東京銀座クリニック
 
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固形がんに対するサリドマイドの効果

サリドマイドは多発性骨髄腫などの幾つかの造血器腫瘍に対しては有効性が証明されています。
しかし、固形がんに対する効果に関しては、まだ議論があります。ここでは、固形がんに対するサリドマイドの効果について解説しています。

まとめ:
1)サリドマイド単独で腫瘍の縮小効果が得られるのは、カポジ肉腫などごく一部の腫瘍に限られます。ただし、腫瘍の進展を抑える効果、つまりprogression-free survival(無増悪生存期間)を評価のendopointにすると、腎臓がんや肝臓がん、前立腺がん、悪性神経膠腫などで、ある程度の有効性が報告されています
しかし、臨床試験によって結果が異なってコンセンサスの得られていない場合も多いのが実情です。
・2)抗がん剤など他の治療との併用で相乗効果が期待できる場合がありますしかし副作用が問題になることもあります。
3)サリドマイドの高用量(400mg/日以上)で有効性が認められる場合もありますが、副作用や費用対効果を考慮すると、低用量(50〜200mg/日)で効果の期待できるがん種や病態の改善(悪液質など)に使用するのが現実的と思われます。
4)一般的には、血管新生の強い腫瘍(腎臓がん、肝臓がん、脳腫瘍、カポジ肉腫など)、腫瘍血管の新生を促進するVEGFやbFGFの血中濃度が高い状態転写因子のNF-κBの活性を阻害することによって抗がん剤感受性を高める効果を期待する場合悪液質による体重減少などの症状の改善を期待する場合、などでは、サリドマイドの使用を試してみる価値はあると考えられます。

サリドマイドの効果が期待できる固形がんあるいは肉腫について、その有効性や問題点などについて以下にまとめています。

【腎臓がん(腎細胞がん)】

手術不能の腎細胞がんの治療では、インターフェロンインターロイキン-2を投与する免疫療法が行なわれている。腎細胞がんは血管が豊富な腫瘍で、免疫療法が効きやすいという特徴があるので、血管新生阻害作用と免疫調節作用を有するサリドマイドは効果が期待され、多くの臨床試験が行なわれ、有効性が報告されている。
しかし、分子標的薬のソラフェニブ(商品名:ネクサバール)とスニチニブ(商品名:スーテント)が、進行腎細胞がんの無増悪生存期間を延ばすなどの有効性が認められて保険適用されるようになったので、サリドマイドが腎細胞がんの治療に使われる機会は少なくなっている。
有効性を示す臨床試験として以下のような報告がある。

○多くの臨床試験でインターフェロンとIL-2と同じレベルの効果が認められ、平均して40-45%の患者で有効性が認められている(Crit Rev Oncol Hematol 46: 59-65, 2003)
○100mg/日のサリドマイドとインターフェロンαを併用した14例のうち3例(21.4%)がpartial response,7例(50%)がstable disease。(Proc Am Soc Clin Oncol , 22: 387, 2003)
○抗がん剤や免疫療法の治療を行っていない初回治療の腎臓がんにIL-2とサリドマイド(200-400mg/日)を併用。36例中1例がcomplete response、14例がpartial response、11例がstable diseaseであった。つまり、36例中26例(69%)で有効性が認められた。(Proc Am Soc Clin Oncol , 22: 387, 2003)
○転移のある腎臓がんに対して、サリドマイドの高用量(800-1200mg/日)と低用量(200mg/日)投与の効果を比較。生存期間は高用量群が6ヵ月に対して低用量群が16ヵ月で、低用量の方が良い結果であった。(BJU Int. 96:536-539, 2005)
○転移している腎臓がん患者30例を対象に、インターフェロン-αとcapecitabinとサリドマイドの併用療法を行なった。2例がcomplete response(完全寛解)、7例がpartial response(部分寛解)、11例がstable disease(安定)であり、この3者の併用の有効性が示唆された。(J Exp Ther Oncol 7:41-47, 2008)
○低用量のIL-2とサリドマイドの併用は転移した腎細胞がんに対して有効性が認められてる。この治療法にさらに免疫システムを活性化する顆粒球単球コロニー刺激因子(GM-CSF)を追加した場合の効果を検討した。治療を受けていない31例の転移した腎細胞がん患者を対象に、サリドマイド(200mg/日)とIL-2とGM-CSFを併用した治療を行なった。17例(55%)で有効性が認められ、complete response3例(10%)、partial response 8例(26%)、stable disease 6例(19%)であった。この結果は、IL-2とサリドマイドの2者の併用と同じレベルの効果であり、GM-CSFを追加するメリットは認めなかった。
(Am J Clin Oncol 31:237-243, 2008)

抗がん剤治療とサリドマイドを併用しても効果が期待できないという結果も報告されている。

○転移した腎細胞がん患者にカペシタビンとサリドマイドを併用投与する第II相試験が行なわれたが、サリドマイドを併用しても奏功率や生存率の向上は認めなかった。(Am J Clin Oncol. 31: 417-423, 2008)

手術後の再発予防の目的でサリドマイドを服用しても再発予防効果は期待できないという報告がある。

○再発リスクの高い腎細胞がんの切除手術後に、再発予防の目的でサリドマイドを投与したグループと、何も治療を行なわなかったグループに無作為に分け、2年後と3年後の無再発生存率や死亡率を検討した。手術後にサリドマイドを服用しても、切除手術後の生存率を改善させる効果は認められなかった。(Am J Clin Oncol. 31: 417-423, 2008)

まとめ:
転移性腎細胞がんの治療にサリドマイドが有効であることは十分に証明されている。サリドマイドの誘導体のレナリドマイドにも腎細胞がんに対する有効性が報告されている。
しかし、従来のインターフェロンやインターロイキン-2のような免疫療法薬や、ネクサバールやスーテントのような分子標的薬と比べて、サリドマイドの効果に優越性があるわけではない。したがって、サリドマイドと同等あるいはそれ以上の効果がある薬が保険適用されて使用されている現状では、サリドマイドの使用はこれらの薬が効かなくなった場合や副作用が問題になった場合に限られてくる
サリドマイドと他の薬剤との併用については、まだ可能性が残っている。とくに、IL-2とサリドマイドの併用療法は、副作用や有効性の面から、他の治療が無効の場合には試してみる価値はあると言える

【前立腺がん】

前立腺がんの腫瘍マーカーである前立腺特異抗原(PSA)を指標にサリドマイドの効果が検討されている。
200mg/日のサリドマイド単独投与でPSAが低下する例があることや、抗がん剤治療との併用で抗腫瘍効果が増強されることが報告されている。

○転移しているアンドロゲン非依存性の前立腺がん63例を、サリドマイド低用量(200 mg/日)群50例と、高用量(1200mg/日)群13例に分けて比較検討。PSAの50%以上の低下を低用量群で18%の患者に認めたが、高用量群は0%。(Clin. Cancer Res. 7: 1888-1893, 2001)
○アンドロゲン非依存性前立腺がん(75例)で、docetaxel単独群(25例)と、docetaxel+サリドマイド(200mg/日)の併用群(50例)を比較。平均26.4ヵ月の観察で、50%以上のPSA低下が、docetaxel単独群が37%に対してサリドマイド併用群が53%。progression-free survivalの平均期間はdocetaxel単独群が3.7ヵ月に対してサリドマイド併用群が5.9ヵ月。18ヵ月後の生存率はdocetaxel単独群が42.9%に対してサリドマイド併用群が68.2%。サリドマイド使用群では低分子量ヘパリンを血栓症予防の目的で使用。(J. Clin. Oncol. 22:2532-2539, 2004)

ホルモン依存性の前立腺がんのホルモン治療後の再発予防にサリドマイドが有効であることが報告されている。

○間欠的なアンドロゲン除去療法中の159例の前立腺がん患者を対象に、サリドマイド投与によって無再発期間を延ばすことができるかどうかを確かめる目的で臨床試験を行なわれた。前立腺がんの治療を受けたのちに前立腺特異抗原(PSA)が上昇し始めた患者に、性腺刺激ホルモンを使ったアンドロゲン除去療法を6ヶ月間行なったのち、サリドマイド200mg投与群とプラセボ群に無作為に分け、PSAが再上昇するまでの期間(無再発期間)を比較した(試験A)。PSAが再上昇した後、再度アンドロゲン除去療法を6ヶ月間行ない、今度はサリドマイドとプラセボを前回とは逆に代えて(クロスオーバーさせて)、PSAが再上昇するまでの期間を比較した(試験B)
試験Aでは、PSAが再上昇するまでの期間(無再発期間)はサリドマイド投与群が15ヶ月でプラセボ群が9.6ヶ月であった。(p=0.21)試験Bでは、無再発期間はサリドマイド投与群が17.1ヶ月に対してプラセボ郡は6.6ヶ月で統計的に有意差を認めた(p=0.0002)。
血清中のテストステロン値には両群に差は認めなかった。サリドマイド投与群では47%(124例中58例)で副作用のために投与量を減らした。
サリドマイドはテストステロンの値には影響せず、ホルモン依存性の前立腺がんのホルモン治療後の再発を抑制する効果があることが明らかになった。(J Urol. 181:1104-1113, 2009)

顆粒球単球コロニー刺激因子 (GM-CSF)とサリドマイドの併用が前立腺がんの治療で有効であることが報告されている。

○転移したアンドロゲン非依存性の前立腺がん22例にGranulocyte-macrophage colony stimulating factor (GM-CSF) とthalidomide (200mg/日)を併用。治療開始2週目に全例でPSAが低下。4週後に50%以上のPSA低下が5例で見られた。(Urol. Oncol,23:82-86,2005)
○初回の治療後にPSAが上昇したホルモン依存性の前立腺がん患者を対象にgranulocyte-macrophage colony-stimulating factor(GM-CSF)とサリドマイドの併用療法の有効性を評価する第2相臨床試験が行なわれている。評価できた20例中18例でPSAの低下を認めた。PSA値の低下率の平均は59%(26-89%)で、PSAが低下した期間の平均は11ヶ月(4.5〜36ヶ月)であった。
Grade 1-2の副作用として末梢神経障害、倦怠感、発疹、便秘が認められた。1例において深部静脈血栓症と肺塞栓症が発生した。
以上の結果から、GM-CSFとサリドマイドの併用療法は有望な治療法であることが示唆された。Urol Oncol. 27(1):8-13, 2009

まとめ:
標準治療が効かなくなった進行前立腺がんの治療や、再発リスクが高い場合の再発予防の目的では、サリドマイドを使用する根拠はあると言える

【肝臓がん】

肝臓がんは血管が豊富な腫瘍であり、サリドマイドの血管新生阻害作用が治療に役立つ可能性が指摘されている。サリドマイド単独や抗がん剤との併用で、抗腫瘍効果が認められた症例報告がある。

○下大静脈に腫瘍塞栓を有する進行肝臓がんの3例に、200 - 400 mg/日のサリドマイドを投与。2例はに腫瘍塞栓の診断後15ヶ月以上生存。他の1例はサリドマイド開始後4週間でAFPの著明な減少と腫瘍の縮小と症状の改善を認めた。この結果は、抗がん剤治療などの通常の治療成績に匹敵する。(Oncology, 67: 320-326, 2004)
○切除不能の転移のある肝臓がん19例を、epirubicinとサリドマイド(平均200mg/日,3週間投与1週間休み)を併用して治療。腫瘍の縮小は認められなかったが、7例(41%)で平均6ヶ月間(5-14ヶ月間)の進展抑制(stable disease)が認められた。平均生存期間は196日であった。
Oncologist, 10: 392-398, 2005

しかし、多くの臨床試験の結果を総合すると、切除不能の進行した肝臓がんに対して、サリドマイド単独(200〜300mg/日程度)では、AFP低下や腫瘍の縮小は数%程度、1〜2ヶ月程度の腫瘍進展の抑制(stable disease)が10〜20%程度でみられるというレベルの結果が多い。(Cancer, 103: 119-125, 2005)(World J Gastroenterol., 10: 649-653, 2004) (Oncology, 65: 242-249, 2003)

最近の報告でも、進行肝臓がんに対するサリドマイドの効果は限定的という結果が得られている。

Thalidomide in advanced hepatocellular carcinoma as antiangiogenic treatment approach: a phase I/II trial.(進行肝臓がんにおける血管新生阻害治療としてのサリドマイド:第1相および第2相試験)Eur J Gastroenterol Hepatol. 2008 Oct;20(10):1012-9.
進行肝臓がんに対するサリドマイドの治療効果を、オーストリアのウィーン医科大学の消化器肝臓科(Department of Gastroenterology and Hepatology)の単一診療機関における第1相および第2相試験として行った。2000年9月から2004年8月までに診断され標準治療の適応が無いと判断された進行肝臓がん患者28例を対象とした。サリドマイドは100mg/日から始めて、副作用が強くなければ最大300mg/日まで増量して投与した。
多く認められた副作用は、倦怠感(75%)、めまい(64%)、吐き気(43%)、便秘(39%)であった。
2例において2.6ヶ月と5.4ヶ月の病勢安定(stable disease)が認められたが、残りの26例は病状が進行した。
全体の生存期間の平均は5.1ヶ月であった。サリドマイド投与3ヶ月後の検査では、血清中の血管内皮細胞増殖因子とエンドスタチンの濃度は統計的に有意に増加したが、塩基性線維芽細胞増殖因子( basic fibroblast growth factor )は差を認めなかった。サリドマイド治療によって腫瘍内の微小血管の密度は減少しなかった。
結論として、進行した大きな肝臓がんに対して、サリドマイドの抗腫瘍効果はわずかであった。

まとめ:
最近の臨床試験で、切除不能の進行肝臓がんに対してネクサバール(一般名ソラフェニブ)が生存期間を44%延長させるという結果が得られている。進行肝臓がんの治療に対してネクサバールやスーテントなどの分子標的薬の方がサリドマイドよりも有望と考えられている。したがって、進行肝臓がんに対してサリドマイドが使用される可能性は今後低くなると思われる。

【卵巣がん】

卵巣がんに対するサリドマイドの効果に関しては、以下のような報告がある。

○抗がん剤抵抗性の卵巣がん患者10例に対して、サリドマイド(200〜400mg/日)を投与した結果、3例において腫瘍マーカーのCA-125の低下を認めた。(J Clin Oncol. 20:1147-1149, 2002)
○再発を繰り返し抗がん剤抵抗性の進行した卵巣がん患者に対するサリドマイド(200mg/日)の効果を通常の抗がん剤治療と比較検討。無増悪生存期間は抗がん剤治療群(18例)が3.7ヶ月に対してサリドマイド群(18例)は3.8ヶ月で差を認めなかった。Partial response/stable diseaseの割合は、抗がん剤治療群が6.7%/60%に対して、サリドマイド群では7.7%/53.8%であった。腫瘍マーカーのCA−125の値が50%以上低下した率は、サリドマイド投与群が53%に対して、抗がん剤治療ぐんは13%であった。以上より、治療を繰り返し進行した卵巣がんの治療に対してサリドマイドは抗がん剤治療に匹敵する効果が期待できる。(J Palliat Med. 10:61-66, 2008.)
○治療後に再発した上皮性卵巣がん患者に対するトポテカン(1.25 mg/m2 on Days 1 through 5 of a 21-day cycle)による抗がん剤治療において、サリドマイドを併用した群と併用しなかった群に分けて安全性と有効性をランダム化比較試験(フェーズ2試験)で検討した。トポテカン+サリドマイド(投与量の平均は200mg/日)併用群が30例、トポテカン単独が39例であった。
全般的な奏功率は単独群が21%(CR18%+PR3%)に対してサリドマイド併用群では47%(CR30%+PR17%)であった。無増悪生存(progression-free survival)の平均期間は、単独群が4ヶ月に対してサリドマイド併用群は6ヶ月であった。平均生存期間は単独群が15ヶ月に対して、サリドマイド併用群では19ヶ月であった。副作用は両群で差を認めなかった。
以上の結果、再発卵巣がんに対するトポテカンによる抗がん剤治療にサリドマイドを併用すると、奏功率が高くなることが示された。Cancer 112: 331-339, 2008

以上の臨床試験の結果から、抗がん剤抵抗性になった進行卵巣がんの治療にサリドマイドを使用する根拠はある。治療後の再発予防の目的でも、多少の効果が期待できる

【非小細胞性肺がん】

一般的に非小細胞性肺がんに対してはサリドマイドの効果は認められていないが、抗がん剤治療の効果を高めるという報告がある。

○ 進行した非小細胞性肺がん20例を対象に、ジェムシタビンとイリノテカンとサリドマイドの併用して治療を行なった。。2例(10%)がpartial respose、14例(70%)がstable diseaseと評価された。進行するまでの平均期間は4ヶ月で、1年生存率は36%、2年生存率は27%であった。 この3種類の薬の組み合わせは、副作用と有効性の点から有効な治療法の可能性がある。(Cancer Invest 2009 Jun 1: Epub ahead of print)

抗がん剤との併用のメリットを認めなかった報告もある。

○ 進行した非小細胞性肺がんのカルボプラチン+イリノテカンの治療においてサリドマイドを追加しても有用性は認めなかった。(J Thorac Oncol 1:832-836,2006)

【小細胞性肺がん】

小細胞性肺がんは血管が豊富ながんであるため、血管新生阻害を目的とした薬の治療効果が検討されている。血管新生阻害作用を有するサリドマイドの有効性を検討する臨床試験が行われ、初期の研究では、サリドマイドが抗がん剤治療の奏功率を高め、抗がん剤治療後にサリドマイドを使用すると再発が抑えられる可能性が報告されていた。しかし、最近報告された第III相試験の結果は、小細胞性肺がんに対するサリドマイドの有効性に関して否定的である。

○進行した小細胞性肺がん患者119例を対象に、まず2コースの抗がん剤治療を行い、抗がん剤治療に反応した患者(92例)を、無作為にサリドマイド併用群(49例)と非併用群(43例)に分けて、さらに4コースの抗がん剤治療を行った。(第III相試験)
平均生存期間は、サリドマイド投与群11.7ヶ月、プラセボ群8.7ヶ月で、サリドマイド投与群が長かったが、統計的には有意差を認めなかった。Performance statusが1と2の状態の良い患者に絞って比較すると、サリドマイド投与群はプラセボ群よりも生存期間が長かった(相対リスク = 0.59; 95% 信頼区間, 0.37 to 0.92; P = .02)。病状の進行も、全身状態の良い患者(Performance statusが1と2)では、サリドマイド投与群の方が遅かった(相対リスク = 0.54; 95% 信頼区間, 0.36 to 0.87; P = .02)。しかし、患者全体では統計的な差は認められなかった(相対リスク = 0.74; 95% 信頼区間, 0.49 to 1.12; P = .15)。
一方、副作用の神経傷害の頻度はサリドマイド投与群(33%)の方がプラセボ群(12%)より高かった。
この研究の結論として、進行した小細胞性肺がんの生存期間に対して、サリドマイドは明らかな改善を認めなかった。しかし、performance statusuが1か2の全身状態のよい患者では、メリットも示唆された。小細胞性肺がんの治療に血管新生阻害をターゲットにした治療法の研究は今後も必要である。
(J Clin Oncol 25:3945-3951, 2007)

上記の報告以降に発表された臨床試験では、ある程度の有効性を示唆する報告もある。

○ カルボプラチンとエトポシドの投与を3週間ごとに6コース行う治療にサリドマイド(100mg/日)を併用した。抗がん剤治療終了後もサリドマイドは維持療法として2年間継続した。
無増悪生存期間の平均は8.3ヶ月、平均生存期間は10.1ヶ月であった。1年生存率は40%、1年無増悪生存率は36%であった。 奏功率は全体で68%で、完全寛解4例(20%)、部分寛解13例(48%)であった。副作用の増強は認めなかった。結論として、カルボプラチンとエトポシドによる抗がん剤治療中および治療後のサリドマイドの投与は、今回の奏功率と生存率の結果から、英国で第III相試験を行う必要がある。
Lung Cancer.59(3):364-368, 2008

まとめ:
最近は小細胞性肺がんに対するサリドマイドの効果に否定的な意見が主流のようですが、患者の全身状態や治療法によって小細胞性肺がんに対するサリドマイドの効果は異なるようです。今後の他の臨床試験の結果が出るまで、結論は保留だと思います。

【神経膠芽腫】

悪性脳腫瘍の神経膠芽腫は血管が豊富であるため、血管新生阻害作用のあるサリドマイドの有効性が示唆され、多くの臨床試験が行われている。
初期の頃の臨床試験では、サリドマイド単独あるいはtemozolomide(テモダール)や放射線治療との併用で有効性を認める結果が報告されていた。

○再発した神経膠芽腫患者を100〜500mg/日(平均300mg/日)のサリドマイドで治療した評価可能の38例中、2例(5%)がpartial response、16例(42%)がstable diseaseであった。平均生存期間は31週で1年生存率は35%。(J. Neurooncol. 54: 31-38, 2001)
○手術や放射線治療を受け再発した神経膠芽腫の17例でサリドマイド治療を行い、1例がminimal response、8例がstable diseaseで、17例中9例(52.9%)で有効性が認められた。これら有効例においては、腫瘍の進展までの平均期間(median time
to progression)は25週(12-40週)、生存期間は36週(16-64週)であった。(Oncol Rep. 11: 93-95, 2004)
○サリドマイド単独(平均200mg/日)19例、サリドマイド+temozolomide(200 mg/m2/day for five days, in monthly cycles.)併用が25例の臨床試験。平均生存期間はサリドマイド単独が63週に対して、サリドマイド+temozolomide併用群は103週。その他多くの指標でサリドマイドとtemozolomideの相乗効果が認められ、有効な治療法であることが示された。(J. Neuro Oncol. 67:191-200, 2004)

しかし、その後の臨床試験では、むしろ、サリドマイド単独での効果はわずかであるという結果が多く報告され、抗がん剤とサリドマイドの併用の有効性が検討されている。
抗がん剤治療との併用で無再発期間や生存率の向上を認めた臨床試験もあるが、サリドマイドとの相乗効果を認めなかった報告の方が多い。現時点では、神経膠芽腫に対して、抗がん剤のtemozolomideや放射線治療にサリドマイドを併用してもメリットは認めない、あるいはわずかな効果という結果が多い

○成人の神経膠芽腫(glioblastoma)のtemozolomide治療にサリドマイドとセレブレックス(celecoxib)を併用してもtemozolomideの抗腫瘍効果を高める効果は認められなかった。(phase II study)Neuro Oncol. 10(3):300-8, 2008
○多形性神経膠芽腫(glioblastoma multiforme)のイリノテカンの治療にサリドマイド(100〜400mg/日)を併用しても、奏功率や無再発期間や生存率の向上はわずかであり、副作用の静脈血栓症の頻度が高くなった。(phase II study)J Neurooncol. 90(2):229-35. 2008
○新規に診断されて多形神経膠芽腫46例を対象に、temozolomide単独治療群(23例)とtemozolomide+サリドマイドの併用群(23例)に分けて比較した。平均生存期間はtemozolomide単独治療群が12ヶ月、emozolomide+サリドマイドの併用群は13ヶ月であり、生存期間に有意な差は認めなかった。副作用は併用群の方がやや強かった。したがって、新規に診断された多形神経膠芽腫のtemozolomide治療にサリドマイドを併用するメリットは認められない。Anticancer Res. 27(2):1067-71, 2007
○再発した多形神経膠芽腫のtemozolomide治療にサリドマイドを併用してもメリットは認められない。J Neurooncol. 2007 Feb;81(3):271-7.
○小児の多形神経膠芽腫の放射線治療中および治療後にサリドマイドを投与しても、生存期間の延長は認めなかった。副作用はサリドマイド併用によって頻度と程度が高くなった。J Neurooncol. 2007 Mar;82(1):95-101.

しかし、再発性の神経膠芽腫に対して、イリノテカンとサリドマイドの併用療法の有効性を認めた報告がある

Phase II trial of irinotecan and thalidomide in adults with recurrent glioblastoma multiforme.(成人の再発した多形性神経膠芽腫におけるイリノテカンとサリドマイドの第2相試験)Neuro Oncol. 0(2):216-22, 2008
米国テキサス州のMDアンダーソンがんセンターの神経腫瘍部門(Department of Neuro-Oncology)からの報告。
手術および放射線治療後に再発した成人(18歳以上)の多形性神経膠芽腫を対象に、イリノテカン(6-week cycles with 125 mg/m(2) irinotecan weekly for 4 weeks followed by 2 weeks off )とサリドマイド(100〜400mg/日)で治療を行った。評価可能な32例中、6ヶ月間の無再発生存は8例(25%)であった。無再発生存期間の平均は13週であった。complete response(完全寛解)は1例、partial response(部分寛解)は1例、stable disease(安定)は19例であった。平均生存期間は36週で、1年生存率は34%であった。死亡4例中2例は副作用によるものであった。抗がん剤のイリノテカンと血管新生阻害剤のサリドマイドの併用は、再発性の多形性神経膠芽腫に対して、有望な効果を示した。

まとめ:
以上の結果から、イリノテカンなどの抗がん剤と併用して抗腫瘍効果を高める可能性は残っているが、現時点では、神経膠芽腫に対してサリドマイドを積極的に使用する根拠は乏しい

【カポジ肉腫/血管肉腫】

カポジ肉腫は、ヒトヘルペスウイルス8型(カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス)が、免疫力の極度に低下したヒトの血管内皮細胞に日和見感染してがん化させることによって発症する肉腫で、病理学的には血管肉腫の一種です。カポジ肉腫は末期のエイズ患者や臓器移植後に免疫抑制剤を投与されている患者に発生します。
サリドマイドは、血管内皮細胞の増殖を促進するVascular Endothelial Growth Factor(VEGF,血管内皮増殖因子)の産生を抑える作用があるため、カポジ肉腫や血管肉腫の増殖を抑え、縮小させる効果があり、以下のような報告があります。

○AIDS関連のカポジ肉腫の患者17例を100mg/日のサリドマイドで8週間治療。6例(35%)で腫瘍の部分縮小を認めた。(Int. J. STD AIDS, 9: 751-755, 1998)
○エイズとは関連のないカポジ肉腫の患者3例にサリドマイド(100mg/日)を12ヶ月間投与した。投与開始して4ヶ月後には、3例とも腫瘍の縮小を認めた(partial remission)。12ヶ月後には、3例中2例で腫瘍の完全消滅(complete remission)が認められた。(Dermatology. 215:240-244, 2007)
○乳がんの放射線治療後に発生した多発性の血管肉腫が、サリドマイド(200mg/日)投与で消滅(complete response)した。(J Clin Oncol, 25:900-901, 2007)

以上より、カポジ肉腫や血管肉腫のような血管内皮細胞の腫瘍に対して、サリドマイド治療は効果が期待できる

【悪性黒色腫】

悪性黒色腫は血管が豊富であるため、血管新生阻害作用のあるサリドマイドの効果が示唆されている。サリドマイド単独では効果は乏しいが、抗がん剤治療(Temozolomide)と併用して、抗腫瘍効果が高まることが報告されている。

○脳以外の場所に転移した悪性黒色腫38例を対象に、temozolomideとサリドマイドの併用治療を検討(第II相臨床試験)。12例(32%)で腫瘍の縮小がみられ、1例では25ヶ月以上のcomplete responseを認め、11例はpartial responseであった。5例は90%以上の腫瘍の縮小を認め、外科的切除の併用でcomplete responseとなった。平均生存期間は9.5ヶ月であった。
転移した悪性黒色腫(脳転移は無い)に対して、temozolomideとサリドマイドの併用療法は十分は有効性が期待できる。(J Clin Oncol 21:3351-3356, 2003)
○脳転移のある悪性黒色腫26例を対象に、Temozolomideとサリドマイド(200〜400mg)の併用治療の有効性を検討した(第II相試験)。効果を評価できた15例中3例で腫瘍の縮小(complete responseまたはpartial response)を認めた。7例は安定(stable disease)であった。平均生存期間は6ヶ月であった。脳転移した悪性黒色腫の治療にtemozolomideとサリドマイドの併用は有効である。(Cancer 103:2590-2597, 2005)
しかし、脳転移のある悪性黒色腫を対象にサリドマイド+temozolomideの併用を検討した別の第II相試験では、奏功率は0で、血栓症などの重篤な副作用の頻度が高いことから、この治療法に否定的な結論の報告もある。(Cancer 107:1883-1890, 2006)
○転移した皮膚の悪性黒色腫に対してtemozolomideとサリドマイドの併用療法の有効性と安全性を検討(第II相試験)。26例中1例(4%)がcomplete response、2例(8%)がpartial response、5例(19%)がstable diseaseであり、31%の症例で有効性を認めた。進行するまでの平均期間は1.8ヶ月で平均生存期間は5.2ヶ月であった。抗がん剤治療に抵抗性の進行した悪性黒色腫の治療にtemozolomideとサリドマイドの併用はある程度の効果(modest activity)が期待できる。(J Cancer Res Clin Oncol 132:611-616, 2006)
○抗がん剤に抵抗性の転移した悪性黒色腫15例を対象に、低用量のサリドマイド(200mg/日)とインターフェロンα-2bを併用療法を検討した。
partial responseが1例、stable diseaseが3例であった。(Melanoma Res. 17:225-231, 2007)
しかし、転移した悪性黒色腫に対するペグ・インターフェロンとサリドマイドの併用治療を検討した第II相試験では、効果は乏しいという報告がある。(Anticancer Drugs 18:1221-1226, 2007)

まとめ:
悪性黒色腫は進行が早く治療に抵抗性のことが多く、サリドマイド治療の検討は抗がん剤治療に抵抗性の全身に転移した悪性黒色腫の患者が対象になっていることが多いため、顕著な有効性を認めることは初めから困難かもしれない。Temozolomideなどの有効な抗がん剤治療の抗腫瘍効果を高める可能性はあるが、その効果はわずかというのが実情かもしれない。

【がん性悪液質】

悪液質というのは、慢性疾患の経過中に起こる主として栄養失調に基づく病的な全身の衰弱状態で、全身衰弱や倦怠感、羸痩(るいそう)、浮腫、貧血などの症状を呈する。飢餓での体重減少は貯蔵脂肪の涸渇が主であるが、悪液質では骨格筋と体脂肪の両方が失われ、体力が急速に低下する。悪液質になると、食欲不振や倦怠感などの症状が現れ、治癒力や抵抗力が低下してQOL(Quality od Life, 生活の質)を悪くする原因となる。
進行がんにおける悪液質(がん性悪液質)の発現には、炎症細胞やがん細胞から産生される腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)などの炎症性サイトカインやプロスタグランジンや活性酸素が関与している。サリドマイドはTNF-αなどの炎症性サイトカインの産生を抑制する作用によって、悪液質を軽減する効果がある。シクロオキシゲナーゼ-2の発現を抑制してプロスタグランジンの産生を低下させる効果も報告されている。
がんを移植した動物実験においてサリドマイドの悪液質改善作用が確かめられている。さらに、サリドマイドの悪液質改善作用は複数の臨床試験で示されている。

○がん性悪液質の患者72例にサリドマイド100mg/日を投与。不眠の改善(69%)、吐き気の改善(44%)、食欲増進(63%)体調の改善(53%)が認められた。(Ann Oncol.10:857-859. 1999)
○進行した食道がん患者に対してサリドマイド(200mg/日)は体重とlean body massを増加させる効果があった。食事からのカロリー摂取が同じ状態で、10例中9例で体重が減少していたが、サリドマイド服用2週間で1.29kgの体重増加を認めた。Lean body massも同様に増加した。サリドマイドによる悪液質の改善は2週間のサリドマイド投与でも認められた。(Aliment Pharmacol Ther. 17: 677-682, 2003)
○体重が10%以上減少した進行膵癌患者50例を対象とし、サリドマイド 200mgの1日1回投与またはプラセボ(偽薬)投与のいずれかの群に被験者を無作為に割り付け、体重および栄養状態の変化を観察。4週後の時点で、サリドマイド投与を受けた患者は体重が平均0.37kg、腕の筋肉の体積が平均1.0cm3増加したが、プラセボ群の患者は体重が平均2.21kg、腕の筋肉の体積が平均4.46cm3減少した。8週後の時点で、サリドマイド群では体重が0.06kg、腕の筋肉の体積が0.5cm3減少したのに対して、プラセボ群では体重が3.62kg、腕の筋肉の体積が8.4cm3減少した。身体機能も体重増加に比例してサリドマイド投与群で改善した。これらの結果は、サリドマイドが進行した膵癌患者の体重減少や栄養状態の悪化を防ぐ上で有効であることを示している。(Gut. 54:540-545. 2005)

まとめ:
以上の結果より、サリドマイドはがん性悪液質の改善において有効であり、進行がんにおける体重減少、食欲不振、倦怠感などの症状を改善し、QOL(生活の質)を高める効果が期待できる。

Negativeなデータも多く発表されている:

○進行乳がんを低用量のcyclophosphamideとmethotrexateの併用で治療するプロトコールにサリドマイドを加えても、抗腫瘍効果は上がらず、副作用が強くなるだけでメリットはない。(Ann Oncol, 17:232-238, 2006)

○ 抗がん剤治療に抵抗して進行している乳がん患者12例にサリドマイドを投与したが、全く効果は見られなかった。(Cancer J., 11:248-251, 2005)

○ 再発リスクの高い進行腎臓がん患者の外科手術後にサリドマイド(300mg/日)を投与しても、無再発期間や生存率の向上は認めなかった。(Urology, 73:337-341, 2009)

○転移している腎臓がん患者のCapecitabineにサリドマイド(200mg/日)を併用しても、奏功率や生存率を向上させる効果は得られなかった。(Am. J. Clin. Oncol, 31:417-423, 2008)
ただし、転移している腎臓がん患者30例を対象に、インターフェロン-αとcapecitabinとサリドマイドの併用療法を行なった検討では有効性が示唆されている。(J Exp Ther Oncol 7:41-47, 2008)

○ 進行した非小細胞性肺がんのカルボプラチン+イリノテカンの治療においてサリドマイドを追加しても有用性は認めなかった。(J Thorac Oncol 1:832-836,2006)

 
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