東京銀座クリニック
 
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乳がん患者のためのナチュラルメディシン
食事、ハーブ、サプリメント、運動について

乳がんや心臓疾患の発生リスクを低下させるような食生活や運動レベルは、乳がんサバイバーにとっても重要です。必要以上に野菜を多く摂取しても乳がんの再発を予防する効果は高まりませんが、日頃から野菜と果物を多く食べ、飽和脂肪酸を減らし、食物繊維を多く摂取することは健康的な食事の基本です。
大豆製食品の摂取は問題ありませんが、ホルモン療法を受けている時は、大豆イソフラボンを多く含むサプリメントは避けるべきです。
乳がんサバイバーにとって最も大切なことは、適切な食事と運動によって健康的な体重を維持することです。定期的な運動は体重とは関係なく全ての乳がんサバイバーは継続すべきです。


【体重と運動について】

乳がんと診断された女性にとって、望ましい体重を維持することが、生活習慣における達成目標の最も重要な項目の一つです。
過去何十年間にわたって報告されてきた研究の多くが、乳がんの診断を受けたときに、体重オーバーか肥満の場合には、リンパ節転移の割合が高く、再発率が高く、生存期間が短いなど、予後が悪いことを報告してます。
体重オーバーや肥満が、乳がんの予後を悪くするリスクファクアーであることは十分な証拠があります。したがって、診断時に体重がオーバーしている乳がん患者の場合には、体重を適切なレベルに減らし、健康的な体重を維持することが重要です。
乳がんの診断後に、体重がさらに増える場合があります。診断後の体重増加と予後との関係に関しては、異なる結果が報告されています。

多くの研究では、診断後に13ポンド(5.8kg)以上の体重増加があった場合には、それ以下の増加または増加がない場合の乳がん患者と比べて、再発率が50%高まり、死亡率は60%高くなることが報告されています。
非喫煙者の看護士の乳がんサバイバーを対象にしたコホート研究の結果も同様の結果を報告しています。診断後のBMI(body mass index)の上昇が0.5以下の場合に比べて、BMIが0.5〜2.0上昇した人は再発率が40%上昇し、BMIが2.0以上上昇した人は再発率が53%上昇することが報告されています。この研究では、体重が減った人は、予後が悪化することはありませんでした。
しかしながら、最近のいくつかの研究では、体重の増加が予後を悪化させる効果は認められていません。
説明のできない体重減少は再発の徴候の可能性もありますので、慎重な経過観察が必要です。目的をもって意識して体重を減らそうとしている場合と、減らそうと努力していないのに体重が減っている場合は、その意味は極めて大きな違いがあります。
実際、体重オーバーや肥満は、乳がんの予後を悪くするだけでなく、一般的な健康や生活の質をも悪化させるので、初期の乳がんと診断された女性で体重がオーバーしている場合は、健康的な体重への減量と維持が、極めて重要です。

乳がん手術後の抗がん剤治療やホルモン療法での補助療法で治療を受けている女性で体重増加を認めたときは、筋肉は減少し、体脂肪が増加していることが、多くの研究で示されています。筋肉が減り体脂肪が増加するという好ましくない体型の変化は、治療中には体重が増えないようにするだけでなく、筋肉の量を維持することも目標に対策を立てなければなりません。
中等度の運動、特にレジスタンス運動(筋力トレーニング)を、がんの治療中や治療後に行うことは、体脂肪を減らし、筋肉量を増やすのに役立ちます。たとえ理想的な体重に達することができなくても、6〜12ヶ月の間に5〜10%の減量を行えば、血中の脂肪や空腹時のインスリンの量を上げるような慢性疾患の発生リスクを低下させるのに十分です。
体重オーバーの乳がん患者は、治療のあと体重を減らす努力が必要です。1週間に1〜2ポンド(450〜900g)の中等度の体重減少は、主治医がそれを認識しモニターしていて治療を妨げるものでなければ、がん治療中でも安全に実施することができます。
乳がんサバイバーにおけるがん治療中と治療後の運動の効果を検討した臨床試験がいくつかあります。大規模なランダム化比較臨床試験はありませんが、乳がんの治療中や治療後の運動が、生活の質を高め、身体機能を高め(心肺機能や柔軟性や体格など)、満足度や不安や抑うつや倦怠感などの面で良い効果を与えることを示す結果は多く報告されています
乳がんの発生予防、心臓疾患、糖尿病、全てを含めた死亡率に対する運動の有益性は、乳がんサバイバーにも当てはまります。さらに、乳がんサバイバーのうち、活発な身体活動を行っている人は、運動をしない人と比べて再発率が低く、乳がんに関連した死亡率だけでなく、全ての原因を含めた死亡率も低下することが報告されています
摂取カロリーと肥満の程度を考慮に入れた場合、食事からの脂肪の摂取が、乳がんの再発率を高め、生存期間を短くするリスクに関連しているという考えを十分にサポートするデータはありません。
乳がんと診断された後、食事の内容を変えることによって、再発率を下げ、生存率を上げることができるかどうかを検討した臨床試験が行われています。
最近終了したWINSという研究はランダム化した多施設の臨床試験で、標準的な乳がん治療に加えて、食事中の脂肪を減らすと、再発や延命に対して効果があるかを、限局した乳がん患者で検討しています。
この臨床試験では、2437人の閉経後の初期乳がんを対象に、ランダムに選んだ975人を低脂肪の食事のグループに割り当てました。
低脂肪(総摂取カロリーの20%が脂肪)の食事を摂取したグループでは、再発率が24%低下し、特にエストロゲン受容体がネガティブの乳がん患者では再発率低下が顕著でした

参考:CA Cancer J Clin 2006; 56:323-353
Nutrition and Physical Activity During and After Cancer Treatment: An American Cancer Society Guide for Informed Choices

【野菜や果物の摂取】

野菜は食事のカロリー密度を低下させ、野菜と食物繊維は満腹感を与えます。したがって、体重のコントロールの面からは野菜の多い食事は推奨されます。また、野菜や果物に含まれる抗酸化物質が再発を予防する効果も示唆されています。
例えば、野菜や果物の摂取量の指標となる血液中のカロテノイド濃度が高いほど、再発のない生存期間(recurrence-free survival)が長くなることが報告されています。最近のいくつかの研究結果によると、野菜を多く食べると、乳がん、前立腺がん、卵巣がんの再発率を低下させ、延命効果があることが示唆されています。

しかし、必要以上に野菜や果物を多く食べても、さらに再発率を下げたり、生存期間を延ばすという効果は少ないようです。
診断後10年近く追跡調査した臨床試験( the Nurses' Health Study)に参加した乳がんサバイバーの最近のデータでは、野菜や果物や精白していない穀物を多く摂取し、砂糖や精白した穀物や動物性食品の量を減らすような理想的な食事を行っても、再発率やがんに関連した死亡率を有意に減らす効果は認められませんでした。しかしながら、このような食事を行ったグループでは、典型的な西洋食を食べていた人達に比べて、他の病気での死亡率を低下させました。

WHELランダム化臨床試験( Women's Healthy Eating and Living randomized trial)では、野菜と果物と食物繊維の摂取を増やし、脂肪を減らす食事指導が、乳がん治療後の再発率や死亡率を改善するかどうかを検討しています。その試験結果が最近公表され、一般的な食事療法ガイドラインで推奨されている健康的な食事に加えて,さらに野菜・果物・食物繊維の摂取量を増やし,脂肪摂取量を減らしても,早期乳がん治療後の患者の再発率や死亡率に追加の恩恵は得られないとする結果を発表しています。
このWHEL試験はカリフォルニア大学サンジエゴ校を拠点として多施設共同で実施され、乳がん予後改善への食事療法の影響を検討したランダム化臨床試験としては最大規模のものです。
18〜70歳の早期乳がん治療後の患者3,088例を強化介入群と対照群にランダム化割り付けして 6 〜11年間追跡しました。対照群には米農務省(US-DA)が促進するガイドラインに準じた食事を取らせ,強化介入群には 1 日に野菜摂取 5 回(servings),野菜ジュース16オンス(454g),果物摂取 3 回,食物繊維30g,脂質の摂取量を全カロリー摂取の15〜20%とする食事を指導しました。
強化介入群の食事内容が著明に変化したことは,参加者の自己申告だけでなく,血中カロチノイド濃度の著明な変化によっても確認されました。 4 年経過時での強化介入群は,対照群に比べて野菜,果物,食物繊維のいずれの摂取量も多く(それぞれ65%,25%,30%の増加),脂肪摂取は13%減少し、この両群の食事パターンの差は,試験終了時まで維持されました。
しかし、平均7.3年間のフォローアップ後の乳がん再発率と死亡率は両群間で同等で,両群とも約17%が再発し,10%が死亡しました。
つまり、早期乳がんで治療後に、推奨される健康的な食事を摂取することは大切ですが、それ以上に野菜や果物の摂取を増やしても再発予防の目的には何ら恩恵を得られないということが示唆されました。
 しかし、これは乳がんの再発予防への影響が少ないということであり、果物と野菜を多く取り脂肪摂取を控える食事は,血圧の低下や脳卒中や心疾患リスクの減少などに大きく影響することは多くの臨床試験で確認されていますので、健康増進に意味が無いわけではありません。また、若年や中年の乳がん女性には 7 年間というフォローアップ期間は短く、より長期の観察が必要だという意見もあります。

いずれにしても、がんの再発予防だけでなく、他の病気の予防にも有効ですでの、がんサバイバーは1日5皿以上の野菜や果物を食べることが推奨されます。野菜や果物の中のどのような成分にがん再発予防効果があるかは十分に判っていませんので、いろんな種類の野菜や果物を1日5皿以上食べるというのが、最も良いアドバイスです。

参考:JAMA. 18;298(3):289-98.2007
Influence of a diet very high in vegetables, fruit, and fiber and low in fat on prognosis following treatment for breast cancer: the Women's Healthy Eating and Living (WHEL) randomized trial.


【アルコール】

アルコール摂取は血中のエストロゲンの量を増やすので、理論的にはエストロゲン受容体陽性の乳がんの再発率を高める可能性がありますが、この点に関してはまだ結論をだせるほどの研究は行われていません。
アルコールが乳がんの発生リスクを高めることは知られていますが、乳がんサバイバーの再発率や生存期間に対してアルコールが影響するかどうかに関する証拠は十分ではありません。乳がん患者の予後を検討する研究において、研究の対象になる患者の飲酒量が非常に少ないため、アルコールの影響が判りにくいからです。しかしながら、理論的には、乳がんサバイバーでは高いリスクにある別の乳がん(second primary breast cancer)の発生を促進する可能性はあります。
アルコールは、健康にとって良い面と悪い面の両方を持っています。一般に、中等度の飲酒(1日に1〜2杯程度)は心臓疾患の発生リスクを低下させるという証拠が多く出されています。
乳がんサバイバーの場合は、中等度の量の飲酒の有益性を検討するとき、心臓疾患の発生を低下させるメリットと、乳がんの再発や新たな発生を促進する可能性のデメリットを考慮しなければならないので、問題は複雑です。
したがって、基本的には、乳がんの再発予防も目的ではアルコールは控える方が無難ですが、1日に1〜2杯程度の飲酒であれば、ストレス緩和やリラクセーション効果、血液循環の改善などのメリットもあるので、許容できると思います。ただし、抗がん剤治療中は少量の飲酒も勧められません。

【脂肪】

脂肪の摂取量と乳がん術後の生存期間との関係を調べた臨床試験がいくつか報告されていますが、その結果は試験によって異なっています。早期の乳がんの患者においては、食事の脂肪の摂取量を減らすと再発率を低下させ生存率が上がることが、大規模な臨床試験において示されています脂肪を減らすことによる再発率の低下は、エストロゲン受容体がネガティブの患者の場合にさらに効果があることが報告されています。
脂肪の総摂取量ががんの予後に影響するという確実な証拠はありませんが、脂肪の多い食事はカロリーが高くなり、肥満の原因となり、この肥満ががんの発生率を高め、乳がんの再発率をも高めます。

魚油に含まれるω3不飽和脂肪酸や、オリーブオイルやカノーラ油に含まれるオレイン酸のような単価不飽和脂肪酸、その他の多価不飽和脂肪酸が、がんの発生リスクを減らすという証拠はまだ十分ではありません。しかし、飽和脂肪酸を多く摂取すると心臓疾患が増えることが知られており、心臓疾患はがんサバイバーにとっても死亡率を高める要因になっています。
トランス型脂肪酸が血中コレステロールを高めるなど、心臓疾患に悪影響を及ぼすことが明らかになっていますが、がんの発生率や生存期間に関する影響はまだ結論が出ていません。しかしながら、がんサバイバー、特に心臓疾患のリスクの高い人は、トランス型脂肪酸の摂取は少なくするのが良いと言えます。トランス型脂肪は、マーガリンや、水素添加した油脂を含むスナック食品などがあります。

【大豆】

乳がんの発生予防における大豆の役割が注目されていますが、人間での研究では、大豆の乳がん予防効果を示す証拠は不十分です。
大豆が乳がんを予防するのではないかという興味は、米国やその他の欧米の国と比べて乳がんの発生頻度が低いアジアの国々では大豆の摂取量が多いという事実から出て来ています。いくつかの疫学的研究は、大豆の摂取量が多いと乳がんの発生頻度が低くなることを示しています。
大豆にはイソフラボンが豊富で、この大豆イソフラボンが動物実験で様々な抗がん作用を示すことが示されています。
大豆イソフラボンはエストロゲン作用と抗エストロゲン作用(エストロゲン作用を阻害する)の両面を持つため、乳がんの発生における大豆の作用に関しては多くの矛盾する結果が出されています
普通の食事から摂取されるレベルの大豆製食品も避けるべきだという意見もありますが、疫学的研究や動物実験の結果から、伝統的なアジア料理で使用されているくらいの量の大豆を食べても、乳がんの再発を促進することはないと考えられています。しかし、その程度の量が再発予防のメリットがあるかも不明です。この量というのは、豆腐や豆乳のような大豆製食品を1日3皿食べるくらいの量です。つまり、1日に3皿以内の大豆製食品は、乳がんの再発に対して、特にメリットもデメリットも無いと考えられているので、何も心配ないということです。

しかしながら、大量の大豆を摂取すると、その中に含まれているエストロゲン作用を持った成分の影響で、エストロゲン受容体陽性の乳がんの進行を早める可能性がありますので、大豆粉末や大豆イソフラボンのサプリメントを摂取しないようにすることが大切です。

培養したがん細胞や血管内皮細胞を用いた実験で、大豆イソフラボンが血管新生阻害作用やがん細胞にアポトーシス(細胞死)を誘導するという実験結果を元に、大豆イソフラボンやそれを加工したサプリメントの大量投与を勧める代替医療もあります。しかし、培養がん細胞を使った実験でこれらの効果を引き起こす濃度は極めて高く、ヒトが口から摂取しても効果は期待できないと考えるべきです。むしろ乳がんを悪化させる危険性の方が高いと言えます。

参考:CA Cancer J Clin 2006; 56:323-353
Nutrition and Physical Activity During and After Cancer Treatment: An American Cancer Society Guide for Informed Choices

追加:

中国の上海で行なわれた乳がん患者調査(Shaghai Breast Cancer Survival Study)では、手術を受けた乳がん患者5033人を追跡調査し、大豆製食品の摂取量と、死亡率や再発率との関連について検討されています。その結果が2009年に報告されています。この研究結果によると、ホルモン依存性の乳がんでも、ホルモン療法を受けている乳がん患者でも、大豆製食品を全く食べないよりは通常の量を摂取する方が再発率も死亡率も低下することが示されています。 乳がん患者における大豆製食品や大豆イソフラボンに関する最近の研究結果と考え方については以下のサイトを参照して下さい。
乳がん患者は大豆製食品をどの程度食べてよいのか?
乳がん患者の大豆イソフラボン摂取の影響:新たな事実

【抗酸化性サプリメント】

抗酸化剤は食品中にいろんな形で含まれており、細胞や組織の酸化障害を防ぐ効果があります。このような酸化障害はがんの発生の原因となりますので、抗酸化剤はがんの発生を予防すると考えられています。抗酸化物質(ビタミンCやビタミンE、カロテノイド、抗酸化作用をもつフィトケミカルなどを含む)の宝庫である野菜や果物を多く摂取している人は、ある種のがんの発生が少ないことが多くの研究で明らかになっています。
がんサバイバーは別のがんになる可能性も高いので、抗酸化成分の食品を毎日多く食べることが勧められます。
ただし、抗酸化性ビタミンやミネラルのサプリメントの摂取ががんの発生を予防することを示す研究結果はまだありません。現時点での最善のアドバイスは、サプリメントからでなく、食品から抗酸化物質を多く摂取することです。

サプリメントに含有される抗酸化物質(ビタミンCやビタミンEなど)は、通常の健康に必要な1日所要量をはるかに超えた量が含まれています。
放射線治療やある種の抗がん剤は、がん細胞に酸化障害を起こして抗がん作用を発揮しています。したがって、抗がん剤や放射線治療の最中に抗酸化性物質を含むサプリメントを多く摂取すると、治療効果を妨げる可能性があるという意見で、多くのがん専門医は放射線や抗がん剤治療中の抗酸化成分を含むサプリメントの大量摂取には反対しています。
しかし一方、このような懸念は仮説であり、むしろ放射線や抗がん剤による正常細胞や組織のダメージを防ぐ効果があって、総合的には有益な効果があるという意見もあります。
このように、抗がん剤や放射線治療中の抗酸化作用をもったサプリメントの併用が有用か有害かは、現時点ではまだ結論が出ていない問題になっています。このように不確実な状況ですので、有用性と有害性のどちらが大きいかを判断できるより強いエビデンス(証拠)が出てきて結論がでるまでは、抗がん剤や放射線治療中は、ビタミンCやEのような抗酸化性ビタミンの摂取は、健常人に推奨されている1日所要量を超えた過剰な摂取は控えておく方が良いと考えられます。

【食物繊維】

食物繊維は、人間の消化管では消化吸収されない様々な多糖類です。食物繊維には可溶性(オートブランなど)と不溶性(wheat branやセルロースなど)があります。可溶性の食物繊維は血中コレステロールレベルを低下させ、心臓疾患のリスクを低下させる効果があります。食物繊維は腸の運動や機能を高めます。
食物繊維の多い食品は、豆類、野菜、精白していない穀物、果物です。
食物繊維によるがん予防効果の根拠は乏しいのですが、食物繊維の多い食品は、食物繊維以外に、がんの発生を予防し、心臓疾患のリスクを減らすなどの他の健康作用を有する多くの成分を含んでいます。したがって、食物繊維の多い食品はがんサバイバーに推奨できます。

【砂糖】

砂糖が、がんの発生や進行を促進することを示す直接的なデータはありません。しかしながら、砂糖(蜂蜜、未精製の砂糖、黒砂糖、果糖の多いコーンシロップ、乳糖を含む)やこれらを含む飲料は、カロリーが豊富であり、体重がオーバーする原因となって、がんの進行や再発を促進する可能性があります。
さらに、糖分の多い食品や飲料は、多くの栄養素の補充には役にたちません。また、栄養素の豊富な食品の摂取を妨げる可能性もあります。したがって、砂糖の消費を制限することは推奨されます。
(追加:砂糖を多く摂取すると、インスリン様増殖因子の分泌を促進してがん細胞の増殖を促進する可能性を示唆する意見もありますので、甘いものを多く摂取するのは避けた方が良いのは確かなようです)

【肉】

赤味の肉や加工した肉を多く食べると、結腸直腸がん、前立腺がん、胃がんの発生率を高めることが、いくつかの疫学的研究によって示されています。油で揚げたり(フライ)、煮込んだり(ボイル)、焼く(グリル)のような調理法で、肉を高温で調理すると、発がん物質ができて、ある種のがんの発生率が高まることが報告されています。このような理由から、米国がん協会のガイドラインでは、赤味の肉や加工した肉の摂取を制限しています。加工肉や、高温で調理した肉、あるいは肉全体の摂取が、がんの再発や進展にどのように影響するかを判断できる十分な研究報告はまだありません。

【葉酸】

葉酸の摂取量が少ない(多くは食事からの果物、野菜、豆、穀物の摂取量が少ないことによる)と、乳がんの発生率が高くなるという意見があります。アルコールによる乳がん発生リスクの上昇は葉酸の摂取の少ない人に顕著であるという報告があるので、葉酸は乳がん発生リスクにおけるアルコールの有害作用を軽減している可能性が示唆されています。乳がんの診断を受けた女性の再発率や生存期間に葉酸が影響するという結果は得られていません。

【がんの治療中や回復期の運動】

多くの研究によって、がん治療中の運動は、安全で実施可能であり、さらに身体機能を高め、いろんな面での生活の質を改善することが報告されています。適度な運動は、倦怠感や不安を軽減し、自信を高め、心肺機能や筋力や体格を良くします
すでに運動プログラムを受けている場合、抗がん剤や放射線治療中は、一時的に運動量やペースを減らします。目標はできるかぎり運動を維持することが大切です。

がんサバイバーは、状況によっては運動することで危険な場合もあります。がん治療によって運動に付随する怪我や有害作用のリスクが高まることがあるからです。
例えば、貧血が強い場合は、貧血が良くなるまでは運動は控えます。免疫機能が低下している場合は、白血球数が安全なレベルに回復するまで、公共のジムやその他の多くの人が集まるような所に行くのは控えます。
放射線治療を受けているときは、スイミングプールでの水泳は避けます。スイミングプールには消毒のために塩素が入っていて、この塩素が皮膚を刺激するからです。
がんの診断を受ける前から運動の量が少なかった人は、最初は弱い運動から始め、少しづつ運動量を増やしていくようにします。
高齢者や骨の異常(腫瘍の骨転移や骨粗しょう症など)がある場合や、関節炎や末梢神経炎がある場合には、転倒や怪我の危険に注意して運動量を考慮します。

運動ががんの再発率を減らしたり、がん細胞の増殖速度を遅くするような効果があるかどうかはまだ判っていません。
しかしながら、体重オーバーや肥満は、多くのがんの発生を高め、いくつかのがんの再発率をたかめます。そして健康的な体重を維持する上で、運動は重要な要因になります。さらに、運動は心臓疾患や糖尿病や骨粗しょう症を防ぐ効果があります。したがって、がんサバイバーは運動を含め身体活動の活発な生活習慣を行うことが大切です。

【ビタミンやミネラルのサプリメント】

がんの治療中や治療後は、食事から十分なビタミンやミネラルの摂取が困難なことが多いので、マルチビタミン・ミネラルのサプリメントを摂取することは有益です。しかし、1日必要量の摂取で十分であり、ビタミン、ミネラルやその他のサプリメントの過剰な摂取は勧められません。いくつかの研究では、大量のサプリメントの摂取ががんの発生を促進する場合があることも報告されています。
野菜や果物から健康作用をもった成分が多く見つかっており、これらの成分はお互いに相乗作用によって有益な効果を発揮するものと考えられています。そして、サプリメントとして利用されていない食品成分のなかに、野菜や果物の再発予防効果に関連している重要な成分が存在する可能性もあります。
野菜や果物に相当する栄養成分を含むと表示されている小さな錠剤の中には、野菜や果物全体に含まれる成分の一部しか含まれていないこともしばしばあります。ビタミンやミネラルの供給源としては食品が一番です。

【調理について】

野菜と果物は、新鮮なものと、冷凍したものと、缶詰のもので栄養的な価値が異なるのは確かですが、いずれの場合も健康にはプラスになります。新鮮なものが最も栄養価値が高いと、一般的には考えられています。しかしながら、冷凍したものは、熟したものを直ぐに冷凍して製品化しているので、新鮮なものよりも栄養価値が高い場合もあります。新鮮な野菜や果物は収穫したから時間が経つと少しづつ栄養素が減少していくからです。

缶詰のものは、製品化する過程で高温で加熱する工程があるので、熱で失われる成分や水に溶け出す成分が減少しやすい欠点があります。缶詰の果物の中には濃いいシロップの中に詰められていたり、缶詰の野菜はナトリウムが多い場合もありますので注意が必要です。野菜や果物はいろんな製品を利用するのも意味があります。

調理は野菜の栄養価値に影響します。野菜を熱水で加熱した場合、特に長い時間加熱調理した場合は、水溶性のビタミンが溶出して損失してしまいます。電子レンジや蒸気での調理法が野菜の栄養成分を保持する方法として最善です。

野菜や果物をジュースにするのは、食事に多様性を与え、特に噛んだり嚥下に問題のあるがん患者の場合は推奨される方法です。ジュースにすると野菜や果物に含まれている栄養成分の吸収を高めることができます。しかしながら、ジュースは野菜や果物そのものを食べるよりも量が減り、食物繊維も減少します。特に果物のジュースは、多くを摂取するとカロリーが過剰になる可能性があります。
市販されている製品の場合は、野菜や果物が100%のジュースで、病原菌を殺菌した製品を購入すべきです。抗がん剤治療中のがん患者のように免疫力が低下している場合は、殺菌が不十分な製品は危険です。

食品の安全性はがんサバイバーにとっても重要で、特にがん治療によって免疫抑制や好中球減少の状況にある場合は、食品の安全性が問題になります。このような免疫力が低下している場合には、がん患者は感染症にかからないように特別な注意が必要で、病原菌を多く含むような不衛生な食品を摂取しないような注意が必要です。一般的な注意点として、食事の前に手を洗う、野菜や果物は十分に洗う、食品が腐らないように保存の温度に気をつける、などがあります。

【菜食主義の食事】

野菜や果物や全粒の穀物が豊富で赤味の肉の少ない雑食性の食事と比べて、菜食主義の食事ががんの再発予防において、さらにメリットがあるという直接的な証拠はありません
しかしながら、菜食主義の食事は、飽和脂肪酸が少なく、食物繊維やビタミンや植物成分が豊富であるため、米国がん協会が推奨するがん予防のための食事のガイドラインと一致するため、多くの健康作用が期待できるのは確かです。

【手術前後の注意】

どの程度サプリメントによってサポートするべきかは、手術の程度によります。
簡単な小さな手術であれば、サプリメントは不要ですが、大きな手術の場合はサプリメントでの栄養補充も有効です。
手術からの回復力を高めるためには、高品質の栄養素の補充は大切です。手術後には、ダメージを受けた組織を修復するために新しい組織を作る必要があり、傷を治すためには、さらに余分の栄養素が必要になります。
新しい細胞や組織を作ったり、病原菌に対抗して感染症を防いだり、治癒システムを十分に働かせるためには、栄養素が不足しないことが必要条件になります。もし、必要な栄養素が不足すると、回復が遅れ、様々な合併症の原因となります。

しかし、一般に乳がんの手術では、消化管の手術のような、術後の栄養吸収の問題が無いので、食事からの補給を主体にすべきです。
手術後の回復力を高めるためには、蛋白質、ビタミンA,C,マグネシウム、銅、鉄、亜鉛などのビタミン、ミネラルの不足がないように、日頃の食生活を見直す必要があります。

【柑橘類のフラボノイド】

柑橘類の皮に含まれるフラボノイドtangeretinがtamoxifenの効果を弱めることが動物実験で報告されています。まだ十分な証拠があるわけではないのですが、tamoxifenを服用中の場合は、柑橘類のフラボノイドを含むサプリメントや柑橘類の皮の油を使ったような飲料や食事は控える方が良いと言えます
また、植物に多く含まれるフラボノイドのような抗酸化物質は、抗がん剤や放射線治療の最中に摂取するのは控えます。これらの治療が終わってから再開します。

【ガンマ-リノレン酸】

Gamma-linolenic acid (ガンマ-リノレン酸がgがtamoxifenの効果を高めることが報告されています。
少人数の研究ですが、1日2.8gのガンマ-リノレン酸をtamoxifenを一緒に服用すると、tamoxifen単独の場合よりも有効性が高まったという報告があります。しかし、まだ予備試験の段階ですので、確かな根拠とは言えません。

【ビタミンE】

Tamoxifenは血中の中性脂肪やコレステロールを高める副作用がありますが、tamoxifenと一緒にビタミンCとEを摂取すると、悪玉コレステロールのLDLや中性脂肪を低下させる効果があることが、54例の乳がん患者における臨床試験で報告されています。
シスプラチンの治療にビタミンEを摂取すると末梢神経障害の頻度や程度を低下させることが報告されています。

【CoQ10】

抗がん剤による心臓毒性を予防する効果が指摘されています。1日390mgの投与によって進行した乳がんが縮小した症例が報告されています。詳細はこちらへ
 
【αリポ酸&セレン】

αリポ酸は抗酸化作用と多彩なメカニズムによる抗がん作用があります。セレンは抗酸化力と免疫力を高める効果があります。この2つを組み合わせると、抗がん剤や放射線治療の副作用軽減や抗腫瘍効果の増強、再発予防、QOL(生活の質)の改善効果が期待できます。
詳細はこちらへ

【メラトニン】

免疫力と抗酸化力を高める効果があります。1日10〜20mgの摂取でTamoxifenの効果を高めることが報告されています。抗がん剤や放射線治療の効果を高め、副作用を軽減する効果も報告されています。詳細はこちらへ

【高麗人参】

エストロゲン作用があるという報告があるため、欧米ではホルモン依存性の乳がんへの使用を警告しています。ただし、これには反対意見もあります。詳細はこちらへ

 
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