がん細胞の抗がん剤感受性を高める方法

【「がん細胞の抗がん剤感受性を高める方法」が必要なわけ】

急性白血病や悪性リンパ腫のような血液がんの場合は、抗がん剤治療で治る場合があります。血液がんに対する抗がん剤治療の成功をもとに、固形がんでも全身に転移して手術や放射線治療の適応にならない場合の治療法として抗がん剤治療が行われるようになりました。

しかし、血液がんほどの効果が認められないという現実に直面することになりました。その理由は、塊を作る固形がんは、急性白血病や悪性リンパ腫のような血液がんとは異なる様々な理由があって、抗がん剤が効きにくくなっているからです。

例えば、急性白血病や悪性リンパ腫は腫瘍細胞の性質が均一で、細胞分裂の頻度が高いので、副作用が耐えられるギリギリの高用量の抗がん剤を投与したり、骨髄移植を併用する高用量の抗がん剤治療によって、がん幹細胞を含めて腫瘍細胞を全滅することができます。
しかし、塊を作って、血液循環が不十分な部位がある(抗がん剤が到達しにくい)固形がんの場合は、高濃度の抗がん剤治療を行っても、がん幹細胞が生き残る可能性が高いといえます。 また、がん組織自体が酸性化している固形がんや低酸素のがん組織には、抗がん剤が効きにくいという理由もあります。 

通常の抗がん剤治療は、副作用が耐えられる最大量を投与してがん細胞を短期間で死滅させる方法が基本になっています。抗がん剤に対する耐性が出てくる前に短期間にがん細胞を全滅させる方が良いと考えるからです。
急性白血病や悪性リンパ腫ではこの方法が有効です。
しかし、固形がんの場合は、この方法は必ずしも有効ではありません。
精巣腫瘍や小細胞性肺がんのように抗がん剤治療が著効を示す固形がんもありますが、多くの固形がん(肺がんや膵臓がんや胃がんなど)に対しては、抗がん剤の効き目は限定的です。

その理由は、前述のような短期決戦にもっていっても、血液がんと違って固形がんは抗がん剤が効きにくいからです。
 元来、抗がん剤治療は手術や放射線治療ができない急性白血病や悪性リンパ腫に対して開発された治療法で、それをそのまま固形がんに応用した点に無理があるのかもしれません。
しかし、なぜ効かないかという理由が判れば、それを解決すれば、抗がん剤治療が固形がんにも効くことになります。
つまり、「固形がんにおける抗がん剤感受性を高める」ことができれば、がん治療の問題点の多くが解決できることになります。

がん治療における問題の多くは、「固形がんに対する抗がん剤治療の有効性が低い」ことと「抗がん剤治療の副作用がきつい」ことの2点に起因していて、これを解決することが、がんの補完・代替医療の最大の目的になっています。
 「抗がん剤は効かない」「副作用で苦しむ」と否定や拒否をするより、「抗がん剤が効く方法や副作用を軽減する方法を見つけて、実践する」ことがより建設的だと思います。

【抗がん剤を投与するとその抗がん剤に耐性の細胞が生き残る】

がん細胞を死滅させる抗がん剤治療はがんの増大を防ぐ主要な手段です。 しかし、高用量の抗がん剤投与によって最初は腫瘍の増大を抑えても、次第に抗がん剤に抵抗性のがん細胞が増えて、抗がん剤でがんの増大を抑えることができなくなります。
例えば白金製剤のシスプラチンは多くのがんの治療に使われています。 シスプラチンは2つの塩素原子部位でDNAと結合するため、DNA鎖内に架橋が形成され、DNA複製を阻害し、細胞分裂しているがん細胞および正常細胞を死滅させます。
最初は良く効いてがんが縮小するのですが、抗がん剤治療を継続していると次第にシスプラチンに抵抗性のがん細胞が増えていきます。 抗がん剤を始める前から、そのがん組織にはシスプラチンに感受性の細胞と抵抗性の細胞が存在し、シスプラチンの投与によって、シスプラチン感受性のがん細胞が死滅し、シスプラチン抵抗性のがん細胞が生き残り、次第にシスプラチン抵抗性のがん細胞が増えるために、次第に抗がん剤が効かなくなります。(図1)

がん細胞のシスプラチン抵抗性

図1:抗がん剤治療前のがん組織のがん細胞は薬剤耐性の程度において不均一で、薬剤耐性の低いがん細胞や高いがん細胞が混在している(①)。抗がん剤のシスプラチン投与を行うと、シスプラチンに感受性のがん細胞は死滅するが、耐性のがん細胞は生き残る(②)。生き残ったがん細胞は増殖してがんは再発する(③)。さらにシスプラチンを投与しても、がん細胞は死滅せずにさらにシスプラチン耐性細胞の比率は増し、がん組織は増大する(④)。

シスプラチン投与がシスプラチン耐性がん細胞を増やすというのはダーウィンの進化論と同じです。シスプラチンで死滅する細胞は自然淘汰されて子孫を残さずに滅び、シスプラチンに抵抗性のがん細胞だけが選択的に生き残ります。 抗がん剤治療ががん細胞の進化の選択圧として働きます。
抗がん剤治療が始まれば、がん細胞間で生存競争が開始されます。 抗がん剤を使用すると抗がん剤に抵抗性の細胞を生き残らせるという強い選択圧が加わります。 通常の抗がん剤治療は、薬剤耐性の出現と成長を促進するという欠点を持っています。

【がん細胞は様々なメカニズムで抗がん剤耐性を獲得する】

がん研究では、「がん細胞の抗がん剤感受性を高める方法」は重要な領域であり、基礎研究や臨床試験で多くの研究結果が報告されています。 「抗がん剤感受性を高める」というのは抗がん剤の効き目を高める方法です
単純に抗がん剤治療だけを実施しても、その効果には限界があります。一般的に、固形がんに対しては抗がん剤だけではがん細胞を消滅できません
さらに、抗がん剤を使い続けていると、いつか効かなくなるときが来ます。がん細胞がその抗がん剤に耐性を獲得するためです。
例えば肺腺がんで分子標的薬のチロシンキナーゼ阻害剤(イレッサ、タルセバなど)が効いても、多くは10から14ヶ月程度で効かなくなります。 通常の殺細胞作用を持った抗がん剤治療も、数ヶ月から1年もすれば効かなくなってきます。
がん細胞が抗がん剤でダメージを受けると、いろんなメカニズムを使って生き残る手段を獲得してきます。 治療前からがん組織の中に耐性細胞が存在する内因性(intrinsic)の原因だけでなく、抗がん剤治療が薬剤耐性の性質を亢進する獲得性(acquired)の抗がん剤耐性もあります。
抗がん剤を細胞の外に排出するポンプの作用を持つ蛋白質の合成を増加させたり、抗がん剤を不活化させる物質や薬の目標になる蛋白質を増産させて薬剤の作用を妨害します。抗がん剤の攻撃目標がDNAであれば、DNA修復を促進することにより細胞死を阻止しようとします。
多くの抗がん剤は細胞のアポトーシスを引き起こすことによって効果を発揮します。細胞には自ら細胞死を実行するプログラムが内在しており、細胞が傷付くとこのプログラムによって死にます。この細胞死をアポトーシスといいます。がん細胞はいろんな機序によってアポトーシスに対する抵抗性を獲得していきます。細胞死が起きにくくなるというアポト−シス耐性の獲得も抗がん剤耐性の重要なメカニズムです(図2)。

抗がん剤耐性のメカニズム

図2:がん細胞は様々なメカニズムで抗がん剤の効き目を弱めている。例えば、抗がん剤の分解や代謝による不活性化の促進(①)、排出ポンプを増やして抗がん剤を細胞外への排出の促進(②)、抗がん剤のターゲット分子の増産(③)、アポトーシスに抵抗性になるBcl-2サブファミリーのタンパク質を増やしたり、アポトーシスを誘導するBaxサブファミリーの活性を抑制して細胞死に対する抵抗性の獲得(④)、ダメージを受けたDNAなど細胞成分の修復の促進(⑤)、など多くのメカニズムが知られている。

【抗がん剤耐性になるにはエネルギーが必要】

一般に、抗がん剤抵抗性のがん細胞は増殖が遅いことが知られています。抗がん剤に抵抗性の機序を働かせるのに余分なエネルギーと物質合成が必要だからです。

例えば、抗酸化力を高めることによって抗がん剤抵抗性になりますが、この抗酸化システムを高めるには余分なエネルギー(ATP)消費物質合成(グルタチオンや抗酸化酵素などの産生)が必要です。
したがって、抗がん剤感受性を高める方法の第一は、がん細胞のエネルギー産生を低下させることです。がん細胞は解糖系の代謝が亢進しています。解糖系を阻害する2-デオキシ-D-グルコースとミトコンドリアのATP産生を阻害するメトホルミンの併用はがん細胞のエネルギー産生を阻止して、抗がん剤治療や放射線治療の効き目を高めます。

【メトホルミンはミトコンドリアの呼吸酵素複合体Iを阻害する】

メトホルミン(metformin)は、世界中で1億人以上の2型糖尿病患者に使われているビグアナイド系経口血糖降下剤です。 ビグアナイド剤は、中東原産のマメ科のガレガ(Galega officinalis)から1920年代に見つかったグアニジン誘導体から開発された薬です。ガレガは古くから、糖尿病と思われる病気(口渇や多尿)の治療に経験的に使われ有効性が認められており、その関係でこのガレガから血糖降下作用のあるビグアナイドが発見されました。
メトホルミンは、ミトコンドリアの呼吸鎖の最初のステップである呼吸酵素複合体Iを阻害することが明らかになっています。その結果、ミトコンドリアでのATP産生が減少し、AMP:ATPの比が上昇し、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)が活性化されます。活性化したAMPKは、肝臓の糖新生を抑制し、解糖を亢進し、骨格筋でのグルコース利用を促進して血糖を低下させます。AMPKはインスリン感受性を高めるので、少ないインスリンで血糖をコントロールできるようになります。インスリンは老化と発がんを促進し、がん細胞の増殖を促進するので、糖尿病でない人でも抗老化とがん予防の目的で服用している人もいます。 すなわち、メトホルミンの血糖降下作用はミトコンドリアにおけるATP産生の阻害によって体内のATP量が減少するためです。体はATPを増やすために、グルコースの分解(異化)を促進し、糖新生(同化)を抑制するので、血糖が低下します。運動でATPが減少してAMPKが活性化されるのと同じメカニズムです。ATP産生が減少するのでAMPKが活性化します。
このメトホルミンの呼吸酵素阻害作用は、がん細胞において活性酸素の産生を増やす目的でがん治療への応用が検討されています

メトホルミンの抗がん作用

図3:メトホルミンはミトコンドリアの呼吸酵素複合体1を阻害する(①)。その結果、ATP産生が減少してエネルギー低下によって増殖や抑制される(②)。呼吸鎖の阻害によってミトコンドリアでの活性酸素の産生が増え、酸化ストレスで細胞は障害される(③)。

【2-デオキシ-D-グルコースは解糖系を阻害する】

2-デオキシ-D-グルコース(2-Deoxy-D-glucose)は、グルコース(ブドウ糖)の2位の水酸基(OH)が水素原子(H)に置換された物質(グルコース誘導体)です。 2-デオキシグルコース(2-DG)はグルコースと同じようにグルコース輸送体(グルコース・トランスポーター)のGLUT1を利用して細胞内に取り込まれます。

グルコースと2-DGは細胞内に入るとヘキソキナーゼによってリン酸化され、グルコース-6-リン酸あるいは2-デオキシ-D-グルコース-6-リン酸(2-DG-6-リン酸)に変換されます。リン酸化されるとグルコース・トランスポーターを通過できないため細胞外へ出れなくなります。
このヘキソキナーゼによる6位のリン酸化は解糖系によるブドウ糖(グルコース)の代謝の最初のステップで、細胞内に取込んだブドウ糖を細胞内にとどめておく目的があります。リン酸化反応後は、グルコース-6-リン酸はさらに解糖系で代謝されてエネルギー産生に使われ、ペントース・リン酸経路で核酸などの物質合成の材料としても利用されます。

しかし、2-DG-6-リン酸は、解糖系酵素で代謝できないため、細胞内に蓄積します。グルコース-6-リン酸や2-DG-6-リン酸を脱リン酸化するフォスファターゼが糖新生を行う肝臓や腎臓の細胞にはありますが、多くのがん細胞はフォスファターゼの活性が低いので、一旦入った2-DGは2-DG-6-リン酸に変換されたあとは細胞外に出ることができず、さらにそれ以上代謝されることもできないので、2-DG-6-リン酸の状態でどんどん蓄積します。

2-DGによってエネルギー産生が低下するとそのストレス応答によってグルコーストランスポーターの発現がさらに増え、2-DGの取り込みをさらに増やすことにもなります。したがって、がん細胞は正常細胞に比べてより2-DGの取込みが増えます。
細胞内で蓄積した2-DG-6-リン酸はヘキソキナーゼとヘキソース・フォスフェート・イソメラーゼを阻害します(拮抗阻害)。したがって、2-DGを経口摂取すると、がん細胞に多く取り込まれ、がん細胞の解糖系を阻害するので、グルコース(ブドウ糖)の代謝によるエネルギー産生と物質合成を阻害することになります。
2-DGががん細胞内に多くトラップされることを利用した検査法がPETです。PETは「ポジトロン・エミッション・トモグラフィー(Positron Emission Tomography)」の略で、日本語では陽電子放射線断層撮影といいます。

2-DGの2位の水素原子(つまり、グルコースの2位のOH基)を陽電子放出同位体フッ素18(18F)で置換された18F-フルオロデオキシグルコース(FDG)という薬剤を注射した後、それをPET装置で撮影し、FDGの集まり方を画像化して診断するものです。
多くのがんは、グルコース取り込みおよびヘキソキナーゼレベルが上昇しているため、がん細胞にFDGが集まるのです。 2-DGはがん細胞に優先的に取り込まれ、解糖系やペントース・リン酸経路を阻害して、がん細胞を内部から崩壊させることができるのです

2-デオキシグルコースの抗がん作用

図4:2-デオキシ-D-グルコース(2-Deoxy-D-glucose)は、グルコース(ブドウ糖)の2位の水酸基(OH)が水素原子(H)に置換された物質(グルコース誘導体)で、がん細胞はグルコースの取込みが多く、2-DGの取込みも多い(①)。2-DGががん細胞内に多く取り込まれることを利用した検査法がPET(Positron Emission Tomography)(②)。2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)はグルコース・トランスポーター(GLUT1)によって細胞内に取り込まれる(③)。がん細胞はGLUT1の発現量が増え、グルコースと同時に2-DGも多く取り込む。2-DGはヘキソキナーゼで2-DG-6-リン酸(2-DG-6-PO4)に変換されるが、それ以上代謝されない(④)。がん細胞はフォスファターゼの活性が低いので、2-DG-6-リン酸ががん細胞内に蓄積する(⑤)。2-DG-6-リン酸はヘキソキナーゼをフィードバック阻害(アロステリック阻害)するので、 2-DG-6-リン酸を取り込んだがん細胞はグルコースの解糖系での代謝が阻害される(⑥)。その結果、がん細胞のエネルギー産生と物質合成は阻害されることになり、ATPが枯渇する(⑦)。2-DGは小胞体でのタンパク質のN-グリコシル化(糖鎖の結合による修飾)を阻害し、折り畳みの不完全な異常タンパク質(unfolded protein)を増やして小胞体ストレスを引き起こす(⑧)。その結果、がん細胞は死滅しやすくなり、抗がん剤感受性が亢進する(⑨)。

2-DGががん細胞の増殖を抑制する効果が指摘されたのは1950年代です。「細胞のエネルギー源であるグルコースの誘導体を取り込ませれば、がん細胞の増殖を抑制できる」というアイデアは、もう60年も前に研究されており、グルコースの誘導体の抗腫瘍活性が検討され、2-DGに強い抗腫瘍効果があることが証明されています。 

しかし、2-DGを使ったがん治療は、その後あまり注目されなかったようです。その理由の一つは、がんの治療においては、「強い毒性をもった化合物を使ってがん細胞を一掃するような治療法」が1950年代以降は主流になっていたからだと思われます。そのため、「エネルギー産生経路を阻害してがん細胞の増殖を低下させる」というようなアイデアは注目されなかったのかもしれません。 

しかし、ワールブルグ効果が再評価されるようになり、がん細胞のエネルギー産生と物質合成を阻害する方法として、2-DGにも注目が集まるようになり、多くの動物実験で抗腫瘍効果が証明され、人間での臨床試験も実施されるようになったということです。

【2-デオキシ-D-グルコースは抗がん剤治療や放射線治療の効き目を高める】

2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)はがん細胞の解糖系を阻害するので、がん細胞の増殖速度を低下させる効果がありますが、2-DG単独ではがん細胞を死滅させる作用は弱いと言わざるをえません。今まで、動物実験や人間での研究が報告されていますが、2-DGの投与だけでは十分な抗腫瘍効果は得られていません。がん細胞のブドウ糖を完全に枯渇させることが現実的に困難だからです。
  
しかし、がん細胞のエネルギー産生や物質合成の経路を阻害すると、抗がん剤や放射線に対するがん細胞の感受性が高まります。抗がん剤治療や放射線治療の時に2-DGを服用すると、それらの抗腫瘍効果を高めることが多くの臨床試験で確認されています。  
抗がん剤との併用において1日体重1kg当たり40~60mg程度の投与量で臨床試験が行われています。長期投与の安全性は十分に検討されていないため、がんの再発予防の目的ではまだ推奨できませんが、進行がんの治療の目的で抗がん剤などとの併用など短期間の使用に関しては問題無いようです。 
  
2DGとグルコース(ブドウ糖)が競合してがん細胞のエネルギー代謝を阻害するため、糖質制限でグルコースの摂取量を減らせば、2DGは少ない量で阻害作用を発揮できます。  
就寝時は筋肉や心臓や脳の働きが低下して血流やグルコースの取込みが減ります。そのため、2-DGを就寝前に服用すると、最も抗腫瘍効果が高まります。  
2-DGの毒性に関しては、マウスの実験では50%致死量は2g/kg以上という報告があります。(Cent Eur J Biol. 5:739–748. 2010年) 人での検討では200mg/kgくらいまでは投与できるという報告があります。
  
最も多い副作用は高血糖です。2-DGは細胞内のグルコースの濃度を低下させます。脳の視床下部の神経細胞が細胞内グルコースの低下を感知すると、低血糖状態と勘違いして、脳下垂体のホルモン分泌を制御して血糖を高めるホルモンや伝達物質を出すようになるため高血糖になるようです。食事からの糖質摂取を減らすケトン食や肝臓の糖新生を阻害するメトホルミンを併用すると高血糖を避けることができます。 一方、服用量が多いと低血糖のような症状(倦怠感や脱力)を感じます。がん細胞の多く取込まれるため、低血糖症状が起こらないレベルで服用量を調節することが重要です。

2-DGは正常細胞を抗がん剤や放射線のダメージから保護する

2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)はがん細胞の解糖系を阻害するので、がん細胞の増殖速度を低下させる効果があります。 がん細胞のエネルギー産生や物質合成の経路を阻害すると、抗がん剤や放射線に対するがん細胞の感受性が高まります。
2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)は抗がん剤や放射線に対するがん細胞の感受性を高めるだけでなく、抗がん剤や放射線による正常細胞のダメージを軽減する効果があるという報告があります。以下のような報告があります。

Protection of normal cells and tissues during radio- and chemosensitization of tumors by 2-deoxy-D-glucose. (2-デオキシ-D-グルコースはがん組織の放射線感受性と抗がん剤感受性を高め、正常細胞と組織のダメージを軽減する)J Cancer Res Ther. 2009 Sep;5 Suppl 1:S32-5.

がん細胞は正常細胞に比べてグルコース(ブドウ糖)の取込みが多く、ATP産生や細胞分裂するための物質合成に大量のグルコースを必要としています。したがって、グルコースの取込みや利用を妨げれば、ATP産生や物質合成が低下し、抗がん剤や放射線治療の効き目が高くなります。
 がん細胞はグルコーストランスポーターを多く発現しているので、2-DGの取込みも多く、2-DGによるグルコース代謝の阻害作用が著明に現れます。 培養細胞を使った実験や動物にがん細胞を移植した動物実験で、2-DGを投与すると抗がん剤や放射線治療の治療効果が高まることが多くの実験系で確認されています。
 さらに動物実験で、2-DGが脳や心臓に対する抗がん剤や放射線のダメージを軽減する作用が認められています。その作用機序についてはまだ十分に解明されていませんが、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化やオートファジーの阻害など複数のメカニズムが示唆されています。
以下のような論文があります。

Caloric restriction mimetic 2-deoxyglucose antagonizes doxorubicin-induced cardiomyocyte death by multiple mechanisms.(カロリー制限と同様の作用がある2-デオキシグルコースはドキソルビシンによる心筋細胞死を複数のメカニズムで阻止する)J Biol Chem. 2011 Jun 24;286(25):21993-2006.

食事からのカロリー摂取を減らすカロリー制限が心血管系の健康状態を良くすることが知られています。グルコース類縁物質の2-デオキシ-D-グルコースはカロリー制限と同様の作用を示すことが複数の動物実験で報告されています。

この論文では、抗がん剤で副作用として心筋障害を引き起こすドキソルビシンの投与で引き起こされる心筋細胞死に対して2-DGが抑制作用を示すかどうかを検討しています。実験の結果、2-DGはドキソルビシンで誘導される心筋細胞のダメージや細胞死を阻止することが示されています。
2-DGは様々なメカニズムで抗腫瘍作用を示し、特に抗がん剤や放射線治療との併用で、抗腫瘍効果を高めるだけでなく、正常細胞を保護する作用もあるので、がん治療の補完として利用価値は高いと言えます

がん細胞の酸化ストレスを高めると死滅しやすくなる

がん細胞では酸素が十分に存在する場合でも、解糖系でのグルコース代謝が亢進して、相対的にミトコンドリアでの酸化的リン酸化は抑制されています。その結果、乳酸の産生が増えています。これを好気性解糖あるいはワールブルグ効果と言います。
ミトコンドリアでの酸化的リン酸化を抑えているのは、活性酸素の害を減らしたいからです。 しかし、それでもミトコンドリアでの酸化的リン酸化によるエネルギー産生は起こっています。一般的に、増殖の早いがん細胞では、ATP産生の50%以上が解糖系で産生されると言われています。
がん細胞はミトコンドリア機能にいろんな異常があるので、正常細胞に比べて活性酸素が発生しやすくなっています。そこで、がん細胞は酸化ストレスを軽減するために、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化を抑え、細胞に備わった抗酸化システムを亢進しています
多くの抗がん剤治療によって引き起こされる細胞死(アポトーシス)は、全てではないにしてもそのほとんどは活性酸素種によって引き起こされる可能性が示されています。放射線照射が活性酸素種の産生によってアポトーシスを誘導するのと同じように、多くの抗がん剤も最終的には活性酸素種を産生することによってアポトーシスを誘導しているのです。
多くの抗がん剤ががん細胞にアポトーシスを誘導する共通のメカニズムとして活性酸素を使っているということは、なぜ抗がん剤に抵抗性のがん細胞は放射線治療も同様に抵抗性になるかという理由を説明しています。
このような活性酸素種を産生させてがん細胞を死滅させるときに抗酸化剤のN-アセチルシステインやグルタチオンを同時に投与すると、活性酸素によるがん細胞の死滅は起こらなくなります。
したがって、抗がん剤や放射線治療の効き目を高める方法として、ミトコンドリアでの活性酸素の量を増やす方法(呼吸酵素複合体-Iの阻害+酸化的リン酸化の活性化)と抗酸化システム(グルタチオン、チオレドキシンなど)を阻害する方法を組み合せることが有用であることが理解できます

電子伝達系(呼吸鎖)からの漏れが活性酸素種の量を高めている

ミトコンドリアにおける電子伝達系(呼吸鎖)においてATPが産生されるとき、必然的に活性酸素種(スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシラジカルなど)が発生します。 ミトコンドリアのTCA回路によりNADHやFADH2の形で捕捉された水素は,ミトコンドリアにおいて,一連の酵素系(呼吸鎖複合体 I~IV)とATP合成酵素(呼吸鎖複合体Vとも言う)の連鎖を経て,最終受容体である酸素(O2)に渡されて水(H2O)になります。
複合体 I~IVの段階は,ミトコンドリア内膜のタンパク質や補酵素間で電子のやり取りが起こる過程であるため電子伝達系(呼吸鎖)と呼ばれます。 電子伝達系によってミトコンドリアマトリックスから膜間空間にプロトン(水素イオン)がくみ出され、輸送されたプロトンによってミトコンドリア内膜の内外にΔΨと呼ばれる電気化学的ポテンシャル(プロトンによって生じる電荷の差)が作り出されます。マトリックス側に戻るプロトンの駆動力を利用してATP合成酵素がADPと無機リン酸からATPを合成します。これを酸化的リン酸化と言います。
ミトコンドリアの呼吸鎖や酸化的リン酸化の過程が阻害されると、プロトン(水素イオン)がうっ滞して、ミトコンドリアからの活性酸素種の産生が増加します。メトホルミンは呼吸酵素複合体Iを阻害して、ミトコンドリアからの活性酸素の発生を増やす作用が報告されています。

電子伝達系と活性酸素

図5:電子伝達の際に、呼吸酵素複合体Iや複合体IIIから漏れ出した電子によって、酸素分子が一電子還元され、スーパーオキシド(O2-)が発生する。ミトコンドリアで消費される酸素の1〜3%が活性酸素種に変換されると推測されている。


呼吸酵素複合体と活性酸素

図6:呼吸酵素複合体のIとIIIでスーパーオキシド(O2-)が産生される。スーパーオキシドはスーパーオキシド・ディスムターゼ(SOD)によって過酸化水素(H2O2)に変換される。過酸化水素の一部はFenton/ Haber-Weiss反応によってヒドロキシルラジカル(Hydroxyl radical)に変換される。

がん細胞ではピルビン酸脱水素酵素キナーゼの活性が亢進している

がん細胞の代謝の特徴である「解糖系の亢進とミトコンドリアでの酸化的リン酸化の抑制」という、いわゆるワールブルグ効果を根本で制御しているのが低酸素誘導因子-1(Hypoxia-inducible Factor-1:HIF-1)という転写因子です。  
転写因子というのは特定の遺伝子の発現(DNAの情報をメッセンジャーRNAに変換すること)を調節している蛋白質です。HIF-1のターゲット遺伝子は100種類以上知られており、エネルギー代謝、血管新生、細胞増殖、アポトーシスなど細胞の機能と深く関連している遺伝子の発現を制御しています。  
HIF-1は細胞が低酸素状態におかれると活性化してきます。したがって、酸素が十分に利用できる状況で細胞分裂している正常細胞では必要がない転写因子です。
  
一方、多くのがん細胞では、低酸素状態であってもなくてもHIF-1の活性が亢進しています。急速に増大するがん組織の中で、がん細胞は常に低酸素や低栄養による細胞死の危険にさらされています。そこで、低酸素や低栄養による細胞死を起こさないようにするメカニズムとしてがん細胞はHIF-1活性を高めています。
これは、HIF-1活性が亢進しているほど、がん細胞は低酸素や低栄養で生存できる(死ににくい)ということを意味しています。  
がん細胞では、遺伝子変異などによって増殖のシグナル伝達系が恒常的に亢進しており、その結果としてHIF-1の活性が恒常的に亢進しています。
つまり、酸素があっても、あたかも低酸素のような代謝を行っているわけです
ピルビン酸脱水素酵素キナーゼピルビン酸脱水素酵素(ピルビン酸からアセチルCoAへの変換する酵素)をリン酸化して活性を低下させます。HIF-1はピルビン酸脱水素酵素キナーゼの発現を促進し、さらにピルビン酸から乳酸への嫌気性解糖系に働く乳酸脱水素酵素(LDH)の発現を促進する作用があります。 つまり、HIF-1はピルビン酸からアセチルCoAへの変換を阻害してTCA回路と酸化的リン酸化での代謝を抑制し、嫌気性解糖系(ピルビン酸から乳酸の変換)を亢進します。解糖系の途中のブドウ糖の代謝産物から核酸や脂肪酸やアミノ酸の合成を促進する作用もあります。  
正常細胞ではHIF-1は低酸素になったときしか活性化されませんが、がん細胞では増殖シグナルの異常などによってHIF-1は恒常的に活性化し、酸素がある状況でも酸素が無い状態と同じ代謝を行うため、がん細胞では解糖系が亢進し、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化が抑制されています。
  
がん細胞で活性化されているHIF-1は、がん細胞における乳酸脱水素酵素の産生を高めます。また、HIF-1はピルビン酸脱水素酵素の活性を阻害するピルビン酸脱水素酵素キナーゼの遺伝子発現を促進します。
したがって、がん細胞では、HIF-1の発現亢進によって、TCA回路へいく経路が遮断され、嫌気性解糖系の亢進によって乳酸が大量に産生される代謝が亢進しています。  
複雑なメカニズムですが、HIF-1の活性亢進はがん細胞の代謝異常の中心になっているので、代謝をターゲットにしたがん治療法の理解に役立ちます。(図7)

低酸素誘導因子-1

図7:低酸素や増殖シグナル伝達系(PI3K/Akt/mTOR)の活性亢進によって低酸素誘導因子-1(HIF-1)の発現と活性が亢進する(①)。HIF-1は細胞核のDNAに作用して、がん細胞の増殖や転移を促進する様々な遺伝子の発現を亢進する(②)。HIF-1は解糖系酵素(ヘキソキナーゼなど)や乳酸脱水素酵素の発現を亢進して解糖系の代謝を亢進する(③)。HIF-1はピルビン酸脱水素酵素キナーゼの発現を誘導する(④)。このキナーゼはピルビン酸脱水素酵素を阻害する(⑤)。したがって、HIF-1の活性亢進によってミトコンドリアでの酸化的リン酸化が抑制される(⑥)。つまり、がん細胞における解糖系亢進とミトコンドリアでの酸化的リン酸化の抑制はHIF-1の活性亢進によってもたらされている。

ジクロロ酢酸ナトリウムはピルビン酸脱水素酵素キナーゼを阻害する

ジクロロ酢酸ナトリウム(sodium dichloroacetate)は酢酸(CH3COOH)のメチル基(CH3)の2つの水素原子が塩素原子(Cl)に置き換わったジクロロ酢酸(CHCl2COOH)のナトリウム塩です。構造式はCHCl2COONaになります。  
ジクロロ酢酸ナトリウムはピルビン酸脱水素酵素キナーゼを阻害することによってピルビン酸脱水素酵素の活性を高める作用があります。ミトコンドリアの異常による代謝性疾患、乳酸アシドーシス、心臓や脳の虚血性疾患の治療などに、医薬品として古くから使用されています。  
前述のようにがん細胞ではHIF-1の活性亢進によってピルビン酸脱水素酵素キナーゼの活性が亢進し、ピルビン酸脱水素酵素の活性が低下し、ピルビン酸からアセチルCoAへの変換が阻止されているため、ミトコンドリアでのエネルギー産生が低下しています。  
そこで、
ジクロロ酢酸ナトリウムでがん細胞のピルビン酸脱水素酵素を活性化して、ピルビン酸からアセチルCoAへの変換を促進してTCA回路を回せば、乳酸の産生が抑えられます。さらに、酸化的リン酸化の過程で活性酸素の産生が増え、酸化ストレスの増大によってがん細胞を死滅できるという作用機序が報告されています(図8)。

ジクロロ酢酸ナトリウムの抗がん作用

図8:低酸素誘導因子-1(HIF-1)はピルビン酸脱水素酵素キナーゼの発現を誘導して(①)、ピルビン酸脱水素酵素(ピルビン酸をアセチルCoAに変換する)の働きを阻害するので(②)、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化によるATP産生が抑制されている。ジクロロ酢酸ナトリウムはピルビン酸脱水素酵素キナーゼの活性を阻害することによってピルビン酸脱水素酵素の活性を高め(③)、R体αリポ酸とビタミンB1はピルビン酸脱水素酵素の補因子として働き(④)、ピルビン酸脱水素酵素の活性を高めてピルビン酸からアセチルCoAの変換を促進し、TCA回路での代謝と酸化的リン酸化を亢進する(⑤)。ミトコンドリアでの酸化的リン酸化が亢進すると、活性酸素の産生が増え、乳酸産生が減少し、アポトーシスが起こりやすくなって、抗がん剤感受性が亢進する(⑥)。

がん細胞では活性酸素の発生を減らして死ににくくするために、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化を抑制しています。ジクロロ酢酸ナトリウムでがん細胞のミトコンドリアでの代謝を促進して活性酸素の産生を増やすと抗がん剤で死にやすくなります。 ジクロロ酢酸ナトリウム単独でもがん細胞が死滅することが培養細胞や動物実験で明らかになっています。
ミトコンドリアでの活性酸素の産生量を増やしたくらいでがん細胞が本当に死滅するのかという疑問が出るかもしれませんが、ミトコンドリアは細胞の重量の10%以上を占めるくらい大量に存在するので、ミトコンドリアで一斉に酸化的リン酸化が亢進すれば細胞を死滅させることができると考えられています。
培養がん細胞や動物移植腫瘍を用いた実験でジクロロ酢酸ナトリウムの抗腫瘍作用は証明されています。臨床試験でも有効性が報告されており、がんの代替医療では利用する患者さんが増えています。 ジクロロ酢酸が抗がん剤耐性を減弱することが多く報告されています。
人間の場合、1日体重1kg当たり10〜15mgを水に溶解して服用します。ピルビン酸脱水素酵素が活性化すると、この酵素の補因子であるビタミンB1とR体αリポ酸を消耗するのでビタミンB1とR 体αリポ酸の補充が副作用予防と効果増強に必要です。

R体αリポ酸とピルビン酸脱水素酵素

図9:αリポ酸にはR体とS体という2種類の光学異性体(鏡像異性体)が存在する。体内で生成されるαリポ酸はR体のみで、S体は天然には存在しない。しかし、αリポ酸を人工的に合成するとR体50%、S体50%のラセミ体ができる。ピルビン酸脱水素酵素を活性化する作用はR体のみで、逆にS体のαリポ酸はピルビン酸脱水素酵素の活性を阻害する。したがって、ジクロロ酢酸でミトコンドリアを活性化するときにはR体αリポ酸でなければならない。

メトホルミンと2-デオキシ-D-グルコースとジクロロ酢酸の相乗効果

2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)は解糖系を阻害することによってATP産生を阻害します。経口糖尿病薬のメトホルミンはミトコンドリアの呼吸酵素を阻害してATPの産生を阻害する作用があります。最近の研究では、メトホルミンが2-DGと同様に解糖系酵素のヘキソキナーゼの活性を阻害する作用も明らかになっています。  
したがって、
2-DGとメトホルミンを併用すると、がん細胞のエネルギー産生を阻害する効果を高めることができます。実際に、マウスの移植腫瘍の実験モデルで、2-DGとメトホルミンを併用すると相乗的な抗腫瘍効果が得られることが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターから報告されています。(Mol Cancer Ther. 10(12): 2350-2362, 2011年)

培養がん細胞を用いた実験では、2-DGで解糖系を阻害しても、がん細胞を死滅させるだけの効果は得られませんが、メトホルミンを同時に投与すると、がん細胞は死滅しました。様々な種類のがん細胞をマウスに移植した動物実験において、2-DGとメトホルミンはそれぞれ単独では抗腫瘍効果は弱いのですが、この2つを併用すると強い腫瘍縮小効果が認められています。  
がん細胞が増殖するためには、増殖のシグナルと、エネルギー産生と物質合成のための材料が必要です。増殖シグナル伝達系は、
インスリン/インスリン様成長因子-1(IGF-1)とそれらの受容体の結合によって刺激されるPI3K/Akt/mTORC1伝達系が重要です。
  
メトホルミンはミトコンドリアの呼吸鎖(電子伝達系)と解糖系のヘキソキナーゼを阻害してATP産生を阻害する作用がありますが、さらに
AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化してmTORC1(哺乳類ラパマイシン標的蛋白質複合体-1)の活性を阻害することによってがん細胞の増殖を抑制します。
  
一方、2-DGはグルコースの解糖系とペントース・リン酸経路での代謝を阻害することによって、エネルギー産生と物質合成を抑制し、その結果、がん細胞の増殖が抑えられます。すなわち、
2-DGとメトホルミンの同時投与は、がん細胞のエネルギー産生と物質合成と増殖シグナル伝達を効率的に阻害することによって、がん細胞の増殖を阻害することができるのです。  
メトホルミンには
乳酸アシドーシスを引き起こす副作用があります。乳酸が増えて、血液が酸性になる状態です。大きながん組織があると乳酸の産生が増えています。乳酸アシドーシスを防ぐために、肝臓では乳酸をグルコース(ブドウ糖)に変換する糖新生が亢進します。メトホルミンは糖新生を阻害する効果があるので、乳酸産生の増加した状態でメトホルミンを服用すると乳酸アシドーシスを起こしやすくなります
したがって、がん細胞の解糖系を抑制し、ミトコンドリアでの酸素呼吸を増やす2-デオキシグルコースやジクロロ酢酸ナトリウムやケトン食を併用するとメトホルミンによる乳酸アシドーシスの発生を防ぐことができます。特にジクロロ酢酸ナトリウムは乳酸アシドーシスの治療に古くから使用されています(図10)。

メトホルミンとジクロロ酢酸と2-デオキシグルコース

図10:がん細胞は解糖系が亢進して乳酸の産生が増えている(①)。乳酸は肝臓や腎臓やがん間質細胞で糖新生によってグルコースに変換されている(②)。2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)はがん細胞の解糖系を阻害し(③)、ジクロロ酢酸ナトリウム(DCA)はピルビン酸脱水素酵素を活性化してピルビン酸からアセチルCoAへの変換を促進する(④)。メトホルミンは糖新生を阻害する(⑤)。メトホルミンは呼吸鎖を阻害して(⑥)、ATP産生を低下させ(⑦)、さらにミトコンドリアでの活性酸素の産生を増やして酸化ストレスを亢進する(⑧)。これらの組み合せは、酸化ストレスを高め、ATP産生を低下させて、がん細胞の増殖を抑制し、細胞死を誘導する(⑨)。2-DGとDCAはメトホルミンによる乳酸アシドーシスを防ぐので、副作用も少なくなり、抗腫瘍活性を高めることができる。

ミトコンドリアの呼吸酵素複合体をメトホルミンで阻害した状態でジクロロ酢酸でがん細胞のミトコンドリアの代謝を亢進すれば、がん細胞に比較的特異的に酸化ストレスを高めることができます。 実際に、ジクロロ酢酸とメトホルミンの相乗効果が数多く報告されています。
以上のことから、2-デオキシ-D-グルコースとメトホルミンとジクロロ酢酸ナトリウムと、ピルビン酸脱水素酵素の補因子のビタミンB1とR体αリポ酸の併用は、がん細胞の解糖系を阻害し、ミトコンドリアを活性化することによって、抗がん剤治療や放射線治療の抗腫瘍効果を高めることができます(図11)。

がん細胞の抗がん剤感受性を高める方法

図11:グルコースが解糖系で代謝されてピルビン酸に変換された後、ピルビン酸脱水素酵素によってミトコンドリア内でアセチルCoAに変換される(①)。アセチルCoAはミトコンドリア内でTCA回路と呼吸酵素複合体における酸化的リン酸化によってATPが産生される(②)。R体αリポ酸とビタミンB1はピルビン酸脱水素酵素の活性に必要な補因子であり(③)、ピルビン酸脱水素酵素はピルビン酸脱水素酵素キナーゼによってリン酸化されることによって活性が阻害されている(④)。ジクロロ酢酸ナトリウムはピルビン酸脱水素酵素キナーゼを阻害する作用があり、その結果ピルビン酸脱水素酵素を活性化する(⑤)。メトホルミンは呼吸酵素複合体Iを阻害してミトコンドリアでの活性酸素の産生を増やす(⑥)。2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)は解答系を阻害してATP産生と物質合成を阻害する(⑦)。抗がん剤や放射線治療が最終的にがん細胞を死滅するときに活性酸素によって細胞死が誘導される(⑧)。したがって、抗がん剤治療や放射線治療を行うときに、2-DG(2-デオキシ-D-グルコース)、ジクロロ酢酸ナトリウム、R体αリポ酸、ビタミンB1、メトホルミンを併用すると、抗腫瘍効果を増強できる。

細胞内の抗酸化システムを利用してがん細胞は抗がん剤抵抗性になる

細胞には、活性酸素や有毒物質による害から細胞自身を守る手段や仕組みが備わっています。
例えば、細胞内で活性酸素の発生量が増えると、細胞は活性酸素を消去する酵素(スーパーオキシド・ディスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオン・ペルオキシダーゼなど)の発現や活性を高めたり、フリーラジカルを消去するグルタチオンなどの抗酸化物質の合成を高めたりして、活性酸素の害(酸化ストレス)を軽減しようとします。

また、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)などのフェースII(第2相) 解毒酵素と言われる代謝酵素は、様々な発がん物質や有害物質を無毒化する作用があります。

細胞が活性酸素や発がん物質や有害な成分(抗がん剤や放射線も含む)によって攻撃を受けると、これらの活性酸素消去酵素や抗酸化物質(グルタチオンやチオレドキシン)やフェースII解毒酵素が細胞内に誘導され(遺伝子発現が増えたり産生量が増える)、細胞を守るシステムが働きます。
 このような細胞内の防御システムの活性化に中心的な働きを行っているのがNrf2(nuclear factor erythroid 2–related factor 2)という転写因子です。

がんの酸化療法とNrf2

図12:放射線や抗がん剤は、活性酸素の産生を高め(①)、細胞の酸化傷害を引き起こして、細胞増殖を抑制し、細胞死を誘導する(②)。酸化ストレスを軽減するために転写因子のNrf2の活性を亢進し(②)、スーパーオキシド・ディスムターゼ(SOD)やカタラーゼやグルタチオン・ペルオキシダーゼなどの活性酸素消去酵素やグルタチオンやチオレドキシンなどの抗酸化物質の産生を高めて、活性酸素による害(酸化ストレス)を軽減している。この抗酸化システムの亢進によって、がん細胞は放射線や抗がん剤に抵抗性になる。

転写因子というのは特定の遺伝子の発現(DNAの情報を蛋白質に変換すること)を調節している蛋白質です。 抗酸化酵素やグルタチオンの産生に関する酵素やフェース2解毒酵素の遺伝子の発現調節領域には、抗酸化反応エレメント(antioxidant response element:ARE)という領域があって、この部分にNrf2が結合するとこれらの遺伝子の転写が促進されるのです。

ホルミシス(hormisis)効果というものがあります。体に有害と思われている放射線や活性酸素やある種の発がん物質も、微量であれば体を刺激する方向で働いて、これらの害に対する抵抗力が高まるという効果です。刺激やストレスがくり返されると、生体はそれらに対して適応するように体が反応するため、その刺激やストレスに対して抵抗性になると考えられるのですが、抗酸化力や解毒力の増強のメカニズムに関しては転写因子のNrf2の活性化が関与しています。
除草剤(農薬)のパラコートは活性酸素を発生させます。線虫を様々な濃度のパラコートの入った培地で育てて、その寿命を検討した実験があります。
パラコートの濃度が極めて低い(0.005mM以下)と寿命に影響は及ぼしませんが、濃度が0.01mMから0.5mMの場合は、寿命が最大で60%くらい延長します。1mM以上だと逆に寿命は短縮します。
軽度の酸化ストレスは寿命を延ばし、高度の酸化ストレスはダメージを与えるので寿命は短縮するという結果です。 

化学発がん物質の研究でもホルミシス効果が認められています。体内で活性酸素を発生させて発がん作用を示すような物質を少量だけ投与すると、かえって発がんが抑えられることがあります。これは、軽度の酸化ストレスに対して、適応反応として体の中の抗酸化酵素が増加するためであると考えられています。この場合も、Nrf2の活性化が重要な役割を担っています.
 このNrf2は様々なストレスや有害物質から細胞を守っているので、細胞にとっては重要な防御システムです。


活性酸素とホルミシス効果

図13:生物に対して通常有害な作用を示す刺激が、微量であれば逆に有益な作用(ストレス抵抗性の亢進)になるという現象を「ホルミシス(Hormesis)」と言う(①)。活性酸素は大量に発生すると細胞膜やDNAの酸化傷害から増殖抑制や細胞死誘導などの細胞傷害作用をしめす(②)。しかし、適度な活性酸素の産生は、転写因子のNrf2の活性化を介するホルミシス効果によって、抗酸化システムの亢進やストレス抵抗性の亢進を誘導する(③)。

がん細胞ではNrf2の活性が非常に高くなっており、しかもNrf2の活性が高いがん細胞ほど治療に抵抗性で予後が悪いという結果が得られています。
 つまり、がん細胞は、抗がん剤や放射線治療から自分を守るためにNrf2を利用しているということです。
 
がん細胞におけるNrf2の働きを阻害することができれば、抗がん剤や放射線治療の効き目を高めることができます。培養細胞や動物実験の段階ですが、抗がん剤治療や放射線治療にNrf2阻害剤を併用すると抗腫瘍効果が高まることが報告されています。

Nrf2は細胞の抗酸化力を高める

転写因子のNrf2(nuclear factor erythroid 2–related factor 2)は、抗酸化機能や解毒機能を持つ様々な遺伝子の転写を誘導します。
 活性酸素種や食物に含まれる親電子性物質によりもたらされる酸化ストレスは,DNAやタンパク質や脂質などの生体高分子を酸化することで傷害を与え、がんや糖尿病や腎臓疾患や神経変性疾患など様々な疾患を引き起こす原因になります。

このような酸化ストレスに対する防御機構において重要な機能を担っているのが、Keap1-Nrf2システムです. 正常細胞において酸化ストレスの無い状況では、Nrf2はKeap1(Kelch-like ECH-associated protein 1)というタンパク質に結合することによりユビキチン化を受け、分解しています。 

しかし、酸化ストレスにさらされるとKeap1のシステイン残基が修飾を受けて構造が変化し、Keap1からNrf2が離れて核へ移行し、遺伝子上流に存在する抗酸化剤応答配列ARE(antioxidant response element)に結合することによって、このARE配列をもつ様々な遺伝子(抗酸化酵素やグルタチオンの合成に関与する酵素やフェースII解毒酵素など)の発現を誘導し、抗酸化や解毒に関するタンパク質や因子の合成を高めます。

このような作用によって、正常細胞や前がん細胞においては、Nrf2の活性を亢進するNrf2活性剤は発がん過程を抑制するので、がん予防物質として認識されています。このようなNrf2の活性化を介したがん予防物質としてスルフォラファンクルクミンレスベラトロールなどが報告されています。
一方、がん細胞においては、Nrf2が恒常的に活性化しており、Nrf2活性を阻害するとがん細胞は死にやすくなることが報告されています。 ヒトの肺がんなど多くの固形腫瘍でNrf2機能の異常亢進が見つかっています。そして、Nrf2の活性が高いと治療に抵抗性で予後が不良であることが報告されています。

Nrf2は解毒酵素、抗酸化タンパク質、薬剤排出トランスポーターなどの遺伝子を統括的に活性化することにより、がん細胞の抗がん剤耐性と放射線耐性をもたらします。
 さらに、Nfr2はグルコースやグルタミンの代謝を変化させて細胞増殖に有利な同化反応を促進します。
 Nrf2はがん細胞のペントースリン酸経路を活性化して、核酸とNADPHの産生を増やすことで細胞増殖を亢進します。NADPHはグルタチオンの合成にも必要です。

多くのがん細胞では、酸化ストレスの有無とは関係なくNrf2の発現量と活性が亢進しています。その理由は、RASやMYCなどのがん遺伝子がNrf2を活性化しているからです。 Nrf2の活性を抑制するKeap1の遺伝子変異によってNrf2が活性化する場合も見つかっています。 

恒常的に安定化したNrf2は酸化ストレスや抗がん剤/放射線治療に対する抵抗性を増強し、さらに積極的に細胞増殖を促進することになります。
 抗がん剤治療や放射線治療によって活性酸素が増えると、がん細胞はさらにNrf2の量を増やして抵抗性を獲得してきます。
 このようにNrf2の活性化はがん細胞が治療に対する抵抗性を獲得するメカニズムとして重要です。したがって、がん細胞のおけるNrf2の機能阻害は、抗がん剤治療の有効な戦略となります(図14)

Nrf2とがん治療

図14:Keap1-Nrf2システムは酸化ストレスや有害物質に対する防御機構において重要な役割を担っている。転写因子のNrf2は細胞質でKeap1によって分解が促進されることによって活性が抑制されている。正常細胞では酸化ストレスが加わると、Keap1の構造が変化してNrf2から離れ、フリーになったNrf2が核内に移行して(①)、抗酸化酵素や解毒酵素の遺伝子の上流に存在する抗酸化剤応答配列ARE(antioxidant response element)に結合して、これらの遺伝子の発現を亢進する(②)。その結果、正常細胞では活性酸素や発がん物質を解毒することになるので、Nrf2の活性を促進するもの(=Nrf2活性剤)はがん予防効果がある(③)。 一方、がん細胞においては、KRasやcMycなどのがん遺伝子の活性化やKeap1の遺伝子変異などによってNrf2は恒常的に活性化しており(④)、抗酸化酵素や解毒酵素の産生や活性が亢進している。そのため、がん細胞は酸化ストレスや細胞傷害性物質に対する抵抗性が亢進しており(⑤)、これが抗がん剤や放散線治療に対する抵抗性の原因になっている(⑥)。したがって、がん細胞においては、Nrf2の活性を阻害するもの(=Nrf2阻害剤)ががん治療に役立つ。このように、正常細胞(前がん細胞も含む)とがん細胞とではNrf2に対する対応は全く異なる。

糖尿病性腎症や慢性閉塞性肺疾患など多くの酸化ストレスと関連する疾患の予防や治療のためにNrf2の活性化剤が臨床応用に向けて開発されています。
一方、がんの治療になるとNrf2の阻害剤が有益になる可能性が高いと考えられています。 がん細胞のNrf2を阻害すると、
①がん細胞内での活性酸素種の蓄積によってアポトーシス(細胞死)が誘導できる

②抗がん剤治療や放射線治療の効き目を高めることができる
③がん細胞での物質合成(同化反応)を阻害することによって増殖を阻害できる、
 などの効果が期待できます。

ただし、全身投与の場合は、がん組織以外の正常組織での酸化ストレス応答を減弱させる欠点もあります。つまり、がん細胞特異的にNrf2を阻害できる方法があれば、がん治療に役立ちます。

2-デオキシ-D-グルコースとメトホルミンはがん細胞特異的にNrf2活性を阻害する

Nrf2の転写活性を介した抗酸化酵素や解毒酵素の発現にはグルコースの供給が必要であるという報告があります。

Glucose availability is a decisive factor for Nrf2-mediated gene expression.(グルコースの供給がNrf2を介した遺伝子発現のための決定的な要因である)Redox Biol. 2013 Jun 21;1(1):359-65.

この論文では、スルフォラファンでNrf2を活性化する方法や、Nrf2を阻害するKeap1遺伝子を機能欠損させる方法(遺伝子ノックアウト)でNrf2の活性を亢進する方法で実験しています。 

Nrf2を活性化するとグルコースの取込みが増え、ペントースリン酸経路でのNADPHの産生が増えることが示されています。
そして、グルコースの供給や取込みを阻害するか、あるいはペントースリン酸経路を阻害してNADPHの産生を阻害すると、Nrf2を介した遺伝子発現が抑制され、抗酸化酵素や解毒酵素の発現が抑制されることが示されています。
つまり、糖質制限ケトン食2−デオキシグルコースなどで、がん細胞におけるグルコースの取込みやペントースリン酸経路を抑制する方法は、グルコースの取込みが亢進しているがん細胞に選択的にNrf2の活性を阻害できる可能性があります。

メトホルミン(metformin)は、世界中で1億人以上の2型糖尿病患者に使われているビグアナイド系経口血糖降下剤です。 前述のように、メトホルミンはミトコンドリアの呼吸鎖の最初のステップである呼吸酵素複合体Iを阻害することが明らかになっています。その結果、ミトコンドリアでのATP産生が減少し、AMP:ATPの比が上昇し、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)が活性化されます。
活性化したAMPKは、肝臓の糖新生を抑制し、解糖を亢進し、骨格筋でのグルコース利用を促進して血糖を低下させます。 すなわち、メトホルミンの血糖降下作用はミトコンドリアにおけるATP産生の阻害によって体内のATP量が減少するためです。体はATPを増やすために、グルコースの分解(異化)を促進し、糖新生(同化)を抑制するので、血糖が低下します。 さらに、AMPKの活性化は細胞増殖を促進するmTORC1(哺乳類ラパマイシン標的蛋白質複合体-1)の活性を阻害することによってがん細胞の増殖を抑制します。(図15)


AMP活性化プロテインキナーゼ

図15:AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)は細胞のエネルギー代謝を調節する因子として重要な役割を担っている。AMPKは低グルコースや低酸素や虚血など細胞のATP供給が枯渇させるようなストレスに応答して活性化される(①)。AMPKは触媒作用を持つαサブユニットと、調節作用を持つβサブユットとγサブユニットから構成されるヘテロ三量体として存在する(②)。γサブユニットにはATPが結合しているが、ATPが枯渇してAMP/ATP比が上昇すると、γサブユニットに結合していたATPがAMPに置き換わる(③)。その結果、アロステリック効果(酵素の立体構造が変化すること)によってこの複合体は中等度(2~10倍程度)に活性化され、上流に位置する主要なAMPKキナーゼであるLKB1に対して親和性が高くなり、LKB1によってαサブユニットのスレオニン-172(Thr-172)がリン酸化されると、酵素活性は最大に活性化される(④)。 LKB1はセリン・スレオニンキナーゼで、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)をリン酸化して活性化する(⑤)。リン酸化されたAMPKはmTORC1(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質複合体1)を抑制し、タンパク質や脂肪酸の合成を抑制して、がん細胞の増殖を抑制する(⑥)。活性化AMPKはインスリン感受性亢進、筋肉・脂肪組織のグルコースの取込み亢進、肝臓の糖新生抑制によって血糖を低下させる(⑦)。さらに、脂肪酸合成を阻害し、脂肪酸の酸化を亢進する(⑧)。

メトホルミンががん細胞のNrf2活性を抑制して抗腫瘍作用を示すことが明らかになっています。 以下のような報告があります。

Metformin inhibits heme oxygenase-1 expression in cancer cells through inactivation of Raf-ERK-Nrf2 signaling and AMPK-independent pathways.(メトホルミンはRaf-ERK-Nrf2 シグナル伝達系とAMPK非依存的経路の阻害によってがん細胞のヘムオキシゲナーゼ-1を阻害する)Toxicol Appl Pharmacol. 2013 Sep 1;271(2):229-38.



ヘムオキシゲナーゼ-1は、ヘム(heme)をビリベルジン(biriverdin)と一酸化炭素(CO)と遊離鉄(Fe)に分解する酵素です。ビリベルジン(緑色の色素)は、ビリベルジン・リダクターゼ(biriverdin reductase)により、ビリルビン(bilirubin:黄疸の時の黄色の色素)に分解されます。このヘム分解により産生れるビリベルジンとビリルビンには強力な抗酸化作用があり、酸化ストレスによる細胞傷害を抑制します。

メトホルミンはRaf-ERKシグナル伝達系を抑制しNrf2の発現量を減らす効果があることを報告しています

Metformin Sensitizes Non-small Cell Lung Cancer Cells to an Epigallocatechin-3-Gallate (EGCG) Treatment by Suppressing the Nrf2/HO-1 Signaling Pathway.(メトホルミンは、Nrf2 / HO-1シグナル伝達経路を抑制することにより、非小細胞肺がん細胞をエピガロカテキン-3-ガレート治療に感受性にする。)Int J Biol Sci. 2017 Nov 27;13(12):1560-1569.

緑茶中の主要ポリフェノールであるエピガロカテキン-3-ガレート(EGCG)は、抗がん作用を有します。 NF-E2関連因子2(Nrf2)/ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)シグナル伝達経路の活性化は、EGCGに対する細胞抵抗性を引き起こします。この研究では、メトホルミンはHO-1発現を阻害し、EGCGの抗腫瘍効果を増強することを明らかにしています。
メトホルミンは、EGCG(100μM)によって誘導される活性酸素種の産生を増やし、アポトーシスを誘導しました。 さらに移植腫瘍を用いた動物実験で、メトホルミンとEGCGの併用投与は腫瘍の縮小効果を相乗的に増強しました。
メカニズム的には、EGCGで活性化されたNrf2 / HO-1経路を、メトホルミンはNrf2のSIRT1依存性脱アセチル化によって阻害しました。さらに、メトホルミンは、部分的にNF-kB経路を介してSIRT1発現を亢進しました。
これと比較して、EGCGとメトホルミンとの組み合わせは正常な肺上皮細胞に対してほとんど影響を与えませんでした。
以上の結果から、メトホルミンは、Nrf2 / HO-1シグナル伝達経路を抑制することにより、非小細胞性肺がん細胞のEGCGの抗がん作用に対する感受性を高めことが示されています
エピガロカテキン-3-ガレート(EGCG)は緑茶中の主要なポリフェノールです。EGCGはがん細胞に作用して酸化ストレスを引き起こして、抗がん作用を発揮します。 ポリフェノールはがん細胞に対して酸化剤として作用して増殖抑制や細胞死誘導の作用を発揮するという考えが最近は主流になりつつあります。EGCGの抗腫瘍作用に対して、がん細胞はNrf2/ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)シグナル伝達経路の亢進によって抵抗しようとします。 それに対抗して、メトホルミンはNrf2/HO-1シグナル伝達経路を抑制してHO-1発現を阻害し、EGCGの抗腫瘍効果を増強することを示しています。
メトホルミンはがん細胞に対してNrf2/HO-1経路を抑制することによって、抗酸化システムを弱体化する作用が期待できるようです。 正常細胞とがん細胞のメトホルミンの作用の違いは、ミトコンドリアにおける活性酸素の量による可能性もあります。がん細胞は細胞に比べて活性酸素が発生しやすい状況にあり、活性酸素の適度な発生はホルミシス効果によって有益な作用を示し、がん細胞では大量の活性酸素が出やすいので、細胞傷害が優位になる可能性があります(図16)。

メトホルミンの抗がん作用

図16:メトホルミンはミトコンドリアの呼吸鎖を阻害して活性酸素の産生を高め、ATP産生を低下させる(①)。この作用は正常細胞に対しては、適度な活性酸素の産生がミトホルミシスの作用によってストレス抵抗性を高め(②)、AMP/ATP比の上昇はAMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)やサーチュインを活性化して、抗加齢(加齢関連疾患の抑制)や寿命延長効果を発揮する(③)。一方、がん細胞においてはミトコンドリアで活性酸素が産生されやすい状況にある。その結果、呼吸鎖の阻害は活性酸素の産生が過剰になって酸化傷害を引き起こし(④)、エネルギー低下によって増殖を抑制する(⑤)。酸化ストレスの亢進に対してがん細胞はNrf2/HO-1系を活性化して酸化傷害を軽減しようと抵抗する(⑥)。メトホルミンはNrf2/HO-1系を阻害することによってがん細胞の抗酸化システムを弱体化する(⑦)。酸化傷害によって効果を発揮する抗がん剤や放射線治療に対して、メトホルミンはがん細胞に対しては抗腫瘍効果を高め(⑧)、正常細胞に対しては保護的に作用して副作用を軽減する(⑨)。

メトホルミンが抗がん剤や放射線治療の効き目を高めことは多数の報告があります。さらに、様々なメカニズムで抗がん剤や放射線治療の副作用の軽減にも有効であることが報告されています。 さらに、2-デオシキ-D-グルコースやジクロロ酢酸と併用すると、抗腫瘍効果が高まることを示す報告が増えています。がんの標準治療の効き目を高める目的でメトホルミン+2−デオキシ-D-グルコース+ジクロロ酢酸ナトリウム(+ビタミンB1、R体αリポ酸)の組合せは、もっと利用されても良いと思います。

活性酸素の産生を増やすがん治療

がん細胞の酸化ストレスを高めてがん細胞を死滅させる治療法は「oxidation therapy(酸化治療)」と呼ばれています。 
 がん細胞ではミトコンドリアの機能異常などによって酸素呼吸を行うと活性酸素の産生が高まります。 がん細胞は酸化ストレスを高めたくないので、ミトコンドリアでの代謝を抑制し、酸素を使わない解糖系での代謝を亢進させています。 

したがって、解糖系を抑制しミトコンドリアでの酸化的リン酸化(酸素を使ったエネルギー産生)を亢進すれば、がん細胞内の酸化ストレスを能動的に高め、がん細胞を死滅させることができます
放射線治療と一部の抗がん剤(ビンブラスチン、シスプラチン、マイトマイシンC、ドキソルビシン、カンプトテシンなど)は、がん細胞に酸化傷害を引き起こして細胞にダメージを与えて死滅させます。その他の抗がん剤も、細胞死を引き起こすときに活性酸素が使われます。
したがって、放射線治療や抗がん剤治療の最中は、抗酸化作用のあるサプリメントの摂取は細胞死を阻害します。一方、酸化ストレスを増強すれば、放射線治療や抗がん剤治療の効き目を高めることができます。
ここ数年の動きとして、がん細胞の酸化ストレスを高める治療が注目されています。 基本は、解糖系を阻害(2-DG)し、ミトコンドリアの活性化などによって活性酸素の産生を高め(ジクロロ酢酸、メトホルミン)、がん細胞の抗酸化システムを阻害する方法(メトホルミン、漢方薬、ジスルフィラム、オーラノフィン)の併用が有効です。 さらにがん細胞に酸化ストレスを高めるケトン食アルテスネイト高濃度ビタミンC点滴半枝蓮の煎じ薬を併用すると、がん細胞に酸化傷害を与えて、増殖を抑制し、細胞死を誘導できます。
メトホルミンや高濃度ビタミンC点滴やアルテスネイトや漢方薬やジクロロ酢酸などが抗がん剤治療や放射線治療と併用して抗腫瘍効果を高める根拠は「活性酸素の産生を高めるから」と考えるのが理屈に合っていると思います(図17)。

がん細胞の抗がん剤感受性を高める方法

図17:放射線や抗がん剤は、活性酸素の産生を高めて酸化ストレスを亢進し、細胞の酸化傷害を引き起こして細胞死を誘導する(①)。酸化ストレスを軽減するために転写因子のNrf2の活性を亢進し、グルタチオンやチオレドキシンシステムを亢進して活性酸素による酸化傷害に抵抗する(②)。アルテスネイト、半枝蓮(はんしれん)、高濃度ビタミンC点滴は細胞内の活性酸素の産生を高める(③)。ジクロロ酢酸ナトリウムはミトコンドリアの酸素呼吸を亢進して活性酸素の産生を高める(④)。メトホルミンや2-デオキシ-D-グルコースや黄芩や半枝蓮はNrf2の活性化を阻害する(⑤)。ジスルフィラムやオーラノフィンはグルタチオンやチオレドキシンによる抗酸化システムを阻害することによって酸化ストレスを高める(⑥)。これらを組み合せると、がん細胞に効率的に酸化ストレスを増強して、がん細胞の増殖を抑制でき、抗がん剤や放射線治療の抗腫瘍効果を増強できる。

がん幹細胞のマーカーのアルデヒド脱水素酵素はシスプラチン耐性に関与する

がん幹細胞(cancer stem cell)腫瘍始原細胞(tumor initiating cell)とも呼ばれ、がん細胞を生み出すもとになる細胞であり、がん組織中に少数(数%程度)存在しています。 通常の抗がん剤治療や放射線治療に対して、成熟したがん細胞は死滅しやすいのですが、がん幹細胞は様々な機序で抵抗性を示します(図18)。

がん幹細胞と抗がん剤耐性

図18:がん組織にはがん幹細胞 (cancer stem cells)と呼ばれる細胞が存在して、通常のがん細胞(成熟がん細胞)を供給しながらがん組織を構成している。がん幹細胞は自己複製を行う一方、不均等分裂により一部が自己複製のサイクルから逸脱して分化し通常のがん細胞となっている。成熟がん細胞は抗がん剤や放射線で死滅しやすいが、がん幹細胞は死滅しにくいので抗がん剤治療や放射線治療で生き残る。がん幹細胞は腫瘍形成能を持つので、生き残ったがん幹細胞が増殖して再発や再燃が起こる。治療を繰り返すと治療抵抗性のがん幹細胞が増え、治療抵抗性が亢進する。がん幹細胞がアポトーシス抵抗性になっているメカニズムを阻害すれば抗がん剤や放射線治療の効果を高めることができる。

がん幹細胞が生き残れば、がんはいずれ再燃・再発しますので、がん幹細胞の放射線感受性や抗がん剤感受性を高める方法の開発が重要と考えられています。
その方法の一つとしてアルデヒド脱水素酵素阻害剤が注目されています。 アルデヒド脱水素酵素はがん幹細胞に多く発現し、この酵素の発現が多いがんほど増殖が早く予後が悪いことが報告されています。
アルデヒド脱水素酵素はがん幹細胞に多く発現し、がん幹細胞のマーカーとして使用されています。このアルデヒド脱水素酵素が抗がん剤のシスプラチン耐性に重要な働きをしていることが複数の研究で示されています。 以下のような論文があります。

Targeting the cancer stem cell marker, aldehyde dehydrogenase 1, to circumvent cisplatin resistance in NSCLC(非小細胞性肺がんにおけるシスプラチン耐性を克服するために、がん幹細胞マーカーであるアルデヒド脱水素酵素1を標的とする)Oncotarget. 2017 Sep 22; 8(42): 72544–72563.

【要旨】
非小細胞肺がんはがん死の多くを占め、治療奏功率が低く、予後は一般的に不良である。分子標的薬で治療が可能な特異的な突然変異が存在しない場合、シスプラチンをベースにした抗がん剤治療が、この疾患の治療において重要な役割を果たす。
しかしながら、がん細胞がシスプラチンに耐性を獲得することが、この細胞傷害性薬物の使用において主要な治療上の課題となっている。 この薬剤耐性のメカニズムを解明することは、非小細胞性肺がん患者におけるシスプラチンに対する感受性を高める新規薬剤の開発をもたらす可能性がある。
この研究では、非小細胞性肺がんの抗がん剤抵抗性を克服する方法として、がん幹細胞におけるアルデヒド脱水素酵素1(ALDH1)の活性をターゲットすることを検討した。
非小細胞性肺がん患者由来の腫瘍は、多くの多能性幹細胞関連遺伝子の発現増加を認めた。シスプラチンの投与は、シスプラチン感受性および耐性の非小細胞性肺がん細胞株において、ALDH1陽性のがん細胞集団の出現または増大を誘導し、シスプラチン耐性をさらに高めた。
AldefluorアッセイおよびFACS分析を用いてALDH1陽性細胞を単離し、幹細胞特性に関して解析した。 ALDH1陽性細胞のみが、不均等分裂、シスプラチン耐性およびin vitroでの幹細胞因子の発現の増加を示した。
NOD / SCIDマウスにおける異種移植実験では、少数のALDH1陽性がん細胞集団およびALDH1陰性がん細胞集団から効率的な腫瘍形成を示した。 ジエチルアミノベンズアルデヒドあるいはジスルフィラムでALDH1を阻害すると、シスプラチン抵抗性の肺がん細胞がシスプラチンの細胞傷害作用に感受性を示すようになった。
以上の結果は、肺がんのがん幹細胞集団の存在を実証し、シスプラチンの細胞傷害効果に対する非小細胞性肺がん細胞の感受性を高める治療戦略としてのALDH1の阻害の有効性を示唆している。

シスプラチン(cisplatin : CDDP)は白金錯体に分類される抗悪性腫瘍剤(抗がん剤)です。 2つの塩素原子部位でDNAと結合するため、DNA鎖内に架橋が形成され、DNA複製を阻害し、細胞分裂しているがん細胞および正常細胞を死滅させます。 シスプラチンは1978年に米国とカナダで承認され、日本は1983年に承認されています。
多くの固形がんの治療に使用され、効き目は高いのですが、その作用機序から副作用が強いのも特徴です。
シスプラチンで治療していると、ほぼ確実にシスプラチン耐性のがん細胞が出現し、シスプラチンはいずれ効かなくなります。この抗がん剤シスプラチン耐性のメカニズムを阻止すれば、シスプラチンの抗腫瘍効果を継続できます。
この論文では、シスプラチン感受性および耐性の非小細胞性肺がん細胞株において、シスプラチンの投与はアルデヒド脱水素酵素(ALDH1)の発現の高いがん細胞集団の出現または増大を誘導し、シスプラチン耐性をさらに高める結果が報告されています。 つまり、ALDH1を発現している肺がん細胞はシスプラチンに耐性の性質を持つので、ALDH1陽性細胞が選択的に増え、シスプラチンがさらに効きにくくなるという現象が起こることを指摘しています。 シスプラチン投与がシスプラチン耐性細胞を増やし、シスプラチン耐性細胞はALDH1の発現が亢進しているということです(図19)。

アルデヒド脱水素酵素とシスプラチン耐性

図19:がん組織は様々な性状のがん細胞から構成されている。シスプラチンを投与すると、多くのがん細胞は死滅するが、アルデヒド脱水素酵素1(ALDH1)を発現しているがん細胞(図中でALDH1と記載)はシスプラチンに耐性を示して生き残る。さらにシスプラチンを投与しても、アルデヒド脱水素酵素1(ALDH1)の発現の高いがん細胞はシスプラチンに耐性を示すので、シスプラチン治療に生き残って増殖する。増殖したがん細胞はアルデヒド脱水素酵素陽性がん細胞(ALDH1)の割合が増え、さらにシスプラチン耐性が増強される。

さらに、ALDH1陽性細胞はシスプラチン耐性だけでなく、不均等分裂や多能性幹細胞関連遺伝子の発現増加などがん幹細胞(Cancer Stem Cell)の性状を示すと報告しています。
がん幹細胞の維持に必要な遺伝子としてNANOG, OCT-4, SOX-2, KLF4 , C-MYCなどが知られています。 細胞を初期化してiPS細胞を作る時に導入されるいわゆる山中因子というのは、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycの四つです。この4つはがん幹細胞の維持にも必要です。Nanog は多能性を安定化させる因子と見られています。 このようながん幹細胞の性質維持が必要な遺伝子はALDH1陽性細胞に多く発現しているということです。
ALDH1(アルデヒド脱水素酵素1)はがん幹細胞のマーカーで、 ALDH1活性が高いがん細胞はがん幹細胞の性質を持っていることが多くの研究で明らかになっています。
がん幹細胞に特異的なマーカーとしてCD133やALDH1などがあります。 D133は細胞膜に局在する約100 KDa の5回膜貫通型のタンパク質で、がん幹細胞の同定や単離のための標的表面抗原として使われています。しかし、受容体なのか、接着分子なのか、その機能については依然として不明な点が多く残っています。
ALDH1はアルデヒド脱水素酵素1(aldehyde dehydrogenase 1)です。そこで、以下のように理解できます。 ①ALDH1活性が高いがん細胞はがん幹細胞の性質を持っている。ALDH1はがん幹細胞マーカーとして利用されている。 ②シスプラチン耐性の非小細胞性肺がんではALDH1活性が高い。ALDH1活性が高い肺がん細胞はシスプラチンに耐性になる。 そこで、 ALDH1を阻害するジスルフィラムを投与すると、シスプラチン抵抗性の肺がん細胞がシスプラチンの細胞傷害作用に感受性を示すようになりました。 つまり、ALDH1を阻害するジスルフィラムはシスプラチン耐性を阻止することができるという結論です。 ジスルフィラムと抗がん剤を併用した臨床試験の結果が報告されています。以下のような報告があります。

A phase IIb trial assessing the addition of disulfiram to chemotherapy for the treatment of metastatic non-small cell lung cancer.(転移性非小細胞肺がんの治療のための化学療法へのジスルフィラムの併用を評価する第IIb相臨床試験。) Oncologist. 2015 Apr;20(4):366-7.

第II相臨床試験は、少数例の患者を対象に、有効性・安全性・薬物動態などの検討を行う試験です。探索的な前期第II相(IIa)と検証的な後期第II相(IIb)に分割することもあり、この論文の第IIb相臨床試験は有効性の検証を行って、第III相に続けるような臨床試験です。
非小細胞性肺がんの抗がん剤治療(シスプラチン+ビノレルビン)にジスルフィラムを併用する治療の安全性と有効性を評価するための第II相臨床試験を、多施設のランダム化二重盲検試験で実施しています。
新規に診断されたステージ4の非小細胞性肺がん患者40例が抗がん剤(シスプラチン+ビノレルビンで2サイクル以上)で治療を受けています。この40例のうち20例はジスルフィラム(1回40mgを1日3回)を服用しています。 生存期間の平均は、抗がん剤単独群が7.1ヶ月で、抗がん剤+ジスルフィラム併用群が10ヶ月でした。長期生存患者が2名いて、どちらもジスルフィラム併用群でした。ジスルフィラム併用による安全性には問題はありませんでした。
つまり、ステージ4の非小細胞性肺がんのシスプラチン+ビノレルビンの抗がん剤治療にジスルフィラムを併用すると、生存期間を延ばす効果があるという結果です。

【アルデヒド脱水素酵素阻害剤のジスルフィラムはゲムシタビン耐性を阻止する】

アルデヒド脱水素酵素阻害剤のジスルフィラムが膵臓がんのゲムシタビン治療の効果を高める可能性が報告されています。以下のような報告があります。

Aldehyde dehydrogenase 1A1 confers intrinsic and acquired resistance to gemcitabine in human pancreatic adenocarcinoma MIA PaCa-2 cells(アルデヒド脱水素酵素1A1はヒト膵臓腺がん細胞MIA PaCa-2細胞のジェムシタビンに対する内在性に備わった耐性および獲得した耐性に関与する)Int J Oncol. 2012 Sep; 41(3): 855–861.

【要旨】
ゲムシタビン(Gemcitabine)は膵臓がんの抗がん剤治療に標準的に使用されているが、ゲムシタビンに対する耐性が治療の有効性を妨げている。 多くの種類のがんにおいて、アルデヒド脱水素酵素1A1の発現レベルと活性の亢進ががん幹細胞(Cancer stem cells)の重要な特性として知られている。 がん幹細胞の特徴の一つとして抗がん剤に対する耐性がある。本研究では、アルデヒド脱水素酵素1A1(ALDH1A1)の発現と活性の高いヒト膵臓がん細胞株(MIA PaCa-2細胞)における内因性のALDH1A1の発現レベルおよび活性とゲムシタビン(GEM)に対する抵抗性の関連について検討した。
低分子干渉RNA(small interfering RNA: siRNA)を用いてALDH1A1の活性を消失させ、GEM耐性におけるALDH1A1の関与を検討した。 低分子干渉RNAによってALDH1A1の発現と活性は顕著に低下し、細胞増殖が阻害された。 さらに、低分子干渉RNAによるALDH1A1のノックダウンとGEMの併用は、がん細胞の生存率を顕著に低下させ、アポトーシスによる細胞死を増やし、S期で細胞周期を停止した細胞を増加した。
GEN耐性でないMIA PaCa-2細胞株に比べて、GEM耐性のMIA PaCa-2細胞株では、ALDH1A1の発現量と活性が有意に亢進していた。 GEM耐性のMIA PaCa-2細胞株において、ALDH1A1のノックダウンとGEMの併用は細胞の生存率を顕著に低下させ、アポトーシス(細胞死)を増やした。
この結果は、細胞に本来備わった固有(intrinsic)のGEM耐性と獲得した(acquired)GEM耐性の両方においてALDH1A1の関与が重要であることを示唆している
膵臓がんにGEM治療において、低分子干渉RNAによるALDH1A1のノックダウンとGEMの併用は、GEM耐性を克服する有効な治療法として、さらに研究を深める必要がある。

ゲムシタビン(Gemcitabine)はピリミジン代謝を阻害することによって抗がん作用を発揮します。 GEMは細胞内でゲムシタビン3リン酸(gemcitabine triphosphate: dFdCTP)に代謝されてDNAに取り込まれてDNA合成を阻害し、細胞死(アポトーシス)を誘導します。
進行した膵臓がんの抗がん剤治療でファーストラインの抗がん剤として単独あるいは他の抗がん剤と併用して使用されています。 しかし、膵臓がん細胞は内因性(intrinsic)あるいは獲得性(acquired)にGEMに耐性を持つことが治療効果を妨げています。 したがって、このような抗がん剤耐性を阻止できれば、膵臓がんに対する抗がん剤治療の有効性を高めることができます。
耐性獲得のメカニズムとしては、薬物の取込みや代謝、細胞死や増殖に関する遺伝子の変化(死滅しにくくなる)などがあります。 さらに、がん幹細胞はGEM耐性を有し、アルデヒド脱水素酵素1A1(ALDH1A1)活性が亢進しており、ALDH1A1活性を阻害すると、GEM耐性が阻止できることが報告されています。
GEMは細胞内で活性酸素種を増やしアポトーシスを促進します。したがって、活性酸素を消去するとGEMによる増殖抑制効果は低下します。 GEMの抗腫瘍効果に活性酸素種の産生亢進が関与しており、ALDH1A1は活性酸素の産生を減らすので、GEMの抗腫瘍効果を低下させることになります。 つまり、ALDH1A1の発現亢進は、GEMによって産生される活性酸素種を消去することによって、GEMの細胞毒性を低下させるというメカニズムが示唆されています。

がん幹細胞とゲムシタビン耐性

図20:がん組織にはがん幹細胞が少数存在する。がん幹細胞は自己複製してがん幹細胞を維持すると同時に、成熟がん細胞を供給してがん組織を構成している。抗がん剤治療に対して、成熟がん細胞が死滅しやすいが、がん幹細胞は様々な機序で抵抗性を示す。がん幹細胞が生き残れば、がんは再燃・再発する。抗がん剤治療(ゲムシタビン)を繰り返すと、ゲムシタビンに抵抗性のがん幹細胞が生き残り、がん幹細胞が増えることによって、さらにゲムシタビン抵抗性が増強し、腫瘍は増大する。がん幹細胞が過剰に発現しているアルデヒド脱水素酵素を阻害するとがん幹細胞はゲムシタビンで死滅しやすくなり、がん組織を消滅できる。

ALDHには17種類のアイソフォームがあり、ALDH1A1はその一つです。
ALDH1A1は細胞内のアルデヒドを酸化することによって酸化ストレスを軽減します。 低分子干渉RNAや薬剤などでALDH1A1の発現や活性を阻害すると、がん細胞の抗がん剤感受性が亢進することが報告されています。
膵臓がん細胞をGEM存在下で長期間培養するとALDH1A1陽性の膵臓がん幹細胞が誘導されてくることが報告されています。 ゲムシタビン耐性だけでなく、白金製剤やタキサン系の抗がん剤に耐性の卵巣がん、多剤耐性の胃がん細胞、シクロフォスファミド耐性のヒトがん細胞などでALDH1A1の発現亢進が報告されており、ALDH1A1は多くの種類のがん細胞における薬剤耐性の原因となっている可能性が示唆されています。
ALDH1A1は、乳がん、大腸がん、膵臓がん、肺がん、肝臓がん、卵巣がんなど多くの種類のがんにおいて、がん幹細胞のマーカーとして認められており、がん幹細胞において発現が亢進しています。そして、アポトーシス抵抗性や抗がん剤耐性の原因となっています。
ALDH1の発現が高いがんは予後不良であることが多くのがん種で報告されています。 膵臓がんだけでなく、抗がん剤治療一般において、ALDH1A1の阻害は、抗腫瘍効果を高める効果が期待できます。したがって、抗がん剤治療にALDH1A1の阻害剤であるジスルフィラムの併用は試してみる価値があります。

【ジスルフィラムはアルデヒド脱水素酵素を阻害する】

アルデヒド脱水素酵素(ALDH)はアルデヒド(CHO)を酸化してカルボン酸(COOH)にする反応を触媒する酵素です。アルデヒト脱水素酵素はがん幹細胞のマーカーとしても知られています。つまり、アルデヒト脱水素酵素はがん幹細胞に過剰に発現し、その生存や増殖や自己複製に何らかの重要な働きを行っていることが指摘されています。
細胞にとってアルデヒドは毒性があるので、アルデヒドを早く代謝するために必要なのです。 多くのがん種においてALDH活性の高いがん細胞は増殖や転移を促進することが報告されています。
ALDH活性の高い腫瘍は生存期間も短く予後が悪いことが報告されています。 ALDH活性を阻害するとがん細胞の増殖や転移を抑制でき、抗がん剤の効き目を高めることができます。
ジスルフィラム(Disulfiram)はアルデヒド脱水素酵素を阻害する作用があり、断酒薬としてアルコール中毒の治療薬として60年以上前から処方薬として使用されています。アルコールを飲むと強い副作用が出ますが、アルコールさえ飲まなければ、ジスルフィラムは副作用の極めて少ない薬です。 アルデヒド脱水素酵素の阻害剤であるジスルフィラムはアルコールの代謝でできるアセトアルデヒドの分解を阻害することによって、アセトアルデヒドの有害な症状がでるので、アルコールを飲めなくするのです。

アルデヒド脱水素酵素とジスルフィラム

図21:エチルアルコール(エタノール)はアルデヒド脱水素酵素でアセトアルデヒドに代謝され、アセトルデヒドはアルデヒド脱水素酵素によって酢酸に代謝される。ジスルフィラムはアルデヒド脱水素酵素を阻害する。アセトアルデヒドは毒性が強いので、細胞や組織にダメージを与える。

ジスルフィラムはALDH1A1を阻害します。ALDH1A1だけでなく、他のALDHアイソフォームを不可逆的に阻害する汎ALDH阻害剤(pan-ALDH inhibitor)であり、細胞質およびミトコンドリアのALDHを広範に阻害します。
その他、ジスルフィラムはプロテアソーム(proteasome)におけるタンパク質の分解機能を強力に阻害する作用があります。酸化ストレスを高める作用もあります。
アルコールを摂取しなければ、通常の服用量ではジスルフィラム自体の毒性は極めて軽微です。抗がん剤治療との併用も、副作用を増強する作用は認められていません。 したがって、抗がん剤治療と併用して抗腫瘍効果を高める方法として、ジスルフィラムは極めて有用です。(ただし、パクリタキセルのように溶解にエタノールを使う場合は使用できません)

ジスルフィラムの抗がん作用

図22:ジスルフィラムを経口摂取すると、消化管内および血液内で1分子のジスルフィラムは2分子のジエチルジチオカルバミン酸に変換され、さらにジエチルチオカルバミン酸メチルエステル・スルホキシドに代謝される(①)。ジエチルチオカルバミン酸メチルエステル・スルホキシドは、アルデヒド脱水素酵素の酵素活性部位のシステインのスルフヒドリル基(-SH)と反応して結合し、酵素活性を阻害する(②)。同様なメカニズム(タンパク質のシステインに反応して活性を阻害する機序)によって、プロテインキナーゼCやP糖蛋白質やDNAメチルトランスフェラーゼを含む、様々ながん促進性のタンパク質を阻害する。

魚油に多く含まれるドコサヘキサンエン酸(DHA)とジスルフィラム(DSF)を併用すると、がん細胞の酸化ストレスが亢進し、がん幹細胞の性質(Stemness)が低下して抗がん剤感受性が亢進するという結果が報告されています。
抗がん剤治療中にω3系(n-3系)多価不飽和脂肪酸のDHAとEPAを摂取すると、抗がん剤の副作用を軽減し、奏功率や生存率などの抗腫瘍効果を高めることができることは多くの臨床試験で示されています。
ドコサヘキサエン酸(DHA)は正常細胞には悪影響を与えずに、がん細胞の酸化ストレスを高めることが知られています。 DHAはがん細胞に対して酸化ストレスを増強することによってがん細胞のアポトーシスを誘導し、抗がん剤感受性を高めるという結果が報告されています。 ジスルフィラムも酸化ストレスを高めます。 ジスルフィラムが肺がんの抗がん剤治療の効き目を高めるとこは前述しました。
抗がん剤治療中にジスルフィラムと魚油(脂ののった魚)あるいはドコサヘキサエン酸(DHA)の入ったサプリメントを併用するのは、試してみる価値があると思います。
ジスルフィラムの抗がん作用はかなり古く(1970年代ころ)から研究されていますが、2010年代からその抗がん作用がかなり注目されるようになっています。 ジスルフィラムの断酒作用はアルデヒド脱水素酵素の阻害によるのですが、アルデヒド脱水素酵素はがん幹細胞のマーカーになるほど、がん幹細胞ではアルデヒド脱水素酵素は重要な働きをしており、この酵素を阻害すると、がん細胞の抗がん剤感受性が亢進することが明らかになっています。
ジスルフィラムはがんの代替療法の領域では数年前から利用されており、その抗がん作用のメカニズムも多くの報告があります。
私も2014年頃からがん治療にジスルフィラムを積極的に利用していますが、確実な抗がん作用を認めています。比較的安価であり、アルコールさえ飲まなければジスルフィラムは極めて副作用の少ない薬です。
(注:ドセタキセルのように溶解にエタノールを使う薬があるので、点滴を受けているときは、エタノールフリーであることを確認することが重要です)
関節リュウマチの治療薬であるオーラノフィンはチオレドキシン還元酵素を阻害する作用があり、ジスルフィラムとDHAの抗腫瘍効果をさらに高めます。 つまり、抗がん剤や放射線治療の効き目を高める方法としてジスルフィラム+DHA+オーラノフィンは試してみる価値はあります。実際に多くの患者さんに使用していますが、副作用をほとんどありません。抗腫瘍効果も確認しています。

費用

治療に関するご質問やご相談はメール(info@f-gtc.or.jp)か電話(03-5550-3552)でお問合せ下さい。

以下は30日分の費用の目安です。体重や病状によって服用量を加減することがあります。それぞれの薬およびサプリメントの名前をクリックすると、解説のサイトに移行します。

医薬品あるいはサプリメント名 1日服用量 30日分の費用の目安
2-デオキシ-D-グルコース 20〜60mg/kg体重 20,000円〜50,000円
メトホルミン 500mg〜1500mg 3,000円〜9,000円
ジクロロ酢酸ナトリウム 10〜20mg/kg体重 10,000円〜20,000円
R体αリポ酸&セレン 4〜8カプセル 5,000円〜10,000円
ビタミンB1(ベンフォチアミン) 100〜150mg 2,700円〜3,600円
ジスルフィラム 250mg 12,000円
オーラノフィン 6 mg 6,000円

注:ジスルフィラム服用中は飲酒はできません。奈良漬けのようなアルコールの入った食品も食べれません。抗がん剤のパクリタキセルは溶解剤としてエタノールを用いていますので、パクリタキセル治療中はジスルフィラムは使用できません。点滴による抗がん剤治療を受けているときには、溶解剤などでエタノールを使用していないことを確認する必要があります。

さらに、がんのアルカリ療法を併用すると、さらに抗腫瘍効果を高めることができます。
アルカリ療法についてはこちらへ

抗がん剤だけでは限界があります。以上の方法は1ヶ月の費用が6〜8万円程度かかりますが、 進行がんでも根治できる可能性を高めます。

当院では多数の補完・代替療法を実践しています。それぞれの治療法の根拠や有効性を示すために、それぞれのページで詳しく解説しています。しかし、がんの種類や進行度や治療の状況によって最適な治療法は異なります。それぞれの治療法を理解し、自分に合った治療法を選択することは、患者さんには困難だと思います。 現在の病状や治療の状況をメール(info@f-gtc.or.jp)か電話(03-5550-3552)かファックス(03-3541-7577)でお知らせいただければ、全て院長(福田一典)がお答えしています。ご来院いただければ、詳しくご説明いたします。