東京銀座クリニック
 
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がんに対するサプリメントの臨床試験の状況
『がんの発生や再発を予防する』、『がん細胞にアポトーシスを誘導する』、『免疫力を高めてがん細胞を縮小させる』などと宣伝されているサプリメントは多い。しかし、それらの中で人間での効果、つまり臨床試験で有効性が示されているのは、極めて限られている。
例えば、培養がん細胞にある成分を添加して、がん細胞の増殖抑制やアポトーシス誘導作用があると、それがあたかも人間のがんにも効くような宣伝に使われている。しかし、培養細胞では体内で達成される濃度の何百倍から何万倍の濃度で行なわれていることが多い、ほとんど消化管から吸収されず、血中で検出されないのに、培養がん細胞を使った実験の結果を薬効の宣伝に使っている場合もあり、それらはほとんど詐欺的とも言える。
動物実験で効果があれば、人間での効果も期待できる。しかし、必要最低限の基礎飼料で飼育されているマウスやラットでは、サプリメントの効果が出やすいという問題がある。実際、動物実験ではみかんやリンゴの皮でも発がん予防効果を出すことはできる。しかし、いろんな食品を摂取している人間では、そのような効果は現れない場合が多い。キノコ系のサプリメントは、マウスやラットの実験では免疫力を高めて抗がん作用を示す結果が得られているが、人間での効果を保証するものではない。
したがって、人間を対象にした臨床試験や疫学的研究によって有効性が示されない限り、そのサプリメントの有用性はコメントできない。がん治療に利用されているサプリメントの臨床試験や疫学研究についてまとめている。
ω3系不飽和脂肪酸(DHA, EPA)

(まとめ)ドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)のω3系不飽和脂肪酸は、1日2〜3グラム程度の摂取は、抗がん剤や放射線治療の治療中や、手術の前後に摂取して問題なく、栄養状態を改善し、治療効果を高める効果が十分に期待できるエビデンスがあるサプリメントと言える。ただし、食事から動物性脂肪(ω6系不飽和脂肪酸)を取り過ぎると、ω3系不飽和脂肪酸をサプリメントで補う効果が低下するので、日常の食事でも、ω6を減らし、ω3の多い食品を摂取することが大切。ω3系不飽和脂肪酸を摂取するだけでは効果は弱く、食事を含めて、ω6:ω3の比を低くすることが重要。

脂肪酸はその種類によってがん細胞に対する影響が異なり、リノール酸やガンマ・リノレン酸のようなω6系不飽和脂肪酸はがん細胞の増殖を促進し、αリノレン酸やエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)のようなω3系不飽和脂肪酸はがん細胞の増殖を抑制する効果が指摘されている。
ω6系不飽和脂肪酸は、がん細胞の増殖や血管新生を促進するプロスタグランジンE2の原料になり、ω3系不飽和脂肪酸はプロスタグランジンE2の産生を抑えることが関連している。
DHAやEPAががんの予防や治療の効果を高めることは、多くの疫学的研究や臨床試験で明らかになっている。毎日魚を食べている人は、そうでない人に比べ大腸がんや乳がんや前立腺がんなど欧米型のがんになりにくいという研究結果や、EPAやDHAによる前立腺がんのリスク低下などが報告されている。
培養がん細胞やマウス移植腫瘍を使った実験では、DHAががん細胞の増殖速度を抑制し、腫瘍血管新生を阻害し、がん細胞に細胞死(アポトーシス)を引き起こすことが多くのがん細胞株で示されている。臨床試験では、抗がん剤の効果を増強し副作用を軽減する効果、がん性悪液質を改善する効果なども報告されている。
臨床試験で効果を認めない(対象と差がない)という結果が出た試験もあるが、多くの結果は、ω3系不飽和脂肪酸のEPAやDHAのサプリメントは、がん治療の効果を高め、副作用を軽減し、悪液質やがん治療に伴う体重減少を防ぐ効果があることを示している。(大腸がんや前立腺がんや乳がんなどの再発予防に対する効果も示唆されている。)
がん細胞の抗がん剤や放射線治療に対する感受性を高める効果も示されている。例えば、転移した進行乳がんのアントラサイクリンを使う抗がん剤治療の感受性を高めることが報告されている。これは、がん細胞に取り込まれたDHAやEPAがアントラサイクリンによる酸化ストレスを増大させるためと考えられている。(したがって、この場合は、ビタミンEなどの抗酸化性サプリメントは効果を弱める可能性が指摘されている)
IL-6などの炎症性サイトカインの産生抑制など抗炎症作用があり、がんの悪化や進展を抑制する効果や、正常組織や臓器の機能を改善する効果、体重減少を抑制する効果などが指摘されている。免疫状態を改善し、感染症の予防効果も指摘されている。外科手術後の合併症を予防する効果、体重減少や栄養状態の悪化を防ぐ効果も報告されている。
多くの臨床試験の結果から、DHAとEPAのω3不飽和脂肪酸は、1日2〜3グラム程度の摂取は、抗がん剤や放射線治療の治療中や、手術の前後に摂取して問題なく、栄養状態を改善する効果が証明されているサプリメントと言える。ただし、食事から動物性脂肪(ω6不飽和脂肪酸)を取り過ぎると、ω3不飽和脂肪酸をサプリメントで補う効果が低下するので、日常の食事でも、ω6を減らし、ω3の多い食品を摂取することが大切。ω3不飽和脂肪酸を摂取するだけでは効果は弱く、食事を含めて、ω6:ω3の比を低くすることが重要。
多くの臨床試験が現在行なわれている。最近の論文で報告された結果をみると、どのような効果があるかが理解できる。

○40例のステージIIIの非小細胞性肺がんの患者を対象に、がん治療中に、蛋白質とカロリーを補給するサプリメントと、それと同じ蛋白質とカロリーでDHAとEPA (2.0 g EPA + 0.9 g DHA/日))を加えたサプリメントの効果を、ランダム化比較試験で比較。(オランダ)
DHAとEPAを含むサプリメントを投与された群は、対象群に比べて、治療中の筋肉や体重の減少がより少ない、炎症性サイトカインのIL-6の産生が低下。DHAとEPAには抗炎症作用があり、栄養状態を改善する効果がある。J Nutr. 2010 Oct;140(10):1774-80
○がん性悪液質の状態の患者332例を対象にした第3相ランダム化比較臨床試験(イタリア)
悪液質を改善する有効な治療法を検討するために、除脂肪体重(lean body mass)、安静時エネルギー消費量、倦怠感、食欲、QOL、握力、Glasgow Prognostic Score、炎症性サイトカインを指標に5種類の治療法を検討。
EPA単独では悪液質を改善する効果はコントロールと比較して有意な差は無い。
medroxyprogesterone 500 mg/d または megestrol acetate 320 mg/dとL-carnitine 4 g/d とサリドマイド200 mg/d とEPAの4つの組み合わせは、悪液質の改善に有効。Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2010 Apr;14(4):292-301.
(コメント)2007年のコクランライブラリーでも、EPA単独投与では、がん性悪液質の状態を改善する効果は認めないという結論になっている。ただし、抗炎症作用などによって、他の治療との併用によって体重減少や倦怠感などの症状の緩和に役立つ可能性はある。
○EPAは家族性大腸ポリープ症のポリープの数と大きさを減らす効果がある。
ランダム化二重盲検試験(EPA28例、対象27例)。(英国)
EPAを6ヶ月投与した群は、対象群と比べて、ポリープの数が22.4%減少、直径が29.8%減少した。enteric-coated formulation of EPAを2g/day投与。Gut. 2010 Jul;59(7):918-25.
EPAやDHAが大腸がんや大腸ポリープの発生や再発の予防に効果が期待できることを示唆する報告は複数ある。
○ 乳がんのハイリスク患者を対象に、DHA/EPAを1日0.84, 2.52, 5.04, 7.56 gの4つの用量で投与。血中と乳腺脂肪組織内のEPA/DHAの量が増加。1日7.56gまでのDHA/EPA投与は副作用が無く安全に投与できる。(米国オハイオ州立大学)Am J Clin Nutr. 2010 May;91(5):1185-94
○転移した乳がん患者の抗がん剤治療の効果をDHAは高める(第2相試験、フランス)
がん細胞の細胞膜の脂肪の組成においてDHAが増えると、がん細胞の抗がん剤感受性が高まることが報告されている。
転移のある進行乳がんで抗がん剤治療(FEC)を受けている25例に1日1.8gのDHAを投与。(対象なしのオープン試験)
奏功率は44%、平均生存期間は22ヶ月。血中DHA量が多いほど生存期間が長かった。
抗がん剤治療中にDHAをサプリメントで服用すると、副作用を軽減し、抗腫瘍効果を高めることができる。Br J Cancer. 2009 Dec 15;101(12):1978-85.
(注意)DHAは抗がん剤や放射線治療の効き目を高める。この効果はビタミンEの投与で減弱する。つまり、DHAががん細胞の膜に取り込まれると、DHAは不飽和脂肪酸なので、抗がん剤(特にアントラサイクリンのような酸化ストレスを増大させる抗がん剤)による酸化ストレスを増強する効果が指摘されている。したがって、抗酸化剤の併用はDHAやEPAの抗腫瘍効果を弱める可能性がある。
○ EPAを補充した食事は食道がんの手術後の除脂肪体重の低下を防ぐ。
食道がんの手術を受ける53例を対象にして、EPA投与群28例、コントロール群25例のランダム化二重盲検試験。
手術侵襲によって挫滅した組織で炎症反応がおこり、炎症性サイトカインの産生などが原因となって筋肉や体重の減少が起こるが、EPAは炎症性サイトカインの産生を抑えるなどの作用によって筋肉の異化を抑制し、体重減少を予防する。手術前からEPAを補充した食事の摂取は、術後の経過を良くする。
この試験では、手術前5日から手術後21日間、1日2.2gのEPAを補充。
Ann Surg. 2009 Mar;249(3):355-63.
同様の報告は頭頸部がんや大腸がんの手術でも報告されている。
手術前や手術後にEPAやDHAのω3不飽和脂肪酸を1日2〜3グラム補充した食事は、手術後の炎症を軽減し、体重減少や栄養状態の悪化を防ぐ効果がある。
メラトニン

(まとめ)メラトニンには抗酸化作用や免疫増強作用やその他多く抗腫瘍効果を有することが基礎研究で示されており、臨床試験でも有効性を示す結果が得られている。1日10〜40mgの服用で、抗がん剤や放射線治療の副作用軽減と抗腫瘍効果増強、乳がんのホルモン療法の効果増強、悪液質の改善、多くのがんの生存率を向上させる効果などが複数の臨床試験で示されている。したがって、現時点では、がんの治療中にメラトニンを1日10〜40mg使用する根拠はあると考えられている。しかし、がん治療における有効性(抗がん剤や放射線治療の副作用軽減作用など)を認めなかったという報告もあり、また、がん患者における臨床試験の報告は、特定の研究グループに偏っており、より大規模な臨床試験による再現性の確認が必要と指摘されている。したがって、がんに対するメラトニンの有効性を無条件で支持できるわけではないので、過大な期待はできない。

メラトニンは脳の松果体から分泌されるホルモン(トリプトファンから合成)で、体のサーカディアンリズム(概日リズム)の維持に関係する。不眠や時差ぼけを解消するサプリメントとして有効性が示されており、欧米で使用されている。
(日本ではサプリメントとして認可されていないので、個人輸入によって入手する。あるいは医師の個人輸入で処方薬として処方しているクリニックから入手する)
最近の研究で抗老化作用や抗がん作用なども報告されている。メラトニンには抗酸化作用や免疫増強作用やその他多く抗腫瘍効果があることが基礎研究で示されており、臨床試験でも有効性を示す結果が得られている。
睡眠障害や時差ぼけには1〜3mg程度のメラトニンがサプリメントとして使用されているが、一日に20〜40mgくらいの多い量を使用するとがんにも効果があることが複数の臨床試験で示されている。がん治療に関してメラトニンには以下のような効果・効能が報告されている。

1)メラトニンには抗酸化作用があり、活性酸素によるダメージから細胞を保護する。メラトニンの抗酸化作用は、活性酸素だけでなく、一酸化窒素や過酸化脂質など様々なフリーラジカルを消去できることが特徴で、さらに、グルタチオンペルオキシダーゼ、スーパーオキシドデスムターゼ、カタラーゼなどの細胞内の抗酸化酵素の活性を高める効果も報告されている。

2)メラトニンはがん細胞に対する免疫力を高める。Tリンパ球や単球の表面にメラトニン受容体があり、メラトニンはこの受容体を介してリンパ球や単球を刺激して、インターフェロンγ(IFN-γ)やインターロイキン(IL)1,2,6,12などの免疫反応を増強するサイトカイの分泌を促進する作用がある。IL-2の産生によってナチュラルキラー細胞が活性化される。
メラトニンはリンパ球内のグルタチオンの産生を増やしてリンパ球の働きを高める効果が報告されている。メラトニンは免疫細胞を活性化するだけでなく、抗がん剤によるダメージからリンパ球や単球を保護する作用もある。
ストレスによる免疫力の低下を抑え、感染症に対する抵抗力を高める効果が、動物実験で示されている。臨床試験では、肺がんや大腸がんなどで、インターロイキン-2による免疫療法と併用して、抗腫瘍効果の増強が確認されている。

3)メラトニンはがん細胞自体に働きかけて増殖を抑える効果も報告されている。
メラトニンには、腫瘍血管の新生やがん細胞の増殖、転移を阻害する作用が報告されている。
メラトニンは培養細胞を使った研究で、乳がん細胞のp53蛋白(がん抑制遺伝子の一種)の発現量を増やし、がん細胞の増殖を抑制することが報告されている。また、エストロゲン依存性のMCF-7乳がん細胞を使った実験で、エストロゲンとエストロゲン受容体の複合物が核内のDNAのエストロゲン応答部位に結合するところをメラトニンが阻害することによって、エストロゲン依存性の乳がん細胞の増殖を抑えることが報告されている。
動物実験では、乳がん、前立腺がん、悪性黒色腫、白血病などで、がんの増殖を抑える効果が示されている。人間の腫瘍においても、メラトニン摂取によって多くの固形がんで生存率を向上させる効果が報告されている。

4)メラトニンは抗がん剤や放射線治療の副作用を軽減し、さらに抗がん剤や放射線による抗腫瘍効果を増強して生存率を高める効果が複数の臨床試験で報告されている。

○悪性脳腫瘍(神経膠芽腫)30例のランダム化比較試験で放射線照射単独群の1年生存率が6.3%に対して、放射線照射と1日20mgのメラトニンを併用した群の1年生存率は42.9%であった。(Oncology 53:43-46, 1996)
○転移を有する進行性非小細胞性肺がん患者100例を対象に、シスプラチンとエトポシドの抗がん剤単独群50例と抗がん剤+メラトニン治療群50例に分けたランダム化比較臨床試験では、神経毒性の副作用は抗がん剤単独群が41%に対してメラトニン併用群が18%、血小板減少は抗がん剤単独群が20%に対してメラトニン併用群は14%であった。10%以上の体重減少は抗がん剤単独群では41%に対してメラトニン併用群では6%、体力低下は抗がん剤単独群では35%に認められ、メラトニン併用群では8%であった。これらの差はいずれも統計的に有意であった
完全寛解と部分寛解を足した奏功率は、抗がん剤単独群が18%に対して、メラトニン併用群では35%。完全寛解率は抗がん剤単独群では0%であったが、メラトニン併用群では4%に認められた。抗がん剤単独群では2年以上の生存率は0%であったが、メラトニン併用群では5年以上の生存率が6%(49例中3例)であった。(J Pineal Res 35:12-15, 2003)
○手術不能の肝細胞がんの肝動脈化学塞栓療法(TACE)による治療前後にメラトニン(20mg/日)を服用すると切除手術の実施率と生存率を高める効果がある。TACE実施後に切除手術が可能になったのはTACE単独群が4%に対して、TACE+メラトニン併用群は14%に向上し、2年生存率はTACE単独群が26%に対してメラトニン併用群は40%であった。(Hepatobiliary Pancreat Dis Int, 1:183-186, 2002)


5)ホルモン療法(タモキシフェン)を受けている進行した乳がん患者において、1日20mgのメラトニンの服用に延命効果があることが報告されている。

6)手術前後に服用すると、創傷治癒を早める効果や、免疫力を高めて感染症を予防する効果が報告されている。

7)がん性悪液質を改善する効果が報告されている。末期がん患者に投与して、生存期間を延ばす効果が報告されている。
70人の非小細胞性肺がん患者を対象としたランダム化試験ではメラトニン(20mg/日)は、進行した悪液質の患者数を有意に減少させた。(Lissoni, 1997)(26% 対 5%, p<0.001)
最近の小規模ランダム化試験では、メラトニン(18mg/day)と魚油(ω3系不飽和脂肪酸)30ml/dayの併用で体重増加の傾向が示唆(Person, 2005)

(問題点)
○有意に睡眠の導入時間を短縮し、睡眠の質を向上し、総睡眠時間を延長する。しかし、睡眠に対する効果は健常人を対象にした試験であり、がん患者に対する有効性は今のところ不明。
○がん治療における有効性(抗がん剤や放射線治療の副作用軽減作用など)を認めなかったという報告もあるので、有効性を無条件で支持できるわけでもない。
がん患者における生存率については、一部の特定の研究グループが多数報告しており、より大規模な臨床試験が必要と指摘されている。

プロバイオティクスとプレバイオティクス

(まとめ)プロバイオティクス(乳酸菌製品)やプレバイオティクス(フルクトオリゴ糖や食物繊維など)のサプリメントは、腸内細菌叢の乳酸菌を増やして腸内環境を良くし、免疫力を高める効果がある。臨床試験で、大腸がんの予防効果、大腸がんや膵臓がんなど腹部手術後の感染症の予防効果、抗がん剤による下痢や腹部不快感を緩和する効果などの有効性がランダム化比較臨床試験で明らかになっている。副作用もほとんどなく、抗がん剤との相互作用や手術前後の服用も全く問題ないので、がん治療中のサプリメントとして有用性は高い。

プロバイオティクス(probiotics)は文字通りには「生命に有益な物質」という意味であるが、健康に有益な効果をもたらす腸内細菌(いわゆる善玉菌)を指す。「腸内フローラの善玉菌と悪玉菌のバランスを改善して生体に有益な効果をもたらす生菌添加物」のことで、乳酸菌が代表。乳酸菌はビフィズス菌やアシドフィルス菌、ラクトバチルス、ブルガリア菌など乳酸を産生する腸内細菌。
フルクトオリゴ糖など善玉菌の増殖を促進する物質のことをプレバイオティクス(prebiotics)と呼ぶ。腸内の善玉菌に働いて、増殖を促進したり活性を高めることによって健康に有利に作用する物質のこと。
フルクトオリゴ糖は短鎖糖質で、3〜10個の糖分子から構成されており、最低その2つはフルクトース。この分子は基本的にはヒトには消化されない。しかし、ビフィズス菌と乳酸菌は成長と増殖のためにフルクトオリゴ糖を優先的に利用する。対照的に有害細菌はこれらの短鎖糖質を利用できない。
このようなプロバイオティクスとプレバイオティクス組み合わせると、効果的な腸内環境の改善ができる。プロバイオティクスとプレバイオティクスとを合わせたものをシンバイオオティクス(synbiotics)と呼んでいる。

乳酸菌で発酵させた食品(ヨーグルトなど)は、世界中の多くの人びとに利用されている。ヒトと乳酸菌の共生関係は、栄養上も治療の上でも重要な利益があり、長い歴史がある。
常在細菌叢の一部として、乳酸菌は栄養素を求めて他の微生物と競合的に働き、pHおよび酸素濃度を病原微生物(悪玉菌)にとって好ましくない値に変更し、物理的に付着部位を覆うことによって病原体の侵入を予防したり、悪玉菌の増殖を抑える様々な因子を産生することによって、人間の健康に維持・増進に役立っている。

腸内細菌は、腸管内の物質代謝を通して人の発がんにも重要な影響を及ぼす。ウェルシュ菌やクロストリジウム菌などのいわゆる悪玉菌といわれている腐敗菌は、腸内の蛋白質やアミノ酸を腐敗させて発がん物質を産生する。一方ビフィズス菌などの乳酸菌は、悪玉菌の増殖や発がん物質の産生を抑制し、免疫力増強作用なども有しているため、大腸がんのみならず種々のがんの予防に有効であることが知られている。

ビフィズス菌は取り続けないと年令とともに減少し、せっかく増えたビフィズス菌も、ヨーグルトを食べるのをやめれば1週間で元の状態に戻ってしまうといわれている。したがって、腸内細菌の善玉菌を増やすには、ヨーグルトなどの乳酸菌飲料を毎日飲み続けることが大切。毎日10〜100億個の生きたアシドフィルス菌あるいはビフィズス菌の摂取が適当と言われている。
さらに、ビフィズス菌の餌となるオリゴ糖や食物繊維を一緒にとるとより効果的。大豆などに含まれるオリゴ糖は、小腸で消化されることなくビフィズス菌がいる大腸までたどり着いてビフィズス菌を増やす。最近、オリゴ糖を使ったシロップや清涼飲料水等がたくさん発売されており、ビフィズス菌にオリゴ糖などを添加した健康食品も販売されている。
プロバイオティクスおよびプレバイオティクスは安全で、多く摂取しても胃腸ガスの一時的な増加以外に副作用は伴わないので、がん患者に日頃から摂取が勧められるサプリメント。
ヨーグルトや、フルクトオリゴ糖の多いバナナ、タマネギ、アスパラガス、ニンニク、トマトなどを多く食べ、さらに乳酸菌やフルクトオリゴ糖を含むサプリメントを利用して、積極的に腸内環境を善玉菌優位にすることは、免疫力を増強し、解毒力を高め、胃腸の働きを良くする効果が期待できる。
プロバイオティクスやプレバイオティクスのがん患者に対する臨床試験として以下のような報告がある。 

○ 膵臓がんで膵頭十二指腸切除を受けた64例を対象にしたランダム化比較試験。
プロバイオティクス投与群は、入院後から手術までの3〜15日間プロバイオティクスを摂取し、手術後は術後2日目から再開し退院まで継続した。手術後の感染症の発生率は、プロバイオティクス投与群は23%(7/30)であったのに対して、対照群(非投与群)が53%(18/34)であり、プロバイオティクス投与により手術後の感染症の頻度が低下した。(Hepatogastroenterology 54: 661-663, 2007)
○ 100例の大腸がん患者を対象に、大腸がん切除手術前6日間と術後10日間プロバイオティクスの投与を受けた50例とコントロール群50例を比較したランダム化試験の結果、プロバイオティクス投与群では、術後の感染症の合併症が減少した。プロバイオティクスは腸内細菌叢の状態を良くし、腸管粘膜のバリアを強め、細菌感染症のリスクを低減させる効果がある。(Aliment Pharmacol Ther, 2010 Oct 25, [Epub ahead of print])
○ 5-FUを含む抗がん剤治療を受けた150例の大腸がん患者を対象にしたランダム化試験。
抗がん剤治療中に発生したグレード3または4の下痢は、対象群が37%に対して、乳酸菌(Lactobacillus)と食物繊維(グアガム)のサプリメントの投与を受けた群では22%と低下。プロバイオティクス投与により腹部不快感は緩和し、入院期間も短縮された。腹部症状の副作用による抗がん剤の用量の減量の頻度も少なくなった。
乳酸菌のサプリメントは5-FUの副作用の腹部不快感や下痢を緩和する。(Br J Cancer 97:1028-1034, 2007)
総合ビタミン・ミネラル(マルチビタミン&ミネラル)

(まとめ)食事摂取が不十分な時やがん治療で体力の消耗や栄養状態が悪化しているときは、マルチビタミン・ミネラルの摂取は有用と思われる。これら微量栄養素の不足は、がん治療の副作用の程度を高め、回復を遅らせる可能性がある。ビタミンDやカルシウムやセレンのように一部のがんで予防効果が示唆されているものもあるが、研究によって結果に違いもある。一般的に、微量栄養素の補充はできるだけ食事に近いかたちにすべきであり、食品の抽出物や濃縮物、微量栄養素の混合物が良い。海外のマルチビタミン・ミネラルのサプリメントは日本人が過剰摂取気味のヨウ素が含まれていたり、日本人の食事で十分な量を摂取しているセレンが多く含まれていたり、がんを悪化させる鉄や銅が含まれていることがある。日本人の食生活に合った設計、栄養素の過剰摂取やがんの悪化防止に配慮した設計になっている製品を選ぶ必要がある。

マルチビタミン・ミネラルのサプリメントは、食事からの栄養摂取が十分なときは必要ない。ただし、食事摂取が不十分な時、がん治療で体力の消耗や栄養状態が悪化しているときは、人体に必要な微量栄養素(ビタミン・ミネラル)を効率よく摂取できるマルチビタミン・ミネラルのサプリメントを利用することは有用。
臨床試験でも、ビタミンやミネラルが不足している人を対象とした場合には、効果が示されている。
例えば、中国山西省Linxianで栄養状態の不良な人を対象に、βカロテン、αトコフェロール、セレンを含む複合サプリメントを投与したところ、胃がんの罹患率と死亡率を下げ、がんによる全体の死亡率を13〜21%減少させた。
フランスの研究では、ビタミンE、βカロテン、セレン、亜鉛の複合アプリメントががんによる死亡率を男性で31%減少させたが、女性では減少は認められなかった。

単一のビタミンをサプリメントとして用いたランダム化試験では、がんを抑制するのに有効なものは見つかっていない。
抗酸化性ビタミン(ビタミンE、ビタミンC,βカロテンなど)を用いた臨床試験の結果は、概して不成功に終わっており、場合によっては有害ですらあった。
喫煙者ではβカロテンは肺がんのリスクを増大させた。
頭頸部がんを防ぐ目的でビタミンEを用いた臨床試験では、発がんのリスクを高め、生存率を下げた。
栄養状態を改善する目的でのベース・サプリメントとしてマルチビタミン・ミネラルは有用であるが、栄養状態を改善する以外の目的で、特定のビタミンを過剰に摂取することは勧められない。

日本人の食生活に合った設計、栄養素の過剰摂取に配慮した設計になっていること。
例えば、海外のサプリメントは日本人が過剰摂取気味のヨウ素が含まれていたり、日本人の食事で十分な量を摂取しているセレンが多く含まれていることがある。鉄の取り過ぎはがんや肝炎にはマイナスの場合もある。

ビタミンDは日光浴で必要量は体内で産生されると言われているが、食事からの摂取が不足しがちなときや日光に当たることが少ない場合は、1日10μg(400単位)程度の摂取はがん患者に有用と思われる。ただし臨床試験の結果によると、がん予防効果を期待するときは1日25〜50μg(1000〜2000IU)程度が必要という報告がある。
ビタミンDには免疫力を高める効果やがん予防効果が指摘されている。
疫学研究で、血中のビタミンD濃度が高いほど大腸がんや乳がんの発生率が低下することが報告されている。
血中のビタミンDの濃度が高いほど再発率や死亡率が低いことが肺がんや大腸がんや乳がんで報告されている。例えば、304人の大腸がん患者を追跡した研究では、ビタミンDの血中濃度が高い上位25%の人は、血中濃度が低い下位25%の人に比べて、大腸がんによる死亡率が約半分であったと報告されている。(J Clin Oncol 26:2984-2991, 2008)
ビタミンDのサプリメントによるがん予防効果については研究によって結果が異なるが、これは服用量と関連がある。
カルシウム(1日1000mg)とビタミンD(1日400IU)のサプリメントを閉経後の女性に投与して平均7年間追跡した臨床試験が米国で行われている。この研究はカルシウムとビタミンDのサプリメントが閉経後女性の骨折を予防できるかどうかを調べる目的で行われたが、ついでに大腸がんや乳がんの発生率についても解析されている。その結果、カルシウムとビタミンDをサプリメントで投与しても、大腸がんや乳がんの発生率を下げる効果は認められなかった。(N Engl J Med, 354: 684-696, 2006, J Natl Cancer Inst,100:1581-1591,2008)
しかしこの研究に対しては、1日400IU(10μg)のビタミンD投与量が少なすぎるという批判もある。つまり、400IUのビタミンDは骨粗しょう症の予防には有効でも、がんの予防には足りないという意見。
血中25(OH)ビタミンD濃度と大腸がんの発生率に関する5つの疫学研究をメタ解析した報告によると、大腸がんの予防効果を期待できるビタミンDの摂取量として、1日1000〜2000IU(25〜50μg)が推奨されている。(Am J Prev Med, 32: 210-216, 2007)
ビタミンD(1100IU/日)とカルシウム(1400〜1500mg/日)をサプリメントで投与したランダム化二重盲験試験では、がんの発生自体を半分以下に減少させる効果が認められている。(J Clin Nutr. 85:1586-1591, 2007)
日本人は食事から平均で7〜8μg程度のビタミンDを摂取している。この摂取量は健康維持が目的では必要量を充たしているが、がん予防や再発予防を期待するには不十分かもしれない。複数の研究結果を総合すると、1日25〜50μg(1000〜2000IU)のビタミンDの摂取であればがんの発生や再発予防に効果が期待できる可能性がある。
ただし、成人の場合の摂取量の上限(健康障害を起こすことのない最大摂取量)は50μg(2000IU)となっているので、これ以上の摂取は推奨できない。ビタミンDを過剰に摂取すると、血清中のカルシウム濃度が高くなり、腎臓などへのカルシウムの沈着や、吐き気や食欲不振や便秘などの副作用が起こることがある。また、フィンランドで行われた研究では、喫煙者では、ビタミンDの血中濃度が高い上位25%は膵臓がんの発生率が3倍になるという報告があるので、喫煙者はビタミンDのサプリメントは逆効果の可能性がある。
ビタミンDを多く含む魚やキノコの豊富な食事や、屋外での適度な運動のような健康的な生活習慣は、体内のビタミンDの量を増やすことによって、骨粗しょう症の予防とともにがんの再発予防に効果があると言える。このような食事や生活習慣が困難な場合は、喫煙者以外は1日1000IU(25μg)程度のビタミンDのサプリメントを摂取することは効果が期待できるかもしれない。

2つのメタアナリシスでは、カルシウムのサプリメントが、大腸腺腫の既往のある患者では、腺腫の再発や大腸がんの発生を減らすことが示されている。
鉄は酸化障害を触媒化してがんの発症や進展に関与している可能性がある。したがって、がん患者は鉄欠乏性貧血が明らかな場合以外は、鉄の補充は避けた方が良い。
銅は血管新生の多くの経路に関与しており、がん患者は銅の補充は避けるべきだという意見がある。
マグネシウムはがん増殖に対して促進と抑制の両方の作用がある。マグネシウム欠乏はシスプラチンやセツキシマブの治療にともなっておこりやすいと言われている。血中マグネシウムの低下は、アントラサイクリン系薬の心毒性を増強させる。
したがって、これらの治療中はマグネシウムの補充が有用な場合もある。

以上のように、ビタミンとミネラルは、不足も取り過ぎも問題があるので、サプリメントでの補充はメリットとデメリットがあるので、注意が必要。一般的には、微量栄養素の補充はできるだけ食事に近いかたちにすべきであり、食品の抽出物や濃縮物などが良い。

キノコやβ-グルカンのサプリメント

(まとめ) 日頃から免疫力を高めておくことは、がんの発生や再発の予防、感染症に対する抵抗力の増強という点において有用。がん治療中の日和見感染症の発生予防などの副作用の軽減に効果が期待できる。動物実験では腫瘍の縮小効果なども報告されているが、人間ではがんを縮小させるような効果は証明されていない。また、リンパ球系の腫瘍や悪液質など炎症反応が強いときなど、がんの種類や状況によっては、病状を悪化させる場合もある。ベータグルカンという成分名とその含量だけでは抗腫瘍効果の根拠にはならない。商品レベルでの有効性や安全性のデータをもった商品を選択することが大切。

アガリクス、メシマコブ、アラビノキシラン、AHCC、マイタケD-フラクション、霊芝、冬虫夏草、チャーガなど、様々なキノコおよびキノコ由来の多糖成分を使ったサプリメントが販売されている。
きのこ類の抗がん作用は古くから指摘されており、その研究から、抗がん活性をもった多糖(抗腫瘍多糖)が発見された。抗腫瘍多糖の代表が(1,3)-ベータD-グルカンや(1,6)-ベータD-グルカンなどベータグルカンと総称される多糖体で、類似の構造や免疫増強作用を有する多糖体や蛋白多糖体が、きのこ類や細菌などから多数見つかりがん治療に利用されている。
ベータグルカンなどの抗腫瘍多糖は、マクロファージ・T細胞・ナチュラルキラー細胞などの免疫細胞を刺激し、サイトカイン産生や補体系を介して免疫増強に関わる。動物実験では、経口投与でベータグルカンが免疫増強作用を示し、ベータグルカンの分子量や構造がその活性に影響することが知られている。高分子量のベータグルカンは消化管からは吸収しにくいので、腸粘膜に存在する小腸上皮間Tリンパ球などを介して腸管免疫を活性化し、全身の免疫機能を高める作用機序が提唱されている。
免疫監視機構の活性化や増強作用が、がんの予防や治療に有用であることは、医学的に認められている。がんが顕在化する要因として免疫監視機構の働きの低下は重要であり、がんが発生すること自体、免疫機能の低下を示唆している。したがって、がんの標準的治療による体力や免疫機能の低下を改善することは、がんの再発予防や延命につながると考えられ、さらに、高齢化社会で今後問題になってくる多重がん(がんが治癒したあとに別の臓器に新たに発生するがん)の発生予防にも効果が期待されている。がん治療に伴う抵抗力低下に起因する日和見感染の予防にも有用と考えられる。
蛋白多糖体や細菌製剤などがん抗原非特異的な免疫療法剤(クレスチンやピシバニールなど)が、一部のがんにおける術後補助療法として認可されており、がん治療の補助としてのベータグルカン製剤の有用性は十分に示唆されている。カワラタケ由来の多糖のクレスチンの臨床的有用性は複数の臨床試験で示されているので、キノコやβグルカンのサプリメントも効果が十分に期待できる。しかし、アガリクス(Agaricus blazei Murill)やメシマコブ(Phelinus linteus)などを材料にしたサプリメントの効果に関しては誇大広告まがいのものも多く、有効性に疑問を抱く臨床医が多いのも事実である。
ベータグルカンのような免疫賦活物質は、動物実験レベルでは抗腫瘍効果を示す研究結果は数多く報告されているが、医薬品として認可されているクレスチンなどを除いて、サプリメントでは人間での有効性を示すデータは乏しい。
ベータグルカンという成分名とその含量だけでは抗腫瘍効果の根拠にはならない。動物で効いても人間に効くとは限らないという点を認識しておくことが大切。
商品レベルでの有効性や安全性のデータをもった商品を選択することが大切。
製品としては、AHCCやマイタケ-D-フラクションが臨床試験のデータが多数あり、抗がん剤の副作用軽減などある程度の有用性が報告されている。ただし、有効性を断定できるだけの十分に質の高い臨床試験の結果はまだ報告されていない。

ウコンのクルクミン

(まとめ)ウコンは中国やインドの伝統医療で炎症性疾患の治療など使われており、その主成分のクルクミンには抗酸化作用、抗炎症作用、肝臓保護作用、抗がん作用など多彩な作用が報告されている。
クルクミンの抗がん作用については膨大な数の論文がある。その多くは培養がん細胞を使ったin vitorの研究か、マウスやラットの移植腫瘍や発がんモデルでの動物実験での研究であるが、臨床試験も多く報告され、現在も多くの臨床試験が進行中。がん予防効果や、進行膵臓がんに対する有効性を示唆する報告などがある。しかし、クルクミンは腸管からの吸収率が低く、体内での半減期も極めて短いので、その有用性については疑問も多い。現時点での臨床試験の結果からは1日8g程度のクルクミンを服用しないと効果が期待できそうも無いので、サプリメントとしてがん治療に使うには問題がある。生体利用性を高めたクルクミン誘導体の開発などが行なわれている。通常のクルクミンをがん治療に使うメリットは少ない。

インド伝統医学のアーユルヴェーダで炎症性疾患の治療に使用。炎症性疾患に対してある程度の有効性が示唆されている。抗酸化作用や抗炎症作用があるので、発がん予防効果が期待されている。さらに、様々なメカニズム(COX-2阻害、NF-kB阻害、血管新生阻害、アポトーシス誘導など)での抗腫瘍効果が報告されている
動物実験で抗炎症作用や発がん抑制作用が報告されているので、ある程度の有効性はあると思われるが、ヒトのがんに対する効果はまだ十分なエビデンスがあるわけではない。
がん患者での検討も行なわれているが、まだ小規模の臨床試験で、有効性が示唆されている段階。

○がんのハイリスクグループ(前がん病変がある患者)に投与してがん予防効果が示唆されている。
クルクミンを1日500mgから初めて8gまで増量しながら3ヶ月投与。
子宮頸部の異型上皮、胃の腸上皮化生(intestinal metaplasia of the stomach)や膀胱の異型上皮(膀胱がん切除後)、口腔の白班(leukoplakia)、皮膚のBowen病などの前がん病変の患者25例中7例で、前がん病変の組織学的な改善を認めた。(Anticancer Res 2001, 21:2895-2900)
○大腸がん患者15例にウコンエキスを1日440〜2200mg(クルクミンに換算して36から180mgの低用量)を4ヶ月間投与。腫瘍マーカーの低下が1例、CT上の腫瘍不変(stable disease)が5例に認められた。(Clin Cancer Res, 2001, 7:1894-1900)
○クルクミンの大量投与(900〜3600mg, 8000mgなど) で、進行大腸がん患者で腫瘍の増大が抑制(数ヶ月のstable disease)。ただし、服用量が多くなると下痢などの副作用が出る。
(Clin Cancer Res 2004, 10:6847-6854)
○家族性大腸ポリポーシスの患者5人に対してクルクミン450mg+ケルセチン20mgを1日3回、6ヶ月間の投与で5人全ての患者で効果がみられ、ポリープの数(平均減少率60.4%)とサイズ(平均減少率50.9%)のどちらも統計的に有意な減少であった。
○進行膵臓がん患者21例にクルクミンを1日8g投与。1例で18ケ月間の病状安定。1例において一時的ではあるが著明(73%)な腫瘍縮小を認めた。(Clin Cancer Res, 2008, 14:4491-4499)
この報告に対して、クルクミンを1日8gの投与で血中濃度は 22-41 ng/mLにしか達しないのに、なぜ効果がでるのかという疑問の意見もある。クルクミンの分解産物のferulic acid と vanillinが効いているという推測もある。

現在、様々ながんでクルクミンの抗腫瘍作用に関する臨床試験が進行中。クルクミン単独、あるいは抗がん剤など他の治療との併用効果が検討されている。多くの研究者がクルクミンの抗がん作用に注目して研究しているのは確か。
ただ、クルクミンのbioavailability(生体利用性)が低いので、腸管からの吸収や薬効が高いクルクミン誘導体の開発などが行なわれている。
クルクミンのバイオアベイラビリティが極めて低いこと、血中の半減期が短いことが問題視されている。
ラットで500mg/kgのクルクミンを投与して血中濃度のピークは1.8ng/ml。
実験でがん細胞の増殖を抑制する濃度はμg/mlのレベル。
したがって、人間が数グラムのクルクミンを摂取しても、がん細胞に何らかの影響を及ぼすことは考えにくいという意見がある。腸管からの吸収を良くすることが必要。

人間での第1相試験:8グラムのクルクミンを3ヶ月間服用して、血中のクルクミン濃度は1μM程度。腸管からの吸収が悪い。Bioavailabilityが悪い。他の研究では、数10nMレベル。研究によって結果が異なる問題がある。
服用後1〜2時間で血中濃度はピークになり、急速に代謝されていく。血中での半減期が短い。クリアランスが早い

培養細胞を使った基礎実験で、クルクミンがいくつかの抗がん剤(カンプトテシン、シクロフォスファミド、イリノテカンなど)の効き目を弱める可能性が指摘されている
一方、マウスの乳がんの移植腫瘍の実験で、パクリタキセルと併用して、抗腫瘍効果を著明に高めたという報告もある。
したがって、現時点では、ウコンやクルクミンの抗腫瘍効果を期待してサプリメントで大量に服用するのは推奨できない。
大規模な臨床試験の結果が出るまでは、その有効性は判断できない。

抗酸化性サプリメント

(まとめ)抗酸化性サプリメントは、体内での酸化障害を防ぐことによって、がん予防や悪液質の改善において有用であることが指摘されている。がん治療中の抗酸化性物質の摂取に関しては、多くの臨床試験と基礎研究が行なわれているが、結論は一定でなく、賛否両論あるのが現状。抗がん剤の種類や抗酸化物質の種類の違いによって、その併用がメリットがある場合と、デメリットがある場合があるので、最新の知見に基づいて判断されなければならない。治療中の抗酸化物質の安易な使用は勧められないが、併用がプラスになる場合もあるので全てを否定はできない。

抗酸化性物質がフリーラジカルによる害を軽減して、がんの発症予防に有効であることは多くの研究で支持されている。しかし、がん治療中における抗酸化サプリメント(ビタミンC,ビタミンE,ビタミンA,カロテノイド,CoQ10, グルタチオンなど)の使用は、腫瘍学の中でも最も議論の余地のある問題の一つ。
抗腫瘍活性の増強や副作用の軽減を目的として、抗がん剤や放射線治療と併用して、抗酸化性サプリメントを摂取しているがん患者は多い。例えば、Women's Health Eating Initiativeという大規模研究において、乳がんの女性のうち、58%が総合ビタミン剤、46%がビタミンE、42%がビタミンC、10%が抗酸化物質の複合サプリメントを摂取していることが報告されている。
補完代替医療を行なっている医療関係者の多くは、抗酸化性サプリメントが抗がん剤や放射線治療の副作用軽減と効果増強に有用であると考えている。
一方、西洋医学のがん専門医の間では、抗酸化性サプリメントは抗がん剤や放射線治療の効き目を弱める可能性があるので使用は推奨できないという意見が主流になっている。

抗がん剤の抗がん作用は、酸化障害によるものとは限らないため、抗酸化性サプリメントの影響は抗がん剤の種類によって異なる。
多くの研究で、がん治療中の患者は、抗酸化物質の血中濃度が低下し、この低下が副作用と関連している可能性が指摘されている。したがって、抗酸化物質をサプリメントで補充する意義を指摘する意見は多い。
しかし、抗酸化剤の抗がん作用を検討した臨床研究は、ランダム化試験がほとんど無く、また結果も一様でない。多くの臨床研究はサンプル数が十分でない、ランダム化が行なわれていないなどの問題もある。
抗がん剤治療中の抗酸化物質の併用により、抗腫瘍効果の減弱はみられないという報告も多いが、これらの報告により抗酸化性サプリメントを推奨できるほどのエビデンスが得られているわけでもない。
抗がん剤の種類や抗酸化物質の種類の違いなど、組み合わせによって結果が異なる。
以下のような報告や意見がある。

○ 大規模ランダム化比較臨床試験の結果から、放射線治療においてβカロテンやビタミンEの使用は避ける。その他の抗酸化性サプリメントも必要量を上回る摂取は避ける。

○ 抗がん剤治療中の抗酸化性サプリメントの効果に関するランダム化比較試験はほとんど無いため、さらなる検討が行なわれ、結論が出るまで、抗がん剤期間中の抗酸化サプリメントの使用は安易に勧めるべきではない。
(ただし、この意見は代替医療を行なっている多くの医師は賛成できないかもしれない。治療の種類や抗酸化物質の種類によっては、いくつかの抗酸化物質の摂取により、抗がん作用を阻害することなく、抗がん剤や放射線治療の効果を増強、あるいは副作用を軽減する可能性が報告されている。)

○ 抗がん剤治療中の抗酸化性サプリメントの摂取による再発率および生存率への影響を検討した6つの臨床研究のうち、2つの報告では、抗酸化物質の摂取による生存率の改善を報告、1つの報告では短期的には改善するものの長期的には優位性がないことを示している、3つの報告では抗酸化物質の摂取は生存率を高める効果を認めていない。

○ ビタミンCは、抗酸化作用や免疫増強など様々な機序で、がんに対する抵抗力を高め、抗がん作用があることが報告されている。がん患者ではビタミンCが枯渇していることが多いので、ビタミンCの補充の有用性が指摘されている。末期がんでビタミンCの補充で生存期間が延長することが報告あれているが、それを否定する結果も報告されている。
高用量のビタミンCの点滴投与ががん細胞に細胞傷害性を示すことが報告されている。しかし、同等の効果が経口投与した場合に起こりうるかは不明。

○ 抗がん剤治療中の抗酸化物質(ビタミンC,ビタミンE,βカロテン、ビタミンA,CoQ10など)の複合剤の併用効果に関して、ランダム化臨床試験がいくつか行なわれているが、副作用や効果に対する改善効果は認められていない。

○ がん性悪液質の状態では、細胞内グルタチオンの枯渇によって病状が悪化する。グルタチオンを豊富に含むサプリメントの摂取によって悪液質の改善が認められている。
抗酸化物質の複合剤の摂取により、がん性悪液質が改善できる可能性が報告されている。種々のがん患者44人にαリポ酸300mg,、ビタミンE400mg、ビタミンC500mgを含むサプリメントを投与。食欲が増進し、体重および除脂肪体重の増加が認められた。

○ アントラサイクリン系抗がん剤の心臓毒性に対するコエンザイムQ10の有効性を示す報告がある。
がん患者において血中CoQ10濃度が低下しており、CoQ10の補充の有用性が示唆されている。
CoQ10の心臓保護作用についてはメタアナリシスで示されている。大規模な第3相ランダム化臨床試験で検証される必要がある。

以上のように、がん治療中の抗酸化性物質の摂取に関しては、多くの臨床試験と基礎研究が行なわれているが、結論は一定でなく、賛否両論あるのが現状。
結論が出るまでは、抗がん剤や放射線治療中は、抗酸化性サプリメントの過剰な摂取は控えておくのが良い。治療を行なっていない状況では、がんの予防や悪液質の改善などで抗酸化性サプリメントは有用かもしれない。

大豆イソフラボン

大豆製品が前立腺がんや胃がんなど多くのがんの発生や再発を予防する効果が多くの疫学的研究や臨床試験で明らかになっている。大豆に含まれる抗がん成分として、ゲニステインなどの大豆イソフラボンが重要と考えられている。大豆イソフラボンの抗がん作用とそのメカニズムについては、培養細胞や動物を使った実験で数多く報告されている。大豆イソフラボンの腸内細菌による代謝や体内での生理活性など不明な点も多くあり、人間でのがん予防効果や抗がん作用の証明はまだ十分ではない。大豆イソフラボン単独の検討では、発がんを促進する作用を示唆する報告もある。
ゲニステインなどの大豆イソフラボンには、抗がん剤や放射線治療の感受性を高める効果、乳がんのホルモン治療の効果を高める、前立腺がんを予防する効果が指摘されている。しかし、現時点では、がん治療に大豆イソフラボンのサプリメントを摂取することのメリットを示すエビデンスはない。
大豆イソフラボンのサプリメントより、大豆食品(納豆、豆乳、みそ、豆腐などの)を多く食べる方が好ましい。平均的な日本人が摂取している量の大豆製食品の摂取で、がんの発生や再発を予防する効果が明らかになっている。
ニンニク

がん予防効果が多数の疫学的研究で報告。
生のニンニクを摂取すると、胃がん、結腸がん、喉頭がん、乳がん、子宮体がんの発生率が低下することが、大規模な前向きコホート研究など複数の疫学的研究で示されている。相対リスクは、研究によって異なるが、0.5〜0.8くらいの低下

熟成ニンニクには、S-アリルシステインとS-アリルメルカプトシステインが含まれ、どちらも抗がん作用を示す。大腸内視鏡検査で結腸前がん病変が見つかり外科的切除をした51人をランダムに割り付け、熟成ニンニクとプラセボを投与、熟成ニンニクを12ヶ月間投与した所、腺腫の大きさと数が有為に減少。J Nutr. 2006 Mar;136(3 Suppl):821S-826S.

進行した大腸がん、肝がん、膵がんの患者のNK活性を高める効果が報告されている(Ishikawa, 2006)
 
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