ジクロロ酢酸ナトリウムによる悪性リンパ腫の治療効果

ジクロロ酢酸ナトリウムによって悪性リンパ腫が消滅したいという症例報告があります。その論文の要旨を以下に紹介します。
Case Report :Non-Hodgkin’s Lymphoma Reversal with Dichloroacetate(症例報告:ジクロロ酢酸による非ホジキンリンパ腫の縮小)Journal of OncologyVolume 2010, Article ID 414726, doi:10.1155/2010/414726 (論文の原文はこちら
【論文要旨】
2007年6月、ステージ4の非ホジキン濾胞性リンパ腫と診断された48歳の男性患者が、標準的な抗がん剤治療(リツキサン+CHOP)で3ヶ月間治療を受けて完全寛解したが、約1年後に鼻咽頭と頸部のリンパ節に腫瘍が再燃した。
患者は抗がん剤治療を拒否し、自分でジクロロ酢酸ナトリウムを1日900mg、ビタミンB1を750mg服用した。ジクロロ酢酸ナトリウムの服用を開始後4ヶ月後に腫瘍は完全寛解し、ジクロロ酢酸ナトリウムの服用は継続し、2009年5月の段階で腫瘍の再発は認めていない。

ジクロロ酢酸ナトリウムは嫌気性解糖を阻害する効果があり、糖尿病や高コレステロール血症を示す重度の代謝障害や、小児の先天性乳酸アシドーシスなどの治療に30年間以上にわたって使われている。ジクロロ酢酸ナトリウムの投与量は1日体重1kg当たり10〜50mgで、長期間の投与で末梢神経障害の副作用が出現する。ミトコンドリアのピルビン酸脱水素酵素を活性化することによって嫌気性解糖系を抑制し、グルコースの代謝を活性化し、乳酸アシドーシスを改善する。がん細胞は正常細胞と異なり、酸素が充分に存在する状態でも嫌気性解糖系によってエネルギー(ATP)を産生している。がん細胞はピルビン酸脱水素酵素の活性が低下し、グルコースのミトコンドリアでの酸化(代謝)が抑制され、細胞内は乳酸アシドーシスの状態にある。嫌気性解糖系の亢進によってがん細胞内の乳酸濃度は上昇し、細胞内pHは低下し酸性になっている。このようながん細胞において嫌気性解糖系が亢進している状態はワールブルグ効果として知られている。
ジクロロ酢酸ナトリウムはピルビン酸脱水素酵素キナーゼの活性を阻害する。ピルビン酸脱水素酵素キナーゼはピルビン酸脱水素酵素をリン酸化することによってピルビン酸脱水素酵素活性を阻害する。したがって、ジクロロ酢酸ナトリウムはピルビン酸脱水素酵素の活性を高め、ミトコンドリアでのグルコースの酸化(TCA回路)を促進する。
がん細胞ではミトコンドリアの働きが抑制されていて、アポトーシス(細胞死)が起こりにくくなっている。ジクロロ酢酸ナトリウムによってがん細胞のミトコンドリア活性が正常化すると、細胞内の過酸化水素(H2O2)濃度が上昇し、ミトコンドリアからチトクロームCとカルシウムイオンの放出が起こり、アポトーシスが誘導される。
がん細胞におけるミトコンドリアの異常を是正することは、がん治療のターゲットの一つとして注目されている。がん治療におけるジクロロ酢酸ナトリウムの有効性を検討する大規模な臨床試験の実施が望まれる。

(コメント)悪性リンパ腫は抗がん剤治療が効きやすい腫瘍です。したがって、抗がん剤治療を優先することが必要です。しかし、抗がん剤治療に抵抗性になって効き目が無くなることもあります。そのような場合、ジクロロ酢酸ナトリウムを使った治療を試してみる価値はありそうです。また、抗がん剤治療と併用すると、抗腫瘍効果を高めることができると思います。

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