマイドの殺細胞作用を増強する) Pharmacology. 82(1):1-9. 2008

(要旨)
培養したグリオーマ細胞(脳腫瘍の一種)に、ほとんど毒性を示さない低濃度(1μM)のジヒドロアルテミシンを添加すると、テモゾロマイドの抗腫瘍効果が177%に増強した。軽度の毒性を示す低濃度(5μM)では、テモゾロマイドの抗腫瘍活性を321%増強した。ジヒドロアルテミシニンはがん細胞内における活性酸素の発生を高めることによって、テモゾロマイドの抗腫瘍作用を高めていることが示唆された。
(ジヒドロアルテミシニンはアルテスネイトやアルテミシニンが体内で代謝されてできる物質で、最近の研究で、強い抗がん作用が報告されている)

Dihydroartemisinin Induces Apoptosis and Sensitizes Human Ovarian Cancer Cells to Carboplatin Therapy. (ジヒドロアルテミシニンはヒト卵巣がん細胞のアポトーシスを誘導し、カルボプラチン治療に対する感受性を高める) J Cell Mol Med. 13(7): 1358-1370, 2009

(要旨)
アルテミシニンとその誘導体は卵巣がんの培養細胞に対して強い抗腫瘍作用を示した。ジヒドロアルテミシニンは、単独でがん細胞にアポトーシス(細胞死)を示し、さらに抗がん剤のカルボプラチンと併用することによってカルボプラチンの抗腫瘍作用を増強した。このような効果は、がん細胞を移植したマウスの動物実験でも確かめられた。正常細胞に対する毒性は極めて低かった。

First evidence that the antimalarial drug artesunate inhibits invasion and in vivo metastasis in lung cancer by targeting essential extracellular proteases.(抗マラリア薬アルテスネイトが細胞外プロテアーゼに作用して肺がんの浸潤と転移を阻害することを示す最初の証拠)Int J Cancer. 127(6):1475-85. 2010

(要旨)
ドイツのハイデルベルグ大学とドイツがん研究センターの研究グループからの報告。
肺がんの生存期間を延ばすためには新しい治療手段が必要である。抗マラリア薬のアルテスネイトはがん細胞の増殖を抑制する効果が報告されている。しかし、がん細胞の浸潤や転移に対する効果に関しては、今まで研究されていない。この報告では、アルテスネイトが肺がんの浸潤と転移を阻害する作用をあることを示し、その作用機序を明らかにした。
非小細胞性肺がんの6種類の培養細胞株を使った実験で、アルテスネイトは、ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(u-PA)の活性と蛋白およびmRNA発現を抑制した。さらに、アルテスネイトは、幾つかのマトリックスメタロプロテイナーゼ(matrix metalloproteinases, MMP)、特にMMP-2とMMP-7のmRNAと蛋白の発現を抑制した。さらに転写因子のAP-1とNF-kBの活性を抑制した。動物実験でもアルテスネイトはがんの増殖と転移を阻害した。
以上の結果から、アルテスネイトはu-PAとMMP-2とMMP-7の発現(遺伝子転写)を阻害し、肺がん細胞の浸潤と転移を抑制することが示された。この結果は、アルテスネイトを非小細胞性肺がんの新しい治療薬として研究する必要性を示唆している。


【膵臓がん細胞に対するアルテスネイトの抗がん作用に関する論文】

○アルテスネイトは膵臓がん細胞を移植したマウスの実験モデルで腫瘍を縮小した。
Artesunate induces oncosis-like cell death in vitro and has antitumor activity against pancreatic cancer xenografts in vivo.(アルテスネイトは培養膵臓がん細胞にオンコーシス様の細胞死を誘導し、マウスに移植した膵臓がんに対して抗腫瘍活性を示す)Cancer Chemother Pharmacol. 65(5):895-902, 2010
【論文要旨】
膵臓がんは抗がん剤治療が効きにくく、診断後の5年生存率は5%以下という非常に難治性のがんである。膵臓がんの治療に有効な新薬の開発が緊急の課題となっている。この論文では、膵臓がんの培養細胞を使った実験(in vitro)とヌードマウスに移植した動物実験(in vivo)を行い、アルテミシニン誘導体のアルテスネイトが膵臓がん細胞に対して抗腫瘍効果を示すことを明らかにした。
アルテスネイトは培養した3種類のヒト膵臓がん細胞(Panc-1, BxPC-3, CFPAC-1)に対して細胞死を誘導した。これらの膵臓がん細胞に対する50%増殖抑制濃度(IC50)は、正常ヒト肝細胞(HL-7702)に対するIC50の2.3〜24分の1であった。
アルテスネイトで誘導される細胞死は、アポトーシス阻害剤では阻害されなかった。電子顕微鏡による形態学的検査では、アルテスネイトを投与されたがん細胞は、細胞質の腫脹と空胞化、ミトコンドリアと核の膨張と崩壊、細胞の破壊が観察された。これは、oncosisという壊死のタイプの細胞死の所見であった。
アルテスネイトを投与された膵臓がん細胞は、ミトコンドリアの膜電位が低下し、その細胞死は活性酸素消去物質のN-アセチルシステインで阻害された。
さらに、マウスに移植した膵臓がんの腫瘍をアルテスネイトの投与(25, 50, or 100 mg/kg/day, 腹腔内投与)によって縮小することができた。100mg/kgのアルテスネイトの抗腫瘍効果は同じ投与量のジェムシタビン(gemcitabine)とほぼ同じレベルであった。しかし、ジェムシタビン投与マウスは体重が平均25%減少し、副作用によって活動性が低下し、18日目には5匹中2匹が死亡した。一方、アルテスネイトは100mg/kgの投与でも、毒性はほとんど認められなかった。
以上の結果から、アルテスネイトはヒト膵臓がん細胞に対して、オンコーシス様の細胞死を誘導して、抗腫瘍効果を示すことが示された。膵臓がんの治療薬としてアルテスネイトは有望な候補となることが示唆された。

○アルテスネイトは膵臓がん細胞に、トポイソメラーゼIIα阻害作用や細胞内シグナル伝達系に作用してアポトーシスを誘導する
Gene expression profiling identifies novel key players involved in the cytotoxic effect of Artesunate on pancreatic cancer cells.(遺伝子発現プロフィルの検索は、膵臓がん細胞に対するアルテスネイトの細胞傷害作用に関与する新たな細胞因子を同定する)Biochem Pharmacol. 278(3):273-83. 2009
【論文要旨】
アルテスネイトは抗マラリア薬として広く使用されているが、最近の多くの研究によって、抗腫瘍効果を有することが明らかになっている。しかし、膵臓がんに対するアルテスネイトの有効性や作用メカニズムに関しては十分に検討されていない。
本研究では、MiaPaCa-2 (低分化型) とBxPC-3 (中分化型)の 2種類のヒト膵臓がん細胞株を用い、細胞培養の実験で、アルテスネイトの抗腫瘍作用とそのメカニズムを検討した。
アルテスネイトは、膵臓がん細胞の特定の遺伝子群の発現に影響を及ぼすことが示された。
さらに、アルテスネイトはトポイソメラーゼIIα活性を阻害し、多くの細胞内シグナル伝達系に作用して、膵臓がん細胞の増殖を抑制し、アポトーシスを誘導する作用を認めた。

アルテスネイトでがん細胞に誘導される細胞死は、アポトーシスという報告と壊死オンコーシスという報告があります。この違いはがん細胞の種類や、アルテスネイトの投与量などが関連していると考えられます。
アルテスネイトはがん細胞内に多く蓄積している鉄と反応してフリーラジカルを産生してがん細胞を死滅させます。フリーラジカルによる細胞内小器官や膜の破壊によって起こる細胞死は、そのダメージが軽度の場合はアポトーシスが誘導され、ダメージが強い場合は壊死に近い細胞死を引き起こされると考えられます。

【非小細胞性肺がんの抗がん剤治療におけるアルテスネイトの相乗効果】

Artesunateには、抗がん剤に耐性になったがん細胞の抗がん剤感受性を高める効果があることが報告されています。抗がん剤治療にArtesunateを併用すると、抗がん剤の抗腫瘍効果を高めることができます。進行した非小細胞性肺がんの抗がん剤治療にアルテスネイトを併用すると抗腫瘍効果が高まることが、中国で行われたランダム化比較試験で報告されています

Artesunate combined with vinorelbine plus cisplatin in treatment of advanced non-small cell lung cancer: A randomized controlled trial(進行した非小細胞性肺がんの治療におけるビノレルビンとシスプラチンと併用するアルテスネイト:ランダム化比較試験)Journal of Chinese Integrative Medicine(中西医結合学報)6(2): 134-138. 2008
進行した非小細胞性肺がんに対するビノレルビン(vinorelbine)とシスプラチン(cisplatin)を併用した抗がん剤治療に、アルテスネイトを併用した場合の安全性と有効性を検討する目的で、120例の非小細胞性肺がん患者を対象にランダム化比較試験を行った。
コントロール群の60例は、ビノレルビン (25 mg/m2, once-a-day intravenous injection, at the 1st and 8th day) とシスプラチン (25 mg/m2, once-a day intravenous drip, at the 2nd to 4th day)を併用した抗がん剤治療を受けた。
残りの60例は、同じ抗がん剤治療に、アルテスネイト(120 mg, once-a-day intravenous injection, from the 1st day to 8th day, for 8 days)の投与を追加した。21日サイクルの治療を少なくとも2回行った。
短期間の生存率(short-term survival rate)と平均生存期間(mean survival time)と1年生存率においては、両群の間に統計的に有意な差を認めなかった。
(統計的有意差は出なかったが、短期間生存率はアルテスネイト併用群が45.1% 対してコントロール群は 34.5%, 1年生存率はアルテスネイト併用群が 45.1%に対してコントロール群は 32.7%と、アルテスネイト併用によって生存率が高まる傾向が示唆された)
しかし、
病勢コントロール率(disease controlled rate:著効CR+有効PR+不変NCの患者)はアルテスネイト併用群が88.2%でコントロール群が72.7%で統計的に有意な差(P<0.05)が認められた。
さらに、
無進行期間(time to progression)は、アルテスネイト併用群が24週に対してコントロール群が20週で、これも統計的に有意な差であった(P<0.05)。
両群の間で副作用(骨髄抑制や消化器症状など)の程度には差は認められなかった。
この臨床試験の結論として、
非小細胞性肺がんのビノレルビンとシスプラチンを使った抗がん剤治療にアルテスネイトを併用すると副作用を高めることなく、抗腫瘍効果を高めることが示唆された。

シスプラチンを使用した肺がんの抗がん剤治療に、黄耆(オウギ)を使用した漢方治療を併用すると、抗がん剤治療の副作用を軽減し、生存率を高めることが複数のランダム化比較試験のメタ解析で示されています。(021参照
また、メラトニンが肺がんの抗がん剤治療の副作用を軽減し、生存率を高めることが報告されています。(017参照
黄耆(オウギ)を使用した漢方治療とメラトニンとアルテスネイトは、進行肺がんの抗がん剤治療と併用する代替医療として、ある程度の根拠があると思います

【Artesunate(アルテスネイト)製剤の使い方 】

ポイント:
1:Artesunateは鉄イオンと反応してフリーラジカルを発生して殺細胞作用を示す。
2:がん細胞は鉄の取り込みが高いのでArtesunateによる殺細胞作用を受けやすい。
3:フリーラジカルが細胞障害のメカニズムであるから、抗酸化剤との同時服用は避ける。(抗酸化剤の服用は4時間以上間を空ける)
4:Artesunateを投与する4時間以上前に鉄剤を服用すると抗腫瘍効果を高めることができる。ただし、同時に服用すると胃の中でArtesunateと鉄が反応してしまうので効果が無くなる。
5:ビタミンCは鉄の吸収を良くして、正常組織の酸化障害を回復するので、鉄を服用する時間帯にビタミンCを同時に服用すると効果的。
6:内服後、Artesunateは速やかに吸収されて45分から90分で最高濃度に達する。肝臓で加水分解されて、dihydroartemisininになり、これも抗腫瘍効果がある。血中からの半減期は5〜8時間。
使い方 :
1: アルテスネイト(50mg)1〜2錠を夜間空腹時か就寝前に服用する。
鉄分やビタミンCの豊富な食事をした場合には4時間くらい空ける。
体重1kg当たり1〜2mgが目安。
空腹時に服用して胃が荒れるときは牛乳と一緒に服用するのが良い。
2:昼食後に鉄剤(フェロミア, 50mg)を1錠服用する。
同時にビタミンCの豊富なジュースを飲むか、ビタミンCのサプリメントを服用すると鉄の吸収が良くなる。
副作用 :
治療に使う量では副作用は極めて少ないが、以下の症状が現れることがある。
1: 発疹、皮膚掻痒
2: 発熱 :Artesunateによるがん細胞の細胞死の結果として起こる。発熱は効果が出ているサインと考えられるので、様子をみるのみで処置は特に必要ない。
3:その他、稀に、血液の異常(網状赤血球の減少など)や肝機能の障害(トランスアミナーゼの上昇)が現れることがある。量が増えると下痢や腹痛が起こることがある。
その他 :
1:アルテスネイトは光感受性であるから暗所に保存する。
注射の場合は、薬剤を調整するときに光りに長時間当てないこと。
2:放射線と喫煙は正常細胞のトランスフェリンレセプターの量を増やして鉄イオンの取り込みを増加して正常細胞の障害を引き起こして副作用の原因となる可能性がある。
3:進行の早い癌は細胞表面のトランスフェリンレセプターの量が多いので、アルテスネイトの効果が現れやすい。
4:併用を禁止すべき薬剤の報告はない。
漢方薬や代替医療との併用 :
嫌気性解糖系を阻害する半枝蓮や、TCA回路を活性化してがん細胞の酸化ストレスを高めるジクロロ酢酸ナトリウムを併用すると、Artesunateの抗腫瘍効果を高めることができます。
がん組織における低酸素は、転写因子のhypoxia-inducible factor-1α(HIF-1α:低酸素誘導性因子1α)の発現を促進します。
HIF-1αは、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の産生を誘導し血管新生を刺激します。
また、HIF-1αはがん細胞のトランスフェリン受容体の量を増やし、がん細胞内へのの取り込みを促進することが報告されています。
さらに、HIF-1αはピルビン酸脱水素酵素キナーゼの発現を誘導し、ピルビン酸脱水素酵素を不活性化することによってピルビン酸からアセチルCoAの変換を妨げ、嫌気性解糖系を亢進し、TCA回路を低下させます。
アルテスネイトは鉄イオンと反応してフリーラジカルを発生するため、がん細胞が選択的に障害を受けることになります。正常細胞は鉄をあまり含んでいませんのでがん細胞に比較的特異的に細胞障害作用を示します。
アルテスネイトは血管新生阻害作用が報告されています。嫌気性解糖系を阻害する半枝蓮やジクロロ酢酸ナトリウムとアルテスネイトを併用すると、がん細胞内での酸化ストレスを高め、アポトーシス誘導効果が増強します。

(がん細胞のエネルギー産生の特徴を利用したがん治療の詳細はこちらへ

高濃度ビタミンC点滴と併用すると、がん細胞の酸化ストレスを高めて抗腫瘍効果を相乗的に高めることが指摘されています。

【高濃度ビタミンCとアルテミシニン誘導体製剤の相乗効果】

増殖の速いがん細胞は細胞内に鉄を多く取り込んでいます。細胞の表面にあるトランスフェリン受容体が鉄を細胞内に取り込む際に働きます。一般にがん細胞の表面にはトランスフェリン受容体の量が多く鉄を多く取り込むのが特徴です。
ビタミンCと鉄およびトランスフェリン受容体の関連については、相反する考えがあります。
一般的にビタミンCは鉄などの遷移金属と反応すると過酸化水素を大量に発生するのですが、高濃度ビタミンC点滴における過酸化水素の発生には鉄は関与していないという報告があります。
トランスフェリン受容体に関しても異なる研究結果が報告されています。
Neuroblastomaやmelanomaを使った実験では、がん細胞のトランスフェリンレセプターの量を減らし、がん細胞内の鉄を枯渇させることによってアポトーシスを誘導する可能性が報告されています。鉄は細胞が分裂するために必要なミネラルで、がん細胞では鉄の取り込みを行うトランスフェリンレセプターの発現が増えていて、鉄を多く含むことが知られています。この研究では、脳腫瘍の一種のニューロブラストーマを培養している培養液にビタミンCを添加すると、がん細胞のトランスフェリンレセプターの量が減少することを報告しています。
【Cell Physiol 2005, 204(1):192-197./Molecular Cancer 2007, 6:55】
一方、胃がん細胞を使った研究では、高濃度ビタミンCは胃がん細胞のトランスフェリン受容体の量を増やして鉄の取り込みを増やし、がん細胞を殺す作用機序が報告されています。【Cancer Lett. 2008 Dec 22, [Epub ahead of print]】
以上のように、高濃度ビタミンCの抗がん作用に関しては、複雑な作用機序が関与し、それはがん細胞の種類によって違う可能性があります。しかし、がん細胞では細胞表面のトランスフェリン受容体を多く、鉄の取り込みが増えている点が、その抗腫瘍効果の発現に関与していることが示唆されています。
アルテミシンやアルテスネイトも、その抗がん作用のターゲットは、がん細胞に多く含まれる鉄ですので、高濃度ビタミンC点滴療法との相乗効果が期待できます
すなわち、ビタミンCでがん細胞の鉄が枯渇する場合には、そのがん細胞は増殖できないので問題ありません。ビタミンCガがん細胞内の鉄の取り込みを増やす場合には、アルテミシニンやアルテスネイトは、がん細胞を殺す活性が高まります。
ビタミンCは水溶性で短時間で尿中に排出されるため、その抗腫瘍効果が長続きしないのが欠点です。そのため週に2〜3回の点滴が必要です。アルテミシニンやアルテスネイトは内服薬ですので、毎日服用することによって、抗腫瘍効果を維持できます。
(詳しくはこちらへ


抗がん剤との併用 :
Artesunateには、抗がん剤に耐性になったがん細胞の抗がん剤感受性を高める効果があることが報告されています。抗がん剤治療にArtesunateを併用すると、抗がん剤の抗腫瘍効果を高める可能性が示されています。
【Artesunate (アルテスネイト)を用いた喉頭の扁平上皮がんの治療例】
Artesunateを用いた癌治療の臨床経験はワシントン大学のNarendra P. Singh博士らグループが何例か報告しています。以下はその1例です。使用法の参考になります。
症例は72歳の男性。固形物の嚥下困難、声枯れ、頚部の痛みを訴えて受診し、喉頭に3 cm x 2.5 cm x 3 cm大の癌と頚部リンパ節の腫脹を発見された。亜カプセル診断は、ステージIIの喉頭癌 (T2 N1 M0)で 高分化型扁平上皮癌 であった。
患者の許可を得てArtesunate (アルテスネイト)による治療が行われた。
第1日目には 硫酸鉄 (ferrous sulfate、150 mg) と 葉酸 ( folic acid 、0.5 mg) が昼食後の2:00 PM に投与された。 artesunate (60 mg) の筋肉注射を15日間連続で10:00 PMに行った。第16日目からはartesunate の錠剤(50 mg) を夕食後の10:00 PM に服用した。
投与しはじめて第4日から第7日にかけて発熱(37.8〜38.4℃)があった。治療開始後、声枯れは次第に減弱していき、2週後には声枯れは消失した。固形物を食べられるようになり、食欲も増加した。頚部リンパ節のサイズも小さくなり、喉頭の腫瘍の大きさは、 2.25 cm x 2 cm x 1.5 cmとなり、もとの大きさの70%に減少していた。体重は2kg増加し、体力も増強した。

【アルテスネイト治療のまとめ】

アルテスネイトの抗腫瘍効果の作用メカニズムは多彩です。がん細胞に酸化ストレスを高める以外に、血管新生阻害作用、DNAトポイソメラーゼIIα阻害作用、細胞増殖や細胞死のシグナル伝達系に影響する作用などが報告されています。
さらに、抗腫瘍作用を示す投与量で、正常細胞に対する毒性が低く、副作用がほとんど無いという特徴を持っています。
アルテスネイトは昔からマラリアの治療に使われていた生薬の成分で、その安全性や副作用が軽度であることが確かめられています。
アルテスネイトの抗腫瘍効果の作用機序から、嫌気性解糖系を阻害する半枝蓮(はんしれん)を使った漢方薬、がん細胞のミトコンドリアでの活性酸素の産生量を高めるジクロロ醋酸ナトリウムなどと併用すると、さらに抗腫瘍効果を高めることができます。
この3つの組み合わせは、がん細胞に選択的に酸化ストレスを高めて、がん細胞を死滅させる方法です。
アルテスネイト、ジクロロ醋酸ナトリウム、半枝蓮の漢方薬の3種類の組み合わせは1ヶ月分が6万円程度ですが、進行がんの治療に試してみる価値があります。(詳しくはこちらへ
アルテスネイトとサリドマイドとセレブレックスの組み合わせによるがん治療も効果が期待できます。(詳しくはこちらへ
高濃度ビタミンC点滴とアルテスネイト、アルテミシニン誘導体との併用も効果があります。 (詳しくはこちらへ
注意:アルテミシニン誘導体は抗マラリア薬として世界中で使用され安全性も十分に証明されていますが、がん治療においてはまだ治療法として確立していないので、自己責任のもとでの使用になります。

青蒿(セイコウ:Artemisia annua)から分離された活性成分が アルテミシニンで、その効果を高めたアルテスネイト(Artesunate)アルテメーター(Artemether)という2種類の誘導体が合成されています。
アルテスネイトは水溶性で、抗マラリアや抗がん作用はアルテミシン誘導体の中で最も高いと考えられています。毒性が極めて低いので、副作用がほとんど無いのが特徴です。しかし、体内での半減期が比較的短いという短所もあります。
アルテメーターは脂溶性で、アルテスネトより体内の半減期は長く、血液脳関門を容易に通過するので、脳マラリアや脳腫瘍にも効果があります。しかし、高用量を使用すると神経毒性という副作用があります。
アルテミシニンは、アルテスネイトとアルテメーターの2つの中間的な半減期をもち、血液脳関門も通過します。

Artesunate(商品名Hepasunate)は、1カプセル(50mg)が60カプセル入っています。12000円(税込み)です。

Artemixは1カプセル中にアルテミシニン誘導体のArtesunate 50 mg, Artemether 40 mg, Artemisinin 50 mgを含みます。Artemixはこの3種類のアルテミシニン誘導体を含有するので、その相乗効果が期待できます。30カプセル入り12000円(税込み)


Hepasunate

Artemix

【アルテミシニンの発見者にラスカー賞が授与】

アルテミシニンを発見した中国中医科学院(北京)のトゥーユーユー(屠○○:○は口篇に幼という字:右図参照)博士が2011年のラスカー賞(臨床医学賞)を受賞しています。中国人のラスカー賞の受賞は初めてです。屠博士は1970年代、漢方薬で使う薬草から様々な化学物質を抽出し、マラリア治療薬「アルテミシニン」を発見しました。
ラスカー賞(アルバート・ラスカー医学研究賞)はアメリカ医学会最高の賞で、「アメリカのノーベル生理学・医学賞」とも呼ばれ、医学関係ではノーベル賞に次ぐ権威ある賞です。
ラスカー賞を受賞した人のうち68人がさらにノーベル生理学・医学賞を受賞しています(2003年の段階)。

ラスカー賞を受賞するというのは、医学の領域でノーベル賞に匹敵するほどの業績を上げたということを意味します。
マラリアは熱帯・亜熱帯地域の70ヶ国以上に分布し、全世界で年間3〜5億人、死者は100〜150万人と言われる感染症です。その治療薬としてのアルテスネイトなどのアルテミシニン誘導体の開発は、ある本では「伝統薬から開発された医薬品としては、20世紀後半における最大の業績」という表現がなされているほど、医学において重要な成果だと言われています。つまり、アルテスネイトなどのアルテミシニン誘導体の開発は、19世紀に分離されたサリチル酸やエフェドリンなどと匹敵する成果だと認識されているのです。

 
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