ジインドリルメタン(DIM)は前立腺がん細胞の成長を阻止する

ブロッコリーやケールなどのアブラナ科の植物や野菜には抗がん作用のある成分が多く含まれていますが、その代表的な成分がGlucobrassicin(グルコブラシシン)です。
このグルコブラシシンは加水分解して
インドール-3-カルビノール(Indole-3-carbinol, I3C)になり、さらに胃の中の酸性の条件下では、I3Cが2個重合したジインドリルメタン(3,3'-diindolylmethane, DIM)になります(下図)。

グルコブラシシン(glucobrassicin)
インドール-3-カルビノール
(Indole-3-carbinol)
ジインドリルメタン
(3,3'-diindolylmethane)

I3CとDIMは、前立腺がん細胞や乳がん細胞など多くのがん細胞の増殖を抑えたり、アポトーシス(細胞死)を引き起こすなどの直接的な抗がん作用が報告されています。
培養細胞を用いた実験では、ジインドリルメタンが強力な抗アンドロゲンとして作用し、ヒトの前立腺がん細胞の増殖を抑制することが報告されています。
さらに、エストロゲンの代謝を促進する酵素を誘導して乳がん細胞の増殖を抑える効果や、ダメージを受けたDNAを修復する酵素を誘導する作用、がん細胞の抗がん剤感受性を高める効果などが報告されています。
米国では、インドール-3-カルビノールもジインドリルメタンもどちらもサプリメントとして販売されています。

インドール-3-カルビノールは不安定で、胃の中の酸性の条件下でジインドリルメタンになります。ジインドリルメタンは消化管から容易に吸収され、体中の臓器や組織に移行することが知られています。ジインドリルメタンには強力な抗がん作用が報告されていますので、前立腺がんの予防や治療における利用が期待されています。

Synthetic dimer of indole-3-carbinol: second generation diet derived anti-cancer agent in hormone sensitive prostate cancer.(インドール-3-カルビノールの合成2量体:ホルモン依存性の前立腺がんに対する第二世代の食事由来抗がん物質)Prostate. 66(5):453-62. 2006
(要旨)アブラナ科の野菜が前立腺がんを予防する効果があることが知られている。その抗がん物質として、インドール-3-カルビノール(I3C)のようなインドールや、イソチオシアネートが知られている。I3Cは不安定なので、より安定な2量体のジインドリルメタン(DIM)の方が有用である
アンドロゲン依存性前立腺がん細胞(LNCaP)に対する抗腫瘍効果は50%増殖阻止濃度がI3Cが150μMであったのに対して、DIMは50μMであった。
DIMは増殖刺激を受けたLNCaP細胞のDNA合成と細胞分裂を抑制した。また、アンドロゲン受容体、サイクリンD1、cdk4の発現やAktのリン酸化など、細胞増殖に関わるシグナルを抑制した。
以上の結果より、
ジインドリルメタンは前立腺がんの発生予防や治療に有用な食事由来の新しい抗がん物質であることが示唆された。

Down-regulation of androgen receptor by 3,3'-diindolylmethane contributes to inhibition of cell proliferation and induction of apoptosis in both hormone-sensitive LNCaP and insensitive C4-2B prostate cancer cells.
(ホルモン依存性前立腺がん細胞LNCapとホルモン非依存性前立腺がん細胞C4-2Bの両方において、ジインドリルメタンはアンドロゲン受容体の発現を低下させることによって、細胞増殖を阻害し、アポトーシスを誘導する)
Cancer Res. 66(20):10064-72.2006
ジインドリルメタンは、前立腺癌細胞に対して、増殖抑制効果とアポトーシス誘導作用があることが報告されている
この報告ではホルモン療法に感受性のあるLNCaP細胞と、ホルモン療法に反応しないC4-2B細胞について、アンドレゲン受容体、Akt、NF-kappaBシグナル伝達系への作用を検討している。
ジインドリルメタンはLNCaPとC4-2B細胞の両方において細胞増殖を抑制し、アポトーシスを誘導した。
アンドレゲン受容体、Akt、NF-kappaBの間には相互に関連があるが、ジインドリルメタンはAkt活性とNF-kappaB結合活性とアンドロゲン受容体リン酸化を阻害し、アンドロゲン受容体とPSAの発現を低下させた。
ジインドリルメタンは、ホルモン依存性の前立腺癌細胞だけでなく、ホルモン非依存性の前立腺癌細胞に対しても抗腫瘍効果を発揮することが示された

3,3'-Diindolylmethane enhances taxotere-induced apoptosis in hormone-refractory prostate cancer cells through survivin down-regulation.(ジインドリルメタンはsurvivinの発現抑制を介して、ホルモン療法抵抗性の前立腺がん細胞に対するタキソテール誘導性のアポトーシスを促進する)Cancer Res 69:4468-4475, 2009
Survivinはアポトーシス(細胞死)の過程を阻害する蛋白質であり、前立腺の進展や抗がん剤耐性と関連している。ホルモン療法に対する抵抗性や骨転移においてsurvivinは重要な役割を果たしていると考えられ、したがって、survivinの働きを抑えることは前立腺がんの治療効果を高める可能性がある。
この研究では、
ジインドリルメタンは、前立腺がん細胞内でのsurvivinの産生を抑え、抗がん剤のタキソテールに対する感受性を高め、タキソテールの殺細胞作用を増強することを示した
ジインドリルメタンは前立腺がん細胞のホルモン受容体やNF-κB活性を低下させる作用も認められた。
以上のことから、
前立腺がんのタキソテールの抗がん剤治療にジインドリルメタンを併用すると、治療効果を高めることができることが示された。


ホソバタイセイ(生薬名:タイセイヨウ)に前立腺がんに有効なグルコブラシシンが豊富に含まれる

【ホソバタイセイとは】
ホソバタイセイ(Isatis tinctoria)は,古代のブリトン人とケルト人が戦争に出陣するときの化粧の青色顔料として用いていたアブラナ科の植物です。日本でも、藍染めの原料として知られていますが、化学染料の出現とともに栽培がすたれてきています。
薬草としては、抗菌作用や抗ウイルス作用が認められており、漢方では「
大青葉(タイセイヨウ)」という生薬名で、清熱涼血・解毒の効能があり、高熱や発疹を伴う感染症、たとえば麻疹、流感、肝炎、脳炎、急性腸炎、肺炎、丹毒などの疾患に用いられています。

イタリアのボローニャ大学のStefania Galletti氏らの研究チームは,ホソバタイセイに抗がん化合物グルコブラシシンが豊富に含まれていることを確認し,Journal of the Science of Food and Agriculture(2006; 86: 1833-1838)に発表しています。この化合物を含む植物として、従来、ブロッコリーがその代表でした。
この報告では、
ホソバタイセイには、同じアブラナ科に属すブロッコリーに比べ,グルコブラシシン(Glucobrassicin)の含有量が20倍も豊富であることを確認しています。このグルコブラシシンは特に前立腺がんや乳がんに効果があることが知られています。

【グルコブラシシンは植物が生体防御に利用している】
植物は病原菌からの感染や、動物から食べられるのを防ぐために、生体防御物質や毒になるものをもっています。グルコブラシシンはホソバタイセイが病原菌の感染から身を守るために作られていることが推測されています。つまり、ホソバタイセイの葉に病原性ウイルスを感染させたり、機械的に傷をつけるとグルコブラシシンが多く作られてくることから、グルコブラシシンはホソバタイセイの生体防御に作用していると考えられているのです。

このような物質は、人間でも抗菌作用や抗ウイルス作用が期待できます。また、抗菌・抗ウイルス作用をもった成分の中には抗がん作用を示すものもあります。
実際、植物から見つかる抗がん物質の多くは、植物が自分を守るための生体防御成分のことが多いのです。つまり、植物が自分の生体防御の為に持っている成分は、人間の病気を治したり、生体防御力を高める薬効が期待できるのです。

銀座東京クリニックでは、ジインドリルメタンのサプリメントを処方しています。1ヶ月分が9000円(税込み)です。また、前立腺がんの漢方治療では、グルコブラシシンを多く含むホソバタイセイやその他の抗がん生薬を使った漢方薬(煎じ薬)を処方しています。

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