東京銀座クリニック
 
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がんサバイバーのための栄養と運動:
出典:CA Cancer J Clin 2006; 56:323-353
Nutrition and Physical Activity During and After Cancer Treatment: An American Cancer Society Guide for Informed Choices

がん治療の効果を高め、生活の質(QOL)を良くし、生存期間を延ばすために、がんの治療中や治療後に推奨される食事やサプリメントに関する情報を、多くのがん患者は探しています。
このがん患者の要望に対して、
米国がん協会(the American Cancer Society)の専門会グループがまとめたレポートが発表されています。この報告書では、がんの治療中および治療後や、進行がんの状況になった場合の、食事や運動に関する情報がまとめられています。以下はその要点をまとめたものです。
(本文中のリンクは当クリニックのホームページ上の関連するページです)

【はじめに】

がんと診断されてから死亡するまでの患者は「がんサバイバー」(cancer survivors, がん生存者)と呼ばれ、アメリカ合衆国ではがんサバイバーは1000万人以上います。これらがんサバイバーの多くは、治療効果を高め、回復を早め、再発を防ぎ、そして生活の質を高めるために有効な方法に関する情報を求めています。
治療法の進歩により、がんを持った状態や進行がんの状況でも何年も生存しているがんサバイバーが増えています。米国では、がんと診断された人の65%が5年以上生存しています。このような長期間のがんサバイバーにとって、再発や別のがんの発生を防ぐことが重要です。また、がんが進行した場合には、がんの進行を抑えQOLを高める手段が必要です。
がんの診断を受けた後に「食事の内容を変えるべきか」「もっと運動をすべきか」「体重を減らすべきか」「サプリメントを利用すべきか」といった極めて単純な質問に対しても、明快な答えが無いことに、がんサバイバーは直ぐに気づくはずです。
がんサバイバーは、摂取すべき食事や避けなければいけない食事、運動はどのようにすべきか、どのようなサプリメントやハーブを利用するのが良いのか、ということに関して、書籍やインターネットなどから多くの情報を得ます。しかし残念ながら、それらの情報の内容はしばしば異なっています。

【このレポートの概略】

エビデンス(証拠)に基づく研究をまとめるために、米国がん協会(the American Cancer Society)は、栄養や運動やがんの領域の専門家からなる検討グループを作り、2003年にまとめた報告書にさらに新しい情報を加えて作成しました。
この報告書は医療関係者向けに作成したものですが、がんサバイバーやその家族も利用できます。
この報告書は、がん治療中、治療後の回復期、再発予防の時期、進行がんの状況になった場合に分けて、がんサバイバーのための栄養や運動に関する情報をまとめ、さらにがんの種類別の情報、よくある質問についても解説しています。
ここに記載している栄養や運動による方法は、通常の治療法に置き換わるものではありません。たとえば、吐き気や倦怠感に対する栄養学的治療法を提示していますが、通常医療の中にこのような症状をより有効に治療する手段があります。がんサバイバーは適切な通常治療や緩和ケアーを受けながら、さらにQOLを改善するためのセルフケアーの手段として、ここに解説している情報を利用して下さい。

【がん治療中の栄養】

治療が始まる前でも、がんによって体の代謝や生理機能に変化が生じてタンパク質、炭水化物、脂肪、ビタミン、ミネラルの需要が高まります。食欲が低下し、食べてもすぐに満腹になったり、味覚や嗅覚の変化、胃腸での消化吸収機能の異常などの症状は、がん治療の一般的な副作用であり、栄養摂取を妨げる結果、栄養不良に陥ることになります。
顕著な体重減少や栄養不良の状態は、がんの種類によってその程度は様々ですが、がんの診断を受けた段階の患者の50%以上で見られています。
すでに栄養状態が低下している場合や、消化管の切除手術を受ける場合のように体重が低下するリスクのあるがんサバイバーは、食事からの栄養補充を十分にして体重が減少しないようにすることが重要です。治療法を計画している時に、栄養状態を評価し、体重減少や栄養素の不足を改善しておくことが大切です。
手術や抗がん剤や放射線治療は、栄養素の需要を増大させると同時に、吐き気や味覚の変化、食欲低下や胃腸の働きを低下させることなどによって栄養状態を低下させ、体重や筋肉を減少させ、体力や抵抗力を低下させます。このような状況に応じて、食事の内容を変え、栄養の需要を満たすことが大切です。
がん治療中の栄養サポートの目標は、栄養素が不足しないように、また不足した栄養素を補充し、体重や筋肉の減少を防ぎ、栄養低下の原因となる副作用(食欲低下、吐き気、味覚異常、胃腸の働きの障害など)を少なくし、生活の質を高めることです。食事の内容を改善するだけで、治療の副作用を軽減し、生活の質を良くすることができます。次のような注意が参考になります。

1. 食欲が低下している場合は、1回の食事の量を少なくし、食事の回数を増やし、食事と一緒に飲料を摂取しないようにすると、食事の摂取量を増やすことができます。

2. 通常の食事だけから十分な栄養を摂取できないときは、エネルギーや栄養素を強化した飲み物や食品やサプリメントを利用します。このような食品やサプリメントは市販されているものもありますし、食事は自分で工夫して作ることもできます。

3. このような方法で栄養の需要を満たすことができないときは、医薬品による治療や、チューブから栄養を胃腸に直接入れる経管栄養、点滴での栄養補充(中心静脈栄養)など、短期間の医学的な栄養サポートを受けます。

がん治療中のサプリメント(ビタミンやミネラル)やハーブの利用については議論があります。例えば、
葉酸のサプリメントや葉酸を多く含む食事は、葉酸代謝拮抗作用を持つ抗がん剤であるメソトレキセート(methotrexate)の効き目を阻害します。ビタミンCやビタミンEのような抗酸化作用をもったサプリメントの多くは、通常の健康増進のために推奨されている摂取量を超えた量が含まれています。抗酸化剤は、抗がん剤や放射線治療の効果を弱める可能性が指摘されていますので、ビタミンCやEなどの抗酸化作用をもったサプリメントを過剰に摂取することは勧められないという意見ががん専門医の間では一般的です
しかし、抗酸化剤が抗がん剤や放射線治療の効果を減弱するという意見は仮説のレベルであり、正常な細胞や組織を抗がん剤や放射線のダメージから防ぐメリットがあって、治療の副作用を軽減し、抗腫瘍効果を高めるという意見もあります。
このように、
抗がん剤や放射線治療中の抗酸化作用をもったサプリメントの摂取が有用か有害かは、現時点ではまだ結論が出ていない問題になっています。このように不確実な状況ですので、有用性と有害性のどちらが大きいかを判断できるより強いエビデンス(証拠)が出てきて結論がでるまでは、抗がん剤や放射線治療中は、ビタミンCやEのような抗酸化性ビタミンの摂取は、健常人に推奨されている1日所要量を超えた過剰な摂取は控えておく方が良いと考えられます。

【がん治療中の運動】

がん治療中の運動の効果について多くの研究が行われていますが、これらの研究の多くは、初期の乳がん患者が補助療法(抗がん剤や放射線治療)を受けている場合や、種々のがんで骨髄移植を受けた直後の患者での検討です。
これらの臨床試験は症例数が少ないなどの理由で十分な結論を出すには限界があるのですが、これまでの研究からは、がん治療中の運動は安全で実施可能であり、さらに体調やある種のQOL(生活の質)を高める効果が強く示唆されています。運動ががん治療の達成や効果に影響するかどうかは判っていません。しかし、一つの動物実験では、運動が抗がん剤治療の効果を妨げることはないことが示されています。がん治療中の運動によって有害作用が生じる懸念は、医学的な常識からは考えにくいのですが、この疑問に答えるにはまだ十分な検討は行われていません。
運動をいつ始めるか、どのように続けるかは、患者の病状や体調や、運動に対する個人的な好き嫌いもあり、ケースバイケースです。
状況によっては、がん治療の前に心肺機能を高めるトレーニングを行えば、がん治療の回復を促進する可能性はありますが、この点に関してはまだ十分な検討は行われていません。
放射線治療を受けている前立腺がん患者の検討においては、日頃から運動をを行っている人は、治療後の性機能障害の程度が低いというデータが報告されています。
同様に、
筋力を高めるレジスタンス・トレーニング(resistance training)は、がん治療を受けている患者に急激に起こって来る体格の変化(筋肉や骨量の低下)を防ぐのに役立つ可能性が指摘されています
すでに運動プログラムを受けている場合、抗がん剤や放射線治療中は、運動量やペースを減らす方が良いのですが、目標はできるだけ運動を維持することが大切です。
がんの診断を受けるまであまり運動をしていなかった人は、ストレッチングやゆっくりとした歩行から始め、少しづつ運動量を増やしていけるように慣らしていくことが大切です。
高齢者や、骨の異常や、関節炎や末梢神経炎のような運動機能の顕著な異常を持っている場合は、転倒や傷害を起こさないように安全には十分な注意が必要です。介護者や運動の専門のトレーナーがいると助けになります。
病状や治療の状況によって、ベット上での安静が強いられる場合は、運動量の減少によって筋肉の量が減少します。この場合は、筋力や関節の可動性が低下しないようにベット上での理学療法も有用です。運動が制限された状況でも、状況に合った理学療法を行うと、このような状況でよく現れる倦怠感やうつ症状の発生を防ぐことができます。

【回復期】

がん治療が終了した後は、回復を促進することです。この時期には、栄養状態や自覚症状に影響するがん治療の副作用は少なくなってきます。がん治療後数週間で、副作用はほとんど回復してくることが多いのですが、抗がん剤や放射線の副作用によるダメージが治療終了後長く継続することもあります。
さらに、治療後永い期間が経過してから起こってくる副作用(晩期障害)もあります。
がん治療後にも長く続く副作用や合併症の中で、栄養状態に影響するものとして、食欲低下、味覚異常、筋肉量の回復、下痢や便秘などの便通異常があります。
がんサバイバーは栄養状態を評価し、栄養状態が低下している場合は、食事の工夫や食欲を高める薬などを利用して、栄養状態を改善することが大切です。
回復期には、定期的な運動は回復促進に役に立ちます。

【回復期以降の生活】

この時期には、標準体重を維持し、適度な運動と健康的な食事を実践することによって、健康状態を高め、生活の質を高め、再発を予防して延命することが目標になります。がん予防のための栄養と運動に関しては、米国がん協会は表1のようなガイドラインをまとめています。このガイドラインに従うことは再発予防にも効果があると考えられていますが、それをサポートするデータはまだ十分ではありません。肥満が乳がんの再発を促進する因子であることを示すデータはありますが、その他のがんに関しては、再発率や生存期間と食事や運動との関連については、まだ十分なデータがなく不明な点が残っています。
がんに再発予防のための効果はまだ十分なエビデンスがありませんが、
がん予防のための食事と運動に関する米国がん協会のガイドラインが、別のがんの発生の予防に有効であることは十分に納得できます
一つのがんが発生した人は、別のがんや心臓血管系の病気、糖尿病、骨粗しょう症が発生するリスクも高いということを理解しておくことが大切です。これらの病気を予防する上で効果のある食事や運動の実践はがんサバイバーにとって大切です。
肥満が乳がんの再発率を高めることを示す証拠があります。その他のがんについても、肥満ががん治療後の生存期間に悪影響を与えるデータが蓄積しています。したがって、健康的な体重を維持することは、健康的な食事や運動と並んで重要です
がん治療後の生存率と運動と関連を調べた研究が多く発表されています。これらの研究の多くは、乳がんの患者か、骨髄移植を受けた患者で検討されています。
運動は、心肺機能を高め、筋力や体格を改善し、倦怠感や不安や抑うつ症状を軽減し、満足感や幸福感を高め、生活の質を良くする効果があることが示されています。
約3000人の乳がんサバイバーを対象にしたコホート研究では、治療後に運動を行うことによって、再発率や乳がんに関連した死亡率、全ての原因を含めた死亡率を26〜40%減少できることが明らかになっています。このリスク低下は、週に1〜3時間の運動でも効果が認められ、週に3〜5時間ではさらに高い効果が認められています。同様の結果は大腸がん(結腸直腸がん)でも認められています。したがって、
ある種のがんの再発率を減らし生存期間を延ばすために運動が重要な因子であることは可能性が高いようです。

表1:がん予防のために食事と運動に関する米国がん協会のガイドライン

健康的な体重を維持する: カロリー摂取と運動のバランスに気をつける。
過度の体重増加を避ける。
体重増加や肥満があるときには、健康的な体重まで減らし維持する。
活動的な生活: 成人:通常の生活活動に加えて、週に5回以上、少なくとも30分以上の、中等度から高度の運動を行う。45〜60分の運動がさらに望ましい。
小児および思春期:週に少なくとも5日間は、45〜60分の中等度から高度の運動を行う。
植物性の食品を中心とした健康的な食生活: 健康的な体重を維持する量の食品や飲料を選ぶ。
様々な野菜や果物を1日に5皿以上食べる。
穀物は精製したものよりも無精白の全粒(whole grain)のものを食べる。
加工した肉や赤味の肉は控えめにする。
アルコールの摂取は少なめにする: 男性は1日2杯、女性は1日1杯までにする。
【進行がんの状態にある時】

がんが治癒する人もいますし、がんの増殖を抑えてがんと共存した状態で延命する人もいます。しかし、がんが少しづつ進行していくがんサバイバーも多くいます。このような進行がん患者においても、自覚症状を良くし生活の質を高める上で、健康的な食事と適度な運動は重要なファクターになります。
進行がんでは著明な体重減少を伴うことが多いのですが、がん患者における体重減少や栄養不良を防ぐことはできます。
進行がん患者の多くは、栄養の需要を満たし、疼痛や便秘や食欲低下といった症状や副作用に対処しなければなりません。
食欲が低下し、体重が減少している進行がん患者に対して、いくつかの医薬品(例えばmegestrol acetate)が食欲を高めることが報告されています。さらに
シクロオキシゲナーゼ阻害作用をもつ非ステロイド性抗炎症剤やω3不飽和師不飽和脂肪酸の補充は、がん性悪液質を改善し、栄養状態を改善し、体重や生理機能を良くする効果が指摘されています(*1)
十分な食事が摂取できないときは、カロリーや栄養素を濃縮した栄養補助の飲料を食事のサポートとして利用できます。経管栄養や点滴による栄養補助の利用は、それぞれの副作用も十分に認識して、個々に決定します。
基本的には、ある程度のレベルの身体活動は、進行がん患者にとっても有益ですが、運動に関しては十分な研究がなされていません。したがって、進行がん患者に運動を推奨するメリットがあるかどうかは現時点では不明です。進行がん患者における栄養や身体活動は、病状や体調に応じて個々に決定されるべきです。

*1:シクロオキシゲナーゼ阻害剤とω3不飽和脂肪酸に関してはこちらのサイトも参照して下さい。

【体重】

がんサバイバーは健康的な体重を維持する努力が大切です。がん患者の中には、診断時にすでに栄養不良で体重減少が見られる場合もあります。あるいは、攻撃的ながん治療によって栄養状態の悪化や体重減少が起こることもあります。
このようながん患者にとって、さらなる体重減少は生活の質を悪化させ、治療の続行が困難になり、回復を遅らせ、合併症のリスクを高めます。このような困難な状況に陥ったがん患者において、栄養摂取やエネルギー消費に影響するファクターを注意深く評価しなければなりません。
体重減少のリスクのあるがん患者に対しては、食事摂取を増やし、エネルギーバランスが負にならないように多方面の対策が必要です。身体活動はストレスを軽減し体力を高める目的では有益な場合もありますが、しかし高度の身体活動はかえって体重減少を加速したり、体重増加を妨げる可能性もあります。

アメリカ合衆国においては、肥満がある種のがんの発生リスクとして問題となっています。
閉経後の乳がん、結腸直腸がん、食道がん、肝臓がん、胆のうがん、膵臓がん、腎臓がん、子宮がん、進行した前立腺がんの発生に対して、肥満は発生率を高めるリスクファクターであることが示されています。
したがって、がんの診断時に体重オーバーや肥満の患者も多くいます。肥満は、がん治療後の再発率を高め、生存期間を短くすることが多くのがんで報告されています

体重がオーバーしているがん患者にとっては、がん治療中の適度の体重減少(週に最大で1kg程度まで)は、主治医が体重の変化を認識し、治療を妨げない限りは、それほど問題にはならず、適正な体重に減らすという目的を達成できるので、むしろ好ましい場合もあります。
安全な体重減少は、カロリーを制限した栄養素のバランスのとれた食事と、運動や身体活動の増加によって達成します。
がん治療の後は、体重の増加や減少は食事と運動のバランスで調整します。体重を増やす必要がある場合は、消費カロリーよりも多くのカロリーの食事を摂取します。体重を減らす必要があるときは、摂取カロリーを減らし、運動によって消費カロリーを増やします。
水分や食物繊維の豊富な野菜や果物やスープ、未精白の穀物など、カロリー密度の低い食品を多く食べることで摂取カロリーを減らし、脂肪や砂糖を減らす食事は、健康的な体重コントロールにおいて有益です。このような方法が良い理由は、食事のボリュームを減らさないので、空腹感を感じることを避けることができるからです。カロリーの高い食品を減らすことが大切です。
身体活動や運動を増やして消費カロリーを増やすことも、体重の増加を防ぐ重要なポイントであり、肥満や体重オーバーの患者が体重を減らしていく上で最も大切な方法です。
体重を減らす必要がある患者の場合、
たとえ理想的な体重までの減量が達成できない場合でも、運動や健康的な食事によって少しでも体重を減らすことは有益であり、5〜10%の減量は、健康に対して非常に有益です。このような体重コントロールの対策の関するエビデンスはがん患者から得られたものでは無いのですが、このような常識的なアプローチをがん治療に応用することは十分に妥当です。

【栄養と食品の選択】

がんサバイバーの全ての時期において、明らかな栄養的な問題が無い人も含め、「がん予防のための栄養と運動に関する米国がん協会のガイドライン」に記載されている基本的な考え方は、健康的な食事と言えます。このガイドラインの内容は、がんだけでなく他の慢性疾患の予防に有効な食事として多くの専門家や団体から推奨されている内容とほぼ同じです。


● 脂肪と蛋白質と炭水化物の摂取量のバランス

蛋白質と糖質(炭水化物)と脂肪はいずれもエネルギー(カロリー)の元になり、様々な食品から摂取することができます。がんサバイバーの多くは、心臓疾患のような他の慢性疾患にかかるリスクも高い状態にあります。したがって、心臓疾患のリスクを低下させるような食事の内容(脂肪や蛋白質や糖質の種類や量に関する)はがんサバイバーにとっても適していると言えます。
脂肪の摂取量と乳がん術後の生存期間との関係を調べた臨床試験がいくつか報告されていますが、その結果は試験によって異なっています。ある臨床試験では脂肪の摂取量が増えると生存率が下がるという結果が出ていますが、別の試験では明らかな差が認められませんでした。
早期の乳がんの患者において、食事の脂肪の摂取量を減らすと再発率を低下させ生存率が上がるかどうかを検討した大規模な臨床試験において、
低脂肪の食事(脂肪摂取量を全カロリーの20%)では乳がんの再発率が24%減少することが示されています。脂肪を減らすことによる再発率の低下は、エストロゲン受容体がネガティブの患者の場合、さらに効果が高くなることが報告されています。
同様の検討は前立腺がんのサバイバーでも行われています。
飽和脂肪酸を多く摂取すると前立腺がん患者の生存率が低下し、単価不飽和脂肪酸を多く摂取すると生存期間が延びることが報告されています。単価不飽和脂肪酸はオレイン酸などで、酸化しにくく、健康に良いことが知られています。オレイン酸を多く含む油としてオリーブオイルが有名です。
脂肪からのカロリーは食事全体のカロリーの20〜35%にして、飽和脂肪酸からのカロリーは全カロリーの10%以下、トランス型脂肪酸は3%以下にするような脂肪の摂取が望ましいと考えられていますω3不飽和脂肪酸は、がん性悪液質を改善し、QOLを高め、がん治療の効果を高めることから、がんサバイバーにとって有益な脂肪といえます。しかし、このような意見はまだ十分に正しいと証明されたわけではなく、さらに研究が必要です。
しかしながら、
ω3不飽和脂肪酸の豊富な食品(魚やくるみ)は、心臓疾患のリスクを低下させ、全ての原因による死亡率を低下させることが明らかになっており、さらに明らかな有害作用を示す報告がほとんど無いので、がんサバイバーに推奨しても問題はないようです。
がん治療中や回復期やその後の全ての時期において適切な蛋白質の摂取が必要です。蛋白質源としても飽和脂肪酸の少ない食品を中心にすることが大切です。このような食品として、魚、脂肪の少ない肉や鶏肉、卵、無脂肪か低脂肪の乳製品、ナッツ類、種子、豆類などがあります。食事からの全カロリーの10〜35%を蛋白質から摂取するか、体重1kgあたり0.8g以上の蛋白質が、一般健常人に推奨されており、成人のがんサバイバーにとってもこの基準は妥当です
健康に役立つ糖質の供給源は、野菜や果物や全粒穀物や豆類のように、ビタミンやミネラル、植物ケミカル(phytochemical)、食物繊維の豊富な食品です。食事中の糖質の多くをこれらの食品で補うようにすることが大切です。
全カロリーの45〜65%を糖質から摂取するくらいの糖質の量が適切です。
野菜や果物には、ビタミンやミネラル、薬理活性のある植物ケミカル(phytochemical)、食物繊維のようにがんの進展を抑える効果のある成分を多く含んでいます。さらに、これらはボリュームの割にカロリーが少ないので、カロリーを抑えながら満腹感を得ることができるので、健康的な体重管理を行う上でも有用な食品です。
ジュースでなく果物全体を摂取すると、カロリーが少なくして食物繊維を多く摂取することができます。もしジュースを利用するときは100%果汁の製品を選んで下さい。
全粒穀物(whole grains)は、食物繊維が豊富であることに加え、さらにホルモン様作用や抗酸化作用など重要な生物活性を持つ様々な成分を多く含みます。例えば、
全粒穀物は、フェノール酸、フラボノイド、トコフェノールのような抗酸化作用を持つ成分、リグナンのように弱いホルモン作用を持つ成分、フィトステロールや不飽和脂肪酸のように脂肪代謝に影響する成分などを含んでいます。
これらの成分やその薬効は、がんや心臓疾患の発生リスクを低下させ、進展を抑える効果があると多くの研究者は考えています。つまり、食物繊維の供給源としては、食物繊維のサプリメントに頼るのではなく、全粒穀物の食品を摂取することの方が、極めて有用なのです。
穀物を製粉する過程でふすまや胚芽が取り除かれます。これはビタミンやミネラルの量を減らすことになります。製粉した小麦粉やそれから作ったパン、胚芽をとったトウモロコシ、白米などは、このようにしてビタミンやミネラルの量が減っています。米国ではこのような精白した穀物に、サイアミン(thiamin)、リボフラビン(riboflavin)、ナイアシン(niacin),鉄、葉酸を添加していますので、精白した穀物が全く栄養素が不足しているわけではありません。しかし、食物繊維やその他の有用な作用をもつフィトケミカルなどは添加されていません。
砂糖の摂取ががんの発生リスクや進展に直接影響するという証拠はありません。しかしながら、
砂糖(蜂蜜、未精製の砂糖、黒砂糖、果糖の多いコーンシロップ、乳糖を含む)やこれらを含む飲料は、カロリーが豊富であり、体重がオーバーする原因となって、がんの進行や再発を促進する可能性があります。
さらに、糖分の多い食品や飲料は、多くの栄養素の補充には役にたちません。また、栄養素の豊富な食品の摂取を妨げる可能性もあります。したがって、砂糖の消費を制限することは推奨されます。
(追加:砂糖を多く摂取すると、インスリン様増殖因子の分泌を促進してがん細胞の増殖を促進する可能性を示唆する意見もありますので、甘いものを多く摂取するのは避けた方が良いのは確かなようです)

菜食主義者(vegetarian)の食事が健康的か非健康的かは、食品の選択によります。菜食主義といっても、赤身の肉を食べないだけで、乳製品や魚や卵は制限しない人々もいます。魚や乳製品は良質の蛋白質を十分に含んでいますので、魚や乳製品を制限していない菜食主義者の食事は、何でも食べる普通の食事と栄養面ではほとんど差はありません。
全ての動物性食品を除外する極端な菜食主義者の食事(vegan diet)では、ナッツや種子や豆類や穀物を十分量摂取しておれば、必要な蛋白量を摂取することができます。しかし、ビタミンB12は不足するので補助が必要です。
アメリカ合衆国では食事からのビタミンDの多くは乳製品からです。したがって、極端な菜食主義者は、もし日光や紫外線に十分にあたっていなくて体内でのビタミンDの産生が低下する場合は、ビタミンDのサプリメントでの補充が必要です。
菜食主義者の食事は、飽和脂肪酸が少なく、食物繊維やビタミンやフィトケミカルが豊富なので、多くの健康作用があります。このような菜食主義者の食事は米国がん協会が提唱するがん予防のための食事のガイドラインと一致します。しかし、野菜や果物や雑穀を多く摂取し赤身の肉を少なくすることに気をつけている一般的な雑食性の食事と比べて、菜食主義の食事が、がんの再発予防において勝るという証明はまだありません。

【野菜と果物】

野菜や果物を多く摂取すると、結腸直腸や胃、肺、口腔、食道などいくつかの臓器のがんの発生率を低下させることが知られています。しかしながら、野菜や果物の多い食事が、がんの再発率を下げ、生存期間を延ばすかどうかについては、まだ十分なデータはでていません。
野菜や果物の摂取量と乳がんの再発率を検討した研究がありますが、それらの結果は一致していません。ある研究では血中カロテノイドの濃度(野菜や果物の摂取量の指標)が高いと、がんの再発が無い生存期間(recurrence-free survival)が長くなることが報告されています。
卵巣がん患者の研究では、野菜、特にアブラナ科の食事の摂取量が多いほど生存期間が長かったという報告があります。
前立腺がんでは、トマトソースを多く消費している人は生存期間が長かったという報告があります。
野菜や果物に含まれる成分を個々に摂取するよりも、食品としていろんな種類の野菜や果物を多く摂取する方が、より健康増進効果は勝っています。その理由は、様々な野菜や果物に含まれるビタミン、ミネラル、フィトケミカルが相乗的に働くからです。したがって、米国がん協会のガイドラインで述べられている「1日に5皿以上の野菜や果物を食べる」というのががんサバイバーにとっては最も好ましいアドバイスです。これを達成するには、毎日少なくともカップ2杯半の野菜や果物を食べることが大切です。濃緑色やオレンジ色のような色とりどりの野菜や果物は、栄養素や健康的なフィトケミカルなどの宝庫です。
新鮮なもの、冷凍したもの、缶詰、生、調理したもの、乾燥したものなど、野菜や果物の食品は、食事に栄養や様々な生理活性物質を提供します。
大量のお湯で煮るような調理は、水溶性の栄養素の損失が大きいので、電子レンジを使ったり蒸気で蒸すような調理法の方が良いかもしれません。調理した方が栄養素の吸収が良くなります。例えば、
抗酸化物質のリコピンは、生のトマトよりも、加熱調理した方が良く吸収されます。
現時点では、有機栽培の野菜や果物が、通常栽培のものよりも、がん予防成分が多いかどうかを検討した研究は報告されていません。

【アルコール】

アルコールは、健康にとって良い面と悪い面の両方を持っています。1日に女性は1杯、男性は2杯までの飲酒は、心臓疾患のリスクを下げますが、それ以上の飲酒はアルコールによる臓器障害を高めるだけでなく、がんの発生や再発にも悪影響を及ぼします。したがって、個々のがんサバイバーは、目的に応じて対応を行うことが大切です。がんの種類、ステージ、治療法、再発や新たながんの発生のリスク、がん以外の病気の存在などを総合的に検討して、その対応は変わってきます。
例えば、
アルコールは口に含む程度の少量であっても、口腔内の粘膜の炎症(口内炎)がある場合は、粘膜を刺激して口内炎を悪化させます。したがって、口内炎があるときは、飲酒はできるだけ避けるべきです。また、頭頚部の放射線照射や抗がん剤治療のように、口内炎を発症するリスクが高い場合も飲酒は控える方が良いと言えます。
口腔、咽頭、喉頭、食道、肝臓、乳房、大腸のがんの発生リスクを飲酒が高めることが、多くの研究で明らかになっています
。したがって、がんの診断をすでに受けている場合、飲酒は、口腔、咽頭、喉頭、食道、肝臓、乳房、大腸における新たながんの発生を促進する可能性があります。
アルコールはエストロゲンの血中濃度を高める作用がありますので、理論的には飲酒は乳がんの再発を促進します。乳がんサバイバーで現在までに行われた研究では、乳がんの再発率や生存期間に対して飲酒が影響するというエビデンスは得られていません。しかしながら、これらの研究での乳がん患者のアルコール摂取量は非常に少ないので、飲酒が乳がん患者の再発率を上げないということにはなりません。個々の患者の飲酒の量を十分に考慮して、飲酒のリスクを判断すべきです。

【食品の安全性】

食品の安全性はがんサバイバーにとっても重要で、特にがん治療によって免疫抑制状態にある場合は、食品の安全性が問題になります。抗がん剤などのがん治療によって白血球や好中球が減少すると感染症にかかりやすくなります。
このような免疫抑制状態にあるときは、がん患者は感染症にかからないように特別な注意が必要で、病原菌を多く含むような不衛生な食品を摂取しないような注意が必要です。
抗がん剤は免疫応答を障害するので、抗がん剤治療などで免疫力が低下している時は、生の野菜や果物は、それに含まれる細菌によって胃腸炎などの感染症を引き起こす危険性を高める可能性があります。
表2に示す食品安全のガイドラインを参考にして、食事に起因する感染症を予防することが大切です。

表2:食品の安全性を高めるガイドライン

○食事の前は、手を十分に洗います。
○調理の前には、手洗い、野菜や果物は十分に洗うことを含め、調理の全てにおいて清潔にすることが大切です。
○生の肉や魚や鶏肉や卵を扱うときは特別な注意が必要です。
○生の肉と接触する調理器具、カウンターの表面、まな板、スポンジは全て清潔にし、既に出来上がっている食事と生の肉は接触しないように離しておきます。
○十分に加熱して調理します。肉、鶏肉、シーフードは十分に加熱調理し、ミルクやジュースのような飲料は滅菌されていなければななりません。
○食品は病原菌が増殖しないようにできるだけ早く冷蔵庫に保管されなけれだめです。
○レストランで食事をするときは、サラダバー、すし、生あるいは十分に加熱していない肉、魚、貝、鶏肉、卵など、細菌が混入している可能性のある食事は避けた方がよいと言えます。
○井戸の水のように水の純度が問題になる場合には、保健所などに相談して細菌数の検査を行います。
【サプリメント】

サプリメントはビタミンやミネラル、ハーブ、植物成分、アミノ酸、生物由来製品など様々なものがあります。多くの研究により、がんサバイバーの25〜80%がサプリメントを利用していると言われています。がんサバイバーは、がんで無い一般人よりも多くの頻度でサプリメントを利用していることが報告されています。
がん患者がサプリメントを利用する理由は様々です。人から勧められたり、症状を良くするため、気分をより良くするため、栄養不足にならないためなどの理由があります。
がん患者は、がんに関連した症状を治療するためにサプリメントを利用していると思われがちですが、多くの人はがんと診断される前から同じようなサプリメントを摂取していたか、他の病気を治すために以前から使用している場合も多く認められます。
がん患者がサプリメントを摂取するのは、野菜や果物の多い食事ががんの発生リスクを低下させるという事実に基づいています。しかしながら、
栄養素とフィトケイカルの豊富な食事と比べて、サプリメントが同じような効果を発揮するというエビデンスはまだありません。

10800人以上のがんサバイバーのデータが集められたVITAL(Vitamins and Lifestyle)がん患者コホート研究では、がんの部位による違いが認められています。例えば、膀胱がん患者ではクランベリーエキス、結腸直腸がんと子宮がんでは葉酸のサプリメント、卵巣がんや男女の悪性黒色腫の患者ではビタミンAのサプリメントの利用が多いことが報告されています。
興味深いことに、乳がん治療後の生存に対してビタミンEに有益な効果があるという証拠はほとんど無いのですが、乳がんと診断された患者の49.2%がビタミンEを利用しているというデータを報告しています。他の調査でも46%の利用率が報告されています。
ビタミンEの摂取量の平均は、一般の人が1日34mgであるのに対して、乳がん患者では1日268mgと、ビタミンEの摂取量が乳がん患者では高いことが明らかになっています。
がんの治療中や治療後は十分な栄養が取れないことが多いので、この時期に標準的なマルチビタミン・ミネラルのサプリメントを利用して、多くのビタミンやミネラルを1日所要量の範囲で摂取することは有益だと言えます。

小児がん患者での研究では、食事中のビタミンCやビタミンEや全カロテノイドの量は不十分であることが指摘されています。
ビタミンEが不足すると感染症のリスクが高まり、ビタミンCが不足すると抗がん剤治療後の白血球や赤血球の回復が遅れることが知られています。したがって、がん治療中の回復力や抵抗力を低下させないためには、食品の選択によって栄養素が不足しないようにすることが大切です。

一方、
ビタミンやミネラルやその他のサプリメントの大量摂取は勧められません。大量のサプリメントの摂取があぶないのにはちゃんと理由があります。最も良い例は肺がん患者におけるβカロテン投与の研究です。食事からのβカロテンの量が多いと肺がんの発生が低下するという疫学的データから、βカロテンには肺がんの発生を抑える作用があるのではという仮説のもと、臨床試験が行われました。しかし、高用量のβカロテンのサプリメントでの補充は肺がんの発生率と死亡数を増やすことが明らかになりました
さらに、最近の臨床試験では、
喫煙と飲酒によって結腸直腸がんの腺腫の再発率が上昇することが明らかになっています
βカロテンを多く含む食事はがん予防効果があっても、高用量のβカロテンをサプリメントで補充すると逆にがんを促進する可能性があるのです。他のビタミンや微量栄養素については、過剰な摂取がどのような効果を示すか、十分な臨床試験が行われていないため、不明です。しかしながら、
βカロテンの経験から、どのようなものであっても、ある特定のサプリメントの大量摂取は注意すべきです。
栄養素はできるだけ食事から摂取することが大切です。マルチビタミン・ミネラルからの摂取は、1日所要量の範囲にとどめるべきです。

【がんサバイバーにおける身体活動について】

身体活動を高めることは、がんサバイバーにとって、どの時期にあっても有益であると考えられていますが、いくつかの理由によって、がんサバイバーは動きたがらない傾向にあります。
がんの診断を受けたあと、がん患者はその身体活動を減らす傾向になり、多くの場合、がんの治療中や治療後も身体活動を低くした状態を維持しがちです。診断前のレベルまで身体活動を高める人は少ないようです。
運動不足は乳がんや大腸がんなど多くのがんの発生率を高めるリスクファクターになっているため、がんと診断された段階で、すでに運動不足の状態である場合が多いようです。さらに、がん治療は、心肺機能や神経系や筋肉へのダメージを引き起こすので、ますます運動する能力が低下します。このように、がん患者は、もともと運動不足で体力が低下傾向にある上に、がんの診断や治療による新たなストレスが、身体活動レベルを高めようというがん患者の意欲を低下させることになります。このような理由から、健常人にとっては軽度から中等度の運動も、がん患者には苦痛になるくらいの強い運動量になるかもしれません。

多くのがんサバイバーは、運動量を増やすことによって改善できる病気のリスクが高い状態にあります。心臓疾患や糖尿病の予防における運動の効果はがん患者では検討されていませんが、しかし、がん患者にも一般の人と同じような恩恵があることは常識的に納得できます。同様にレジスタンス運動(筋力トレーニング)はがんの無い人での検討で、骨を強くすることが報告されていますが、この結果はがん患者でも当てはまるはずです。がん患者を対象にした研究は行われていませんが、がん患者でもレジスタンス運動が骨粗しょう症の発生リスクを低下させることが十分に予測できます。
閉経後あるいは治療によって閉経状態になった女性や、長期にわたって男性ホルモン抑制療法を受けている前立腺がん患者は骨粗しょう症のリスクが高くなります。したがって、このような場合は、レジスタンス運動を行って骨の強度を高めることは有益です。
さらに、運動を行うと筋肉の量が増え、転倒や骨折のリスクを低下させることができます。閉経後の乳がんサバイバーの骨密度にエアロビック運動やレジスタンス運動が有効かどうかを検討する臨床試験が現在実施中です。
リンパ浮腫のがん患者も、運動によって有益な効果を得られます。特に可動域を高める運動(range-of-motion exercise)を、主治医の許可のもとに行うのが有益です。リンパ浮腫のがん患者においてレジスタンス運動が有益か危険かは十分に検討されていません。ダメージを受けてリンパ浮腫を起こしている部分の運動がリンパ浮腫を悪化させるのではないかという懸念があります。この点は十分に検討されていませんが、いくつかの臨床試験の結果は、レジスタンス運動がリンパ浮腫に悪影響を及ぼす可能性は低いようです。
がんの再発率や生存期間に対する運動の効果についての臨床試験はまだ報告されていません。しかし、身体活動ががん患者の生活の質(QOL)や精神面で良い影響を及ぼすことが、いくつかの臨床試験で報告されています。
これらの臨床試験では、週に3日間の中等度から高度の運動を、1回に45分の運動を3〜4ヶ月間継続するプログラムです。このような運動は、がん患者の不安や抑うつ症状を低下させ、気分を良くし、自信を高め、倦怠感を減らす効果が認められています。一般的に
、運動は、治療が終わった後の多くのがんサバイバーにとって有益と考えられます。
がんサバイバーは自分で運動プログラムを実行することはできますが、理学療法の専門家の指導を受ける方が有益です。
運動のタイプや頻度や時間や強さは、患者の年齢や体力やがんの種類や治療法などによって異なります。表3には身体活動を高める方法を示しています。

表3:身体活動を高める方法

○エレベーターではなく階段を使う。
○可能であれば、目的地まで徒歩か自転車で行く。
○家族や友人や同僚と一緒に運動をする。
○仕事の合間に、体を伸ばす(ストレッチ)ために運動や短時間の歩行を取り入れる。
○近くにいる友人や同僚に連絡を取るとき、e-メールを送る代わりに歩いて訪問する。
○ 単なるドライブの旅行ではなく、活動的なバケーションを計画する。
○万歩計を携帯し、1日の歩いた数を少しづつ増やしていく。
○テレビを見るときは、運動用の自転車やトレッドミルを使って運動をする。

がん患者に特有の問題が運動能力に影響する場合もあります。がん治療による体のダメージが、運動による怪我や有害作用のリスクを高める可能性もあります。次のような特別な注意が必要です。

● 貧血が強い場合は、貧血が良くなるまでは、日常生活以外の運動は控えます。
● 免疫機能が低下している場合は、白血球数が安全なレベルに回復するまで、公共のジムやその他の多くの人が集まるような所に行くのは控えます。骨髄移植を受けたがんサバイバーはそのような場所には移植後1年間は行かないように指導されます。
● がん治療によって倦怠感が強いときは、通常の運動プログラムを行うのは控えて、10分間のストレッチを毎日行うくらいの運動が適当です。
● 放射線治療を受けているときは、塩素が入っているスイミングプールでの水泳は避けます。塩素が皮膚を刺激するからです。
● カテーテルを留置しているがんサバイバーは、感染を起こす可能性のある水中や細菌で汚染した場所での運動は避けます。カテーテルの入っている領域の筋肉を使うレジスタンス運動も、カテーテルがはずれる可能性があるので、避けます。
● 抹消神経のしびれや麻痺があるときは、その症状が起こっている上下肢は脱力やバランス異常を起こしているので、運動能力が低下しています。トレッドミルを使って歩くよりも、固定した自転車でのペダルこぎの方が適しています。

通常の健常人の場合、米国がん協会は、
がんや心臓疾患や糖尿病の発症リスクを減らすためには、週の5日以上、1回に30〜60分間の中等度から強度(かなり活発)の運動を行うことを推奨しています
がん患者に対するこのレベルの運動の有用性については十分に検討されていません。しかしながら、上記に記載したようながんの治療やがんの病状に関連して運動に制限がある場合を除けば、健常人で推奨されている運動レベルが有益でないという理由はありません。(つまり、有益であると推測できます)
したがって、毎日の規則的な運動が望ましいのですが、動かない生活から、より活動的な生活にしていくことが大切です。
もし
ほとんど運動しないような人であれば、短時間の散歩を促すことでも役に立ちます
最大の効果を望むがんサバイバーに対しては、運動による健康作用は一般的に運動量に比例すると助言することができます。しかしながら、極めて強度な運動は、感染症のリスクを高める可能性があることに注意が必要です。また、運動に関連した傷害のリスクを高めないようにすることが大切です。

●がんの種類別における食事と運動

【乳がん】

乳がんと診断された女性にとって、望ましい体重を維持することが、生活習慣における達成目標の最も重要な項目の一つです
過去何十年間にわたって報告されてきた研究の多くが、
乳がんの診断を受けたときに、体重オーバーか肥満の場合には、リンパ節転移の割合が高く、再発率が高く、生存期間が短いなど、予後が悪いことを報告してます
体重オーバーや肥満が、乳がんの予後を悪くするリスクファクアーであることは十分な証拠があります。したがって、診断時に体重がオーバーしている乳がん患者の場合には、体重を適切なレベルに減らし、健康的な体重を維持することが重要です。
乳がんの診断後に、体重がさらに増える場合があります。診断後の体重増加と予後との関係に関しては、異なる結果が報告されています。
多くの研究では
、診断後に13ポンド(5.8kg)以上の体重増加があった場合には、それ以下の増加または増加がない場合の乳がん患者と比べて、再発率が50%高まり、死亡率は60%高くなることが報告されています
非喫煙者の看護士の乳がんサバイバーを対象にしたコホート研究の結果も同様の結果を報告しています。診断後のBMI(body mass index)の上昇が0.5以下の場合に比べて、BMIが0.5〜2.0上昇した人は再発率が40%上昇し、BMIが2.0以上上昇した人は再発率が53%上昇することが報告されています。この研究では、体重が減った人は、予後が悪化することはありませんでした。
しかしながら、最近のいくつかの研究では、体重の増加が予後を悪化させる効果は認められていません。
説明のできない体重減少は再発の徴候の可能性もありますので、慎重な経過観察が必要です。
目的をもって意識して体重を減らそうとしている場合と、減らそうと努力していないのに体重が減っている場合は、その意味は極めて大きな違いがあります。
実際、
体重オーバーや肥満は、乳がんの予後を悪くするだけでなく、一般的な健康や生活の質をも悪化させるので、初期の乳がんと診断された女性で体重がオーバーしている場合は、健康的な体重への減量と維持が、極めて重要です

乳がん手術後の抗がん剤治療やホルモン療法での補助療法で治療を受けている女性で体重増加を認めたときは、筋肉は減少し、体脂肪が増加していることが、多くの研究で示されています。筋肉が減り体脂肪が増加するという好ましくない体型の変化は、治療中には体重が増えないようにするだけでなく、筋肉の量を維持することも目標に対策を立てなければなりません。
中等度の運動、特にレジスタンス運動(筋力トレーニング)を、がんの治療中や治療後に行うことは、体脂肪を減らし、筋肉量を増やすのに役立ちます。
たとえ理想的な体重に達することができなくても、6〜12ヶ月の間に5〜10%の減量を行えば、血中の脂肪や空腹時のインスリンの量を上げるような慢性疾患の発生リスクを低下させるのに十分です。
体重オーバーの乳がん患者は、治療のあと体重を減らす努力が必要です。1週間に1〜2ポンド(450〜900g)の中等度の体重減少は、主治医がそれを認識しモニターしていて治療を妨げるものでなければ、がん治療中でも安全に実施することができます。
乳がんサバイバーにおけるがん治療中と治療後の運動の効果を検討した臨床試験がいくつかあります。大規模なランダム化比較臨床試験はありませんが、
乳がんの治療中や治療後の運動が、生活の質を高め、身体機能を高め(心肺機能や柔軟性や体格など)、満足度や不安や抑うつや倦怠感などの面で良い効果を与えることを示す結果は多く報告されています
乳がんの発生予防、心臓疾患、糖尿病、全てを含めた死亡率に対する運動の有益性は、乳がんサバイバーにも当てはまります。さらに、乳がんサバイバーのうち、活発な身体活動を行っている人は、運動をしない人と比べて再発率が低く、乳がんに関連した死亡率だけでなく、全ての原因を含めた死亡率も低下することが報告されています。

摂取カロリーと肥満の程度を考慮に入れた場合、食事からの脂肪の摂取が、乳がんの再発率を高め、生存期間を短くするリスクに関連しているという考えを十分にサポートするデータはありません。
乳がんと診断された後、食事の内容を変えることによって、再発率を下げ、生存率を上げることができるかどうかを検討した臨床試験が行われています。
最近終了したWINSという研究はランダム化した多施設の臨床試験で、標準的な乳がん治療に加えて、食事中の脂肪を減らすと、再発や延命に対して効果があるかを、限局した乳がん患者で検討しています。
この臨床試験では、2437人の閉経後の初期乳がんを対象に、ランダムに選んだ975人を低脂肪の食事のグループに割り当てました。
低脂肪(総摂取カロリーの20%が脂肪)の食事を摂取したグループでは、再発率が24%低下し、特にエストロゲン受容体がネガティブの乳がん患者では再発率低下が顕著でした

野菜を多く食べることが乳がんのリスクを減らすかどうかの結論は出ていません。また、果物の摂取と再発率や生存率との関連も弱いようです。
現在進行中のWHEL Studyでは、検討の対象は野菜や果物を多く摂取することですが、この研究では野菜と果物の摂取以外にも、脂肪を減らし食物繊維を多く摂取するように指導されています。このWHEL Studyの結果は2008年に出る予定です。
野菜や果物の摂取量の指標となる血液中のカロテノイド濃度が高いほど、再発のない生存期間(recurrence-free survival)が長くなることが報告されています。
野菜は食事のカロリー密度を低下させ、野菜と食物繊維は満腹感を与えます。
診断後10年近く追跡調査した臨床試験( the Nurses' Health Study)に参加した乳がんサバイバーの最近のデータでは、
野菜や果物や精白していない穀物を多く摂取し、砂糖や精白した穀物や動物性食品の量を減らすような理想的な食事を行っても、再発率やがんに関連した死亡率を有意に減らす効果は認められませんでした。しかしながら、このような食事を行ったグループでは、典型的な西洋食を食べていた人達に比べて、他の病気での死亡率を低下させました。

葉酸の摂取量が少ない(多くは食事からの果物、野菜、豆、穀物の摂取量が少ないことによる)と、乳がんの発生率が高くなるという意見があります。アルコールによる乳がん発生リスクの上昇は葉酸の摂取の少ない人に顕著であるという報告があるので、葉酸は乳がん発生リスクにおけるアルコールの有害作用を軽減している可能性が示唆されています。乳がんの診断を受けた女性の再発率や生存期間に葉酸が影響するという結果は得られていません。
アルコールが乳がんの発生リスクを高めることは知られていますが、乳がんサバイバーの再発率や生存期間に対してアルコールが影響するかどうかに関する証拠は十分ではありません。乳がん患者の予後を検討する研究において、研究の対象になる患者の飲酒量が非常に少ないから、アルコールの影響が判りにくいからです。しかしながら、理論的には、乳がんサバイバーでは高いリスクにある別の乳がん(second primary breast cancer)の発生を促進する可能性はあります。
アルコールは、健康にとって良い面と悪い面の両方を持っています。一般に、中等度の飲酒(1日に1〜2杯程度)は心臓疾患の発生リスクを低下させるという証拠が多く出されています。
乳がんサバイバーの場合は、中等度の量の飲酒の有益性を検討するとき、心臓疾患の発生を低下させるメリットと、乳がんの再発や新たな発生を促進する可能性のデメリットを考慮しなければならないので、問題は複雑です。

乳がんの発生予防における大豆の役割が注目されていますが、人間での研究では、大豆の乳がん予防効果を示す証拠は不十分です。
大豆が乳がんを予防するのではないかという興味は、米国やその他の欧米の国と比べて乳がんの発生頻度が低いアジアの国々では大豆の摂取量が多いという事実から出て来ています。いくつかの疫学的研究は、大豆の摂取量が多いと乳がんの発生頻度が低くなることを示しています。
大豆にはイソフラボンが豊富で、この大豆イソフラボンが動物実験で様々な抗がん作用を示すことが示されています。
大豆イソフラボンはエストロゲン作用と抗エストロゲン作用(エストロゲン作用を阻害する)の両面を持つため、乳がんの発生における大豆の作用に関しては多くの矛盾する結果が出されています。
疫学的研究や動物実験の結果から、伝統的なアジア料理で使用されているくらいの量の大豆を食べも、乳がんの再発を促進することはないと考えられています。しかし、その程度の量が再発予防のメリットがあるかも不明です。この量というのは、豆腐や豆乳のような大豆製食品を1日3皿食べるくらいの量です。
しかしながら、
大量の大豆を摂取すると、その中に含まれているエストロゲン作用を持った成分の影響で、エストロゲン受容体陽性の乳がんの進行を早める可能性がありますので、大豆粉末や大豆イソフラボンのサプリメントを摂取しないようにすることが大切です。*2
現在進行中の大規模臨床試験の結果を待たなければなりませんが、乳がんや心臓疾患の発生リスクを低下させるような食生活や運動レベルは、乳がんサバイバーにとっても重要です。野菜と果物を多く食べ、飽和脂肪酸を減らし、食物繊維を多く摂取することが大切です。もし大豆製品を摂取するときは、適度な量に止めるべきで、大豆イソフラボンを多く含むサプリメントは避けるべきです。
乳がんサバイバーにとって最も大切なことは、適切な食事と運動によって健康的な体重を維持することです。さらに、定期的な運動は体重とは関係なく全ての乳がんサバイバーは継続すべきです。

*2乳がん患者におけるフィトエストロゲンの問題点については以下のサイトをご参照下さい。
乳ガン治療後のフィトエストロゲン摂取について:(エストロゲン依存性の乳ガンの場合に大豆製品は控えるべきか)

*中国の上海で行なわれた乳がん患者調査(Shaghai Breast Cancer Survival Study)では、手術を受けた乳がん患者5033人を追跡調査し、大豆製食品の摂取量と、死亡率や再発率との関連について検討されています。その結果が2009年に報告されています。この研究結果によると、ホルモン依存性の乳がんでも、ホルモン療法を受けている乳がん患者でも、大豆製食品を全く食べないよりは通常の量を摂取する方が再発率も死亡率も低下することが示されています
乳がん患者における大豆製食品や大豆イソフラボンに関する最近の研究結果と考え方については以下のサイトを参照して下さい
乳がん患者は大豆製食品をどの程度食べてよいのか?
乳がん患者の大豆イソフラボン摂取の影響:新たな事実

【結腸直腸がん】

赤身の肉や加工した肉が多く野菜や果物が少ない食事と、運動不足と肥満は、結腸直腸がんの発生リスクを高めます。飲酒の量が多い場合は結腸直腸がんの発生リスクを高めます。しかし、このようなファクターが、結腸直腸がん患者の予後に影響するかどうかは不明です。
治療後の予後に対する食事内容の影響を検討した研究はいくつかありますが、結果は様々です。2つの臨床試験では、体重の増加は生存期間を短くすることが報告されています。その他の3つの臨床試験では、身体活動を高めることは生存期間を延ばす効果があることを報告しています。
結腸直腸がんは腺腫性ポリープから発生するため、ポリープの再発を予防することを目的とした臨床試験が多く行われています。
現在のところ、3〜4年間の追跡調査で、
抗酸化性ビタミン、食物繊維のサプリメント、野菜や果物を増やすような食事などは腺腫性ポリープの再発を防ぐ効果は認められていません。しかし、カルシウムのサプリメントがポリープの再発を予防する上で少しは有益であることが報告されています。
葉酸とビタミンDとセレニウムの効果を検討する臨床試験は現在進行中です。
結腸直腸がんと診断されたあと、生存期間を延ばす最も有効な方法は、補助化学療法が必要な場合は抗がん剤治療を受け、新しい病変を見つけるために定期的に内視鏡にて検査を行うことです。
結腸直腸がんのサバイバーにとって、運動は、身体機能や生活の質を高める効果がある
ことが3つの臨床試験によって示されていいます。最近行われた2つの臨床試験では、結腸直腸がんのサバイバーにおいて、運動が生存率を高めることが明らかになっています。
さらに、運動が大腸がんの発生リスクを低下させることが確認されています。このように、結腸直腸がんの治療のあとでは、運動が、生活の質を高め、再発率を低下させ、生存期間を延ばすことを示す証拠が増えてきています。
結腸直腸がんのサバイバーは健康的な体重を維持し、がんや心臓疾患の予防に有効なバランスのとれた食事を食べ、定期的に運動を行うことが大切です
大腸の手術などで栄養の吸収などに問題があるときは、栄養士や医師に相談して、問題に沿った食事の修正を行うようにします。

【血液のがんと、骨髄移植や血液幹細胞移植で治療を行うがん】

造血器系の悪性腫瘍の予後に及ぼす食事性因子の関連に関しては少数の報告があるだけです。
体重オーバーや肥満がある場合は、血液幹細胞移植を受けた患者の予後が悪いという報告がありますが、その根拠は不十分です。幹細胞移植を受けた患者の検討では、肥満があると、治療に関連する副作用や死亡率が高まり、生存率も低下しました。
造血器悪性腫瘍のサバイバーにおける運動の影響が検討されています。これらの研究は骨髄移植や幹細胞移植からの回復期において実施されています。これらの研究で、
身体機能や筋力、倦怠感、精神症状、生活の質に対して運動が有益な効果を及ぼすことが報告されています。
運動が、非ホジキンリンパ腫や多発性骨髄腫のサバイバーの生活の質を高めることが報告されています。ある臨床試験では、ホジキン病患者の倦怠感が、20週間のエアロビック運動で改善したことが報告されています。
高用量の抗がん剤と造血幹細胞移植を受けたがん患者(多くは非ホジキンリンパ腫と乳がんの患者)を対象とした研究では、歩行運動を毎日6週間続けるプログラムが、一般全身状態と倦怠感を改善することが報告されています。
集中的な抗がん剤治療(しばしば、全身の放射線照射を伴う)は、吐き気、嘔吐、下痢、口腔内や咽頭部の粘膜の炎症、食道炎など、栄養摂取に障害を引き起こす高度の副作用が生じます。消化管粘膜の上皮細胞は放射線の傷害を受けやすいので、全身放射線照射の場合は、消化管粘膜のダメージによって栄養の吸収障害や下痢が起こります。
移植後の治療に必要な免疫抑制剤や抗生物質のような薬の副作用も、栄養障害の原因になります。他人の骨髄細胞を移植された時に起こる移植片対宿主病(graft-versus-host disease)の一般的な合併症として、腹痛や吐き気、高度の下痢、栄養素の吸収障害、負の窒素バランスなどが起こります。このような場合、適切な栄養サポートを受けなければ、栄養不良の状態に陥ります。
移植を受けた患者は、感染予防の対策として、細菌の少ない(low-microbial)食事が与えられます。細菌の少ない食事とは加熱処理した食事で、生のものや加熱調理していないものは制限されます。このような食事においては、多くの食品が制限されるので、ある特定の栄養素が不足しないように注意が必要です。
移植を行う多くの医療機関では、栄養不良を予防し、カロリーや栄養素の不足を是正するための治療を行うように準備されています。
経口栄養でのサポートと点滴での栄養補給のどちらが有益かは、両者を比較した研究が少ないので、評価はできません。最近の傾向としては、点滴での栄養補給よりも、合併症のリスクや費用の面で勝っている経口摂取による栄養サポートが多くなって来ています。

【肺がん】

肺がんの重要な危険因子は喫煙です。さらに野菜や果物の摂取が少ない食事も肺がんの発生率を高めます。この事実は野菜や果物に多く含まれるβカロテンが肺がんの発生リスクを下げるのではないかというアイデアがでてきますが、2つの大規模な臨床試験の結果、高用量のβカロテンのサプリメントでの摂取は肺がんの発生を高めることが示されています。
肺がんの診断後のβカロテン以外のサプリメントの効果(有益性と有害性とも)に関しては検討されていません。皮膚がんに対するセレニウムの効果を検討した臨床試験では、
セレニウムのサプリメントが肺がんの発生頻度を低下させる可能性が報告されています。そこで、肺がんサバイバーにおけるセレニウムの有益性を検証する臨床試験が現在進行中です。

食品の成分と肺がんの予後を検討した研究はほとんどありません。
進行した肺がん患者に対して野菜の摂取が生存率を高めるかどうかを検討した少人数での臨床試験が報告されています。これらの試験では、野菜を多く摂取すると体重減少が軽く、生存期間が延びることが報告されています。しかし、臨床試験の規模が小さいので、この予備的な結果を確認するためには大規模な臨床試験の実施が必要です。
肺がんサバイバーを含む3つの臨床試験では、カロリー摂取を高めることが推奨されています。しかし、カロリー摂取を増やしても、これらの研究で使われた方法では体重減少を防ぐことはできませんでした。
肺がんの治療は多くの場合、非常に攻撃的で副作用も強く出ます。さらに、肺がんサバイバーの多くは、不適切な食事によって診断前から栄養不足の状態に陥っています。
肺がんの治療中や回復期において、カロリーや栄養の高い、そして飲み込みやすい食事を取ることは有益です
1日に3回の食事よりも、少量の食事をより頻回に分けて摂取する方が楽です体重減少を起こしている肺がん患者の場合は、ω3不飽和脂肪酸のサプリメントや、カロリーと栄誉素の豊富な食事が有効です。もし、栄養素の不足が存在し、あるいは必要な栄養とカロリーを摂取するだけの食事が取れない時は、マルチビタミン・ミネラルの摂取は有用です
肺がん患者の予後に対する運動の影響に関しては、まだ研究が行われていません。
肺がんサバイバーに対して推奨できる食事や運動は個々の患者によって異なります。食事の摂取や運動によって健康的な体重を維持することは一つの目標になります。この目的には、バランスの取れた食事と、必要によってはマルチビタミン・ミネラルのサプリメントによって達成できます。

【前立腺がん】

前立腺がんと食事の関係に関する研究の多くは、前立腺がんの発生率について検討しています。高齢者男性においては無症状の前立腺がんは非常に多いので、前立腺がんの発生率を低下させる効果のある食事は、診断後の前立腺がんの増殖速度を低下させ、早期のがんの進展を抑える効果が期待できます。
前立腺がんの発生や再発を予防するような食事が、前立腺がん患者の生存期間を延長するか、あるいは前立腺がんの予後の指標となる腫瘍マーカーのPSA(前立腺特異抗原)を低下させる効果があるかどうかを検討した臨床試験の結果が報告されています。
動物性食品(特に飽和脂肪酸を多く含む)を多く摂取すると、前立腺がんの発生率が増加します。この増加の原因が、飽和脂肪酸だけによるものか、あるいは赤身の肉と脂肪の多い食事が関連しているのかについては、はっきりした結論は出ていません。
脂肪の多い魚の摂取では前立腺がんによる死亡率が低下するという報告があるので、もし脂肪自体が問題であるとすると、摂取する脂肪のタイプが重要な役割を果たしていると考えられます。

前立腺がんサバイバーにおける生存期間と食事因子との関連を検討した追跡調査が2つあります。
一つの追跡調査では、
飽和脂肪酸の摂取が生存期間の短縮と関連していました。もう一つの調査では、単価不飽和脂肪酸の摂取が生存期間を延ばすことを明らかにしています。飽和脂肪酸が心臓疾患のリスクを高めることや、前立腺がんや大腸がんの発生率を高める可能性が報告されていることを考慮すると、前立腺がんサバイバーにとって飽和脂肪酸の摂取量を減らすことは極めて有益と言えます。
前立腺がんの予防に関連した研究の多くは、野菜や果物の摂取量と前立腺がんの発生率との関係については明らかな関連を見いだしていません。
トマトやスイカに多く含まれるリコピンの前立腺がん予防効果が注目されていますが、リコピンの有効性については賛否両論あります。
前立腺がんの再発率と食事内容の関連を検討したある研究では、魚とトマトソースの摂取が前立腺がんの再発率を低下させることを報告しています。
野菜と果物が前立腺がんの発生を減らすかどうかは不明ですが、野菜や果物の豊富な食事は心臓疾患のリスクを低下させることが明らかですので、前立腺がんサバイバーにとっても、微量栄養素やフィトケミカルの豊富な野菜や果物を多く食べることは有益であると推測されます

フィトエストロゲン(植物エストロゲン)が前立腺がんの予防に有効であるという考えのもと、前立腺がんサバイバーにとって、大豆製品(豆腐や豆乳)を多く摂取することが勧められています。大豆製品が前立腺がんの発生率を低下させるという研究結果は複数の研究で明らかになっています。しかし、大豆やフィトエストロゲン(大豆イソフラボン)が、前立腺がんの診断後の進展を抑える効果があるかどうかに関しては、まだ十分な結論は出ていません(現在、そのような研究がいくつか進行中)。
植物エストロゲンの一種のリグナン(lignan)を多く含む亜麻の種子(flaxseed)が前立腺特異抗原(PSA)を低下させる効果があることが報告されていますが、この結果が生存期間を延ばす効果につながるのかは不明です。

いくつかの疫学的研究で、
サプリメントや乳製品などから摂取するカルシウムの量が多いと、悪性度の高い前立腺がんの発生率が高まることが報告されています
しかしながら、前立腺がんと診断されてからのカルシウム摂取の効果についてはまだ検討されていません。このようなケースで、カルシウムやビタミンDのサプリメントの摂取が有益か有害かの結論は出てません。
男性にとっては、1日に600 IU以上のビタミンDと、十分な量のカルシウム(ただし、1日1200mgを超える過剰な摂取は勧められない)を含む食生活と、日常的な筋肉トレーニングを含む活動的な生活を実践することが勧められます

前立腺がんの予防におけるビタミンDの役割については現在研究が行われています。2つの予備的な研究では、ビタミンDは前立腺がんのマーカーであるPSA(前立腺特異抗原)を低下させる効果があることが示唆されています。しかし、その有益性を確かめるためには、より長期にわたるビタミンD投与の結果を待つ必要があります。

ビタミンEと肺がんの関連を調べた大規模な臨床試験において、
ビタミンEが前立腺がんの発生率を減らす効果が示されています。しかし、前立腺がんが発生した人に対しては延命効果は認められていません
セレニウムと皮膚がんの関連を調べた臨床試験では、
セレニウムのサプリメントが前立腺がんの発生率を低下させる効果があることが報告されています。
前立腺がんの発生と、診断後のがんの進展に対する、ビタミンEとセレニウムの効果を検討する臨床試験が現在実施されています。

肥満や身体活動と前立腺がんの発生リスクとの関連を検討した臨床試験がいくつか報告されていますが、結果は一致していません。ある大規模コホート研究では、前立腺がんで肥満のある人は、肥満でない人に比べて、死亡率が高いという結果が出ています。しかし、前立腺がん患者を追跡調査した2つの研究では、前立腺がんの再発率や生存期間と肥満との間には何ら関連は見いだされていません。
しかしながら、ある研究では、
前立腺がんの摘出手術した後の再発率が肥満の人では高いというデータが出ています

前立腺がんサバイバーにおける運動の効果に関する研究が2つあります。
一つの研究では、男性ホルモン除去療法を受けた前立腺がん患者に、レジスタンス運動(筋力運動)を週に3回、12週間にわたって実施し、その結果、
レジスタンス運動は、患者のQOLを良くし、倦怠感を軽減し、筋力を維持する効果があることが示されています。
もう一つの研究では、週3回の家庭での歩行運動を4週間実施することによって、放射線治療中の身体機能に良い効果があることが報告されています。

前立腺がんと診断された男性は、野菜や果物が豊富で、飽和脂肪酸の少ない食事に心がけ、適度の運動を含め活動的な生活習慣が大切です。
カルシウムや乳製品の過剰の摂取は勧められませんが、男性ホルモン除去治療を受けている場合は、骨が弱くなって骨折のリスクが高まることにも注意して、適切な量は摂取するようにします。

前立腺がん患者に対するこのような勧告に関する証拠は限られていますが、前立腺がんサバイバーの死因として最も多い心臓疾患を顕著に減らす効果がありますので、十分に有益な効果が得られると考えられます。

【上部消化管と頭頚部がん】

頭頚部、食道、胃、膵臓のがんの一次予防(発生予防)に関する研究から、野菜や果物の豊富な食事の大切さが指摘されています。膵臓がんの場合は、さらに肥満にならないようにすることも大切です。
しかしながら、これらのがんの診断後は、そのような食生活パターンや身体活動の要因が予後に関係するかどうかについてはほとんど判っていません。
野菜や果物が頭頚部がんの発生率を低下させることは多くの研究で示されていますが、このような食事が頭頚部がんの予後に影響するかどうかに関してはほとんど検討されていません。頭頚部がんのサバイバーにおけるβカロテンの効果を検討した臨床試験では、再発率や生存率に対してβカロテンはなんら影響しませんでした。
食道がんや胃がんの患者は、食物摂取や栄養の吸収に問題がある場合が多く、長期にわたる栄養面での問題を抱えています。
食道がんサバイバーに多く見られる問題は食べたものの逆流です。
高蛋白、低脂肪、高炭水化物の食事は、食道下部の括約筋圧を高め、逆流を防ぐ効果が期待できます。チョコレート、脂肪、アルコール、コーヒー、スペアミント、ペパーミント、ニンニク、タマネギは、下部食道の括約筋圧を低下させるので、避けるようにします。
トマト製品やオレンジジュースのような酸性度の強い食品は、刺激性を高めます。
胃がん患者における栄養面での対処は、胃のどの部分ががんになっているか、外科手術を受けているか、によって異なります。例えば、
幽門括約筋が働かない状態であれば、食べたものが直ぐに通過して小腸に入ってしまいますので、1回の食事の量を減らし、頻回に分けて食べるようにします。

膵臓がんの場合は、ω3不飽和脂肪酸のサプリメント(*3)は、体重減少を防ぎ、一般全身状態を良くすることを示す証拠が増えてきています。がんの栄養療法の一つであるGonzalezの栄養療法が、予備的な研究で膵臓がんの生存率を良くする結果が報告されいます。この研究は治療法を自分で選択した患者グループの研究結果なので、その結果は確定的ではありません。しかし、米国国立がん研究所(National Cancer Institute)から研究費の補助を受けた臨床試験が現在進行中です。
少人数での検討ですが、
1日200mgのサリドマイド投与が進行した膵臓がん患者の体重減少を防ぐという結果が報告されています(*4)。

頭頚部がんの患者は、食事の摂取に障害があることが多く、診断時に多くの患者が栄養障害の状態にあります。
このような患者に対しては、治療前、治療中、治療後の全てにわたって、体全体の健康状態を高めるために、栄養状態の評価や栄養摂取のサポート、身体活動や理学療法について集学的なケアが必要です。
栄養摂取が悪いのは、外科手術によって食物の咀嚼や嚥下に障害が出たり、放射線治療によってドライマウスや口内炎や味覚の異常に起因します。
頭頚部がんの長期のサバイバーは、体重減少や嚥下障害や生活の質の低下を何とか改善したいと望んでいます。
治療中や治療後では、食事の舌触りや温度、硬さ、栄養素の含有量、経口摂取の回数などを変える必要がでてきます。酸っぱいもの、塩気の多いもの、香辛料の多いもの、非常に熱いものや冷たい食事は食べることが困難になる場合もあります。
シュガーフリー(Sugar-free)のチューインガムやミント、口腔内のリンスやゲルは症状を少しは改善し、食欲を高めてくれます。
液体やピューレ (野菜などを煮て裏ごししたものやそれで作ったスープ.)やジュースにした食品であれば、治療中や治療後の食品として適しているかもしれません。抗がん剤と放射線を併用した治療法(Chemoradiation)は患者の食事を食べる能力に重大な障害を引き起こし、それが回復するのに治療後12ヶ月以上かかることがあります。
口からの食物や飲料の摂取が困難な場合は、他の方法で栄養や水分の摂取を行います。食道がんや胃がんの手術後すぐにチューブ栄養が開始されるとICU(集中治療室)の滞在期間や入院日数が短くなることが報告されています。頭頚部がんにおいても、身体活動を高めることは、身体機能を高め、痛みや身体の障害を軽減し、生活の質を高めることが報告されています。
より詳細な情報がないので、頭頚部がんや上部消化器がんのサバイバーは米国がん協会の「がん予防のための食事と身体活動のガイドライン」に従うように努力すべきです。野菜や果物や食物繊維の摂取は有益です。治療や病気によって食物摂取に障害があるので、栄養士や医師など専門家と個別に相談することが勧められます。

*3:ω3不飽和脂肪酸のDHA/EPAのサプリメントについてはこちらをご参照ください

*4:サリドマイドについてはこちらをご参照ください。F

●がんサバイバーのための食事と運動に関する一般的な質問

がんサバイバーは、生活の質を良くし生存期間を延ばすために、食事の選択や運動やサプリメントについて、医療関係者に情報やアドバイスを求めることが多くあります。
がん患者を指導する医療専門家は、全ての項目において、一つの研究結果で結論を出す事はできないことを強調しなければなりません。個々の新しい報告は、今までの研究結果と異なる点を強調したり、常識を覆えすような結果を報告している場合もあります。簡単なニュースでは、その結果の意味を十分に伝えることはできません。
栄養と運動に関する最善のアドバイスは、一つの新しい研究報告やニュースによって、それまでの栄養や運動の指導内容をすぐに変えるようなことは稀であることです。食事や運動に関するがんサバイバーの一般的な質問に関しては以下のような回答が役立ちます。
【アルコール】

Q:飲酒はがんの再発リスクを高めますか?
A:口腔がん、喉頭がん、食道がん、肝臓がん、乳がん、大腸がんなどいくつかのがんでは、飲酒が発がんのリスクファクターになっていることが、多くの研究で明らかになっています。したがって、他のがんの診断を受けている人でも、アルコール摂取はこれらの部位の新たながんの発生リスクを高めることは明らかです。アルコール摂取は血中のエストロゲンの量を増やすので、理論的にはエストロゲン受容体陽性の乳がんの再発率を高める可能性がありますが、この点に関してはまだ結論をだせるほどの研究は行われていません。

Q:がん治療中は飲酒はだめですか?
A:治療中の飲酒の是非に関しては、がんの種類、時期、治療の状況によって答えが違います。口腔内の粘膜に炎症(口内炎)があるときは、口に含む程度の少量のアルコールであっても、粘膜を刺激して、口内炎を悪化させます。
したがって
、口内炎が既にある時や、頭頸部の放射線治療や抗がん剤治療を受ける場合のように、口内炎のリスクが高い場合には、飲酒は勧められません。他の消化器系のがんの抗がん剤や放射線治療の場合にも飲酒が同様の悪影響を及ぼすかどうかは不明です。

【抗酸化物質】

Q:抗酸化物質はがんとどのような関係がありますか?
A:抗酸化剤は食品中にいろんな形で含まれており、細胞や組織の酸化障害を防ぐ効果があります。このような酸化障害はがんの発生の原因となりますので、
抗酸化剤はがんの発生を予防すると考えられています抗酸化物質(ビタミンCやビタミンE、カロテノイド、抗酸化作用をもつフィトケミカルなどを含む)の宝庫である野菜や果物を多く摂取している人は、ある種のがんの発生が少ないことが多くの研究で明らかになっています。
がんサバイバーは別のがんになる可能性も高いので、抗酸化成分の食品を毎日多く食べることが勧められます

抗酸化性ビタミンやミネラルのサプリメントの摂取ががんの発生を予防することを示す研究結果はまだありません。現時点での最善のアドバイスは、
サプリメントからでなく、食品から抗酸化物質を多く摂取することです

Q:がん治療中に抗酸化性サプリメントを摂取するのは安全ですか?
A:サプリメントに含有される抗酸化物質(ビタミンCやビタミンEなど)は、通常の健康に必要な1日所要量をはるかに超えた量が含まれています。
放射線治療やある種の抗がん剤は、がん細胞に酸化障害を起こして抗がん作用を発揮しています。したがって、抗がん剤や放射線治療の最中に抗酸化性物質を含むサプリメントを多く摂取すると、治療効果を妨げる可能性があるという意見で、多くのがん専門医は放射線や抗がん剤治療中の抗酸化成分を含むサプリメントの大量摂取には反対しています。
しかし一方、このような懸念は仮説であり、むしろ放射線や抗がん剤による正常細胞や組織のダメージを防ぐ効果があって、総合的には有益な効果があるという意見もあります。
このように、
抗がん剤や放射線治療中の抗酸化作用をもったサプリメントの併用が有用か有害かは、現時点ではまだ結論が出ていない問題になっています。このように不確実な状況ですので、有用性と有害性のどちらが大きいかを判断できるより強いエビデンス(証拠)が出てきて結論がでるまでは、抗がん剤や放射線治療中は、ビタミンCやEのような抗酸化性ビタミンの摂取は、健常人に推奨されている1日所要量を超えた過剰な摂取は控えておく方が良いと考えられます。(*5)

*5:抗がん剤治療中の抗酸化物質の摂取に関しては以下のサイトもご参照下さい。
食品中の抗酸化物質は、化学療法の効果を高める。
抗がん剤治療中に抗酸化物質の豊富なサプリメントは有益か有害か?

【脂肪】

Q:脂肪の摂取量を減らすとがんの再発率を下げ、生存期間を延ばすことができますか?
A:脂肪の摂取量と乳がん術後の生存期間との関係を調べた臨床試験がいくつか報告されていますが、その結果は試験によって異なっています。早期の乳がんの患者においては、食事の脂肪の摂取量を減らすと再発率を低下させ生存率が上がることが、大規模な臨床試験において示されています。脂肪を減らすことによる再発率の低下は、エストロゲン受容体がネガティブの患者の場合にさらに効果があることが報告されています。
脂肪の総摂取量ががんの予後に影響するという確実な証拠はありませんが、脂肪の多い食事はカロリーが高くなり、肥満の原因となり、この肥満ががんの発生率を高め、予後悪くすることにつながる可能性があります。

Q:脂肪のタイプによってがんの発生率や生存期間に違いがでてきますか?
A:飽和脂肪酸ががんの発生リスクを高めるように、脂肪の種類によって発がんのリスクに対する影響は異なります。
魚油に含まれるω3不飽和脂肪酸や、オリーブオイルやカノーラ油に含まれるオレイン酸のような単価不飽和脂肪酸、その他の多価不飽和脂肪酸が、がんの発生リスクを減らすという証拠はまだ十分ではありません。
前立腺がん患者では、飽和脂肪酸を多く摂取すると前立腺がん患者の生存率が低下し、単価不飽和脂肪酸を多く摂取すると生存期間が延びることが報告されています。さらに、飽和脂肪酸を多く摂取すると心臓疾患が増えることが知られており、心臓疾患はがんサバイバーにとっても死亡率を高める要因になっています。
トランス型脂肪酸が血中コレステロールを高めるなど、心臓疾患に悪影響を及ぼすことが明らかになっていますが、がんの発生率や生存期間に関する影響はまだ結論が出ていません。しかしながら、がんサバイバー、特に心臓疾患のリスクの高い人は、トランス型脂肪酸の摂取は少なくするのが良いと言えます。トランス型脂肪は、マーガリンや、水素添加した油脂を含むスナック食品などがあります。

【食物繊維】

Q:食物繊維はがんを予防し生存率を高めますか?
A:食物繊維は、人間の消化管では消化吸収されない様々な多糖類です。食物繊維には可溶性(オートブランなど)と不溶性(wheat branやセルロースなど)があります。可溶性の食物繊維は血中コレステロールレベルを低下させ、心臓疾患のリスクを低下させる効果があります。食物繊維は腸の運動や機能を高めます。
食物繊維の多い食品は、豆類、野菜、精白していない穀物、果物です。
食物繊維によるがん予防効果の根拠は乏しいのですが、食物繊維の多い食品は、食物繊維以外に、がんの発生を予防し、心臓疾患のリスクを減らすなどの他の健康作用を有する多くの成分を含んでいます。したがって、食物繊維の多い食品はがんサバイバーに推奨できます。

【食品の安全性】

Q:がん治療を受けている場合に、食品の安全性で特に注意することはありますか?
A:食品の安全性はがんサバイバーにとっても重要で、特にがん治療によって免疫抑制や好中球減少の状況にある場合は、食品の安全性が問題になります。このような免疫力が低下している場合には、がん患者は感染症にかからないように特別な注意が必要で、病原菌を多く含むような不衛生な食品を摂取しないような注意が必要です。一般的な注意点として、食事の前に手を洗う、野菜や果物は十分に洗う、食品が腐らないように保存の温度に気をつける、などがあります。食品の安全性については表2を参考にして下さい。

【肉】

Q:肉は食べないようにするべきですか?
A:赤味の肉や加工した肉を多く食べると、結腸直腸がん、前立腺がん、胃がんの発生率を高めることが、いくつかの疫学的研究によって示されています。油で揚げたり(フライ)、煮込んだり(ボイル)、焼く(グリル)のような調理法で、肉を高温で調理すると、発がん物質ができて、ある種のがんの発生率が高まることが報告されています。このような理由から、米国がん協会のガイドラインでは、赤味の肉や加工した肉の摂取を制限しています。加工肉や、高温で調理した肉、あるいは肉全体の摂取が、がんの再発や進展にどのように影響するかを判断できる十分な研究報告はまだありません。

【肥満】

Q:体重がオーバーしているとがんの再発率や新たながんの発生率を高めますか?
A:体重オーバーや肥満が、多くのがんの再発率を高め、生存期間を短くすることは多くの研究で示されています。
体重の増加とがんによ死亡率との間には正の相関があります。また、食道がん、結腸直腸がん、肝臓がん、胆のうがん、膵臓がん、腎臓がん、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、男性の胃がんと前立腺がん、女性の乳がんと子宮がんと卵巣がんの発生率は、体重の増加と正の相関があります。
体重がオーバーしている人にとっては、健康的な体重への減量は多くの健康効果がありますので、体重を健康的なレベルに減らし、それを維持することが大切です。成人期での過剰な体重増加を防ぐことは、がんの発生や再発を防ぐだけでなく、他の慢性疾患を防ぐ上でも大切です。

【有機栽培の野菜】

Q:がんサバイバーにとって有機農法で作られた食品が推奨されますか?
A:オーガニック(有機)という用語は、農薬や遺伝子組み換えを行っていない野菜や果物や、抗生物質やホルモンなどの化学薬品を与えられていない家畜から作られた肉、鶏肉、卵、乳製品に使われています。
食品のラベルにorganicと表示するには米国農業省(Department of Agriculture)の基準があります。有機農法で作られた食品は、化学薬品の摂取を少なくできるので、一般的にはより健康的であると考えられています。また、有機農法の食品の方が栄養価が高いと言われています。しかし、有機農法の食品を食べることが、健康面でどのようなメリットがあるのかは十分に判っていません。
現時点では、有機農法の食品が、通常の食品よりも、がんの予防や再発や進展を抑える上でメリットがあるかどうかは不明です

【運動】

Q:がんの治療中や回復期に運動をするべきですか?
A:多くの研究によって、がん治療中の運動は、安全で実施可能であり、さらに身体機能を高め、いろんな面での生活の質を改善することが報告されています。
適度な運動は、倦怠感や不安を軽減し、自信を高め、心肺機能や筋力や体格を良くします
すでに運動プログラムを受けている場合、抗がん剤や放射線治療中は、一時的に運動量やペースを減らします。目標はできるかぎり運動を維持することが大切です。

Q:がんサバイバーが運動をする上で特に注意すべきことがありますか?
A:がんサバイバーは、状況によっては運動することで危険な場合もあります。がん治療によって運動に付随する怪我や有害作用のリスクが高まることがあるからです。
例えば、貧血が強い場合は、貧血が良くなるまでは運動は控えます。免疫機能が低下している場合は、白血球数が安全なレベルに回復するまで、公共のジムやその他の多くの人が集まるような所に行くのは控えます。
放射線治療を受けているときは、スイミングプールでの水泳は避けます。スイミングプールには消毒のために塩素が入っていて、この塩素が皮膚を刺激するからです。
がんの診断を受ける前から運動の量が少なかった人は、最初は弱い運動から始め、少しづつ運動量を増やしていくようにします。
高齢者や骨の異常(腫瘍の骨転移や骨粗しょう症など)がある場合や、関節炎や末梢神経炎がある場合には、転倒や怪我の危険に注意して運動量を考慮します。

Q:規則的な運動はがんの再発を低下させますか?
A:運動ががんの再発率を減らしたり、がん細胞の増殖速度を遅くするような効果があるかどうかはまだ判っていません。
しかしながら、
体重オーバーや肥満は、多くのがんの発生を高め、いくつかのがんの再発率をたかめます。そして健康的な体重を維持する上で、運動は重要な要因になります。さらに、運動は心臓疾患や糖尿病や骨粗しょう症を防ぐ効果があります。したがって、がんサバイバーは運動を含め身体活動の活発な生活習慣を行うことが大切です。

【フィトケミカル(phytochemicals)】

Q:フィトケミカルとはなんですか、それはがんの発生リスクを低下させますか?
A:フィトケミカル(植物ケミカル)というのは植物によって産生される様々な成分の全てを意味します。このような植物成分の中には、抗酸化作用やホルモン様作用をもつ成分が存在します。
がんの再発や進展におけるフィトケミカルや特定の野菜や果物の効果についての研究はまだ少ないので、結論を出すだけの証拠はありません。野菜や果物の多い食事はある種のがんの発生を低下させるので、がん予防効果をもつ特定の成分を見つけるための研究が行われています。
野菜や果物や豆類や穀物からサプリメントとして利用されているフィトケミカルが、そのもとになった食品を摂取するよりも効果があるという証拠はありません。

【大豆製品】

Q:食事に大豆製品を取り入れることはがんサバイバーに推奨できますか?
A:大豆製の食品は蛋白質の供給源として非常に優れており、この点において肉の代わりになります。
大豆にはいくつかのフィトケミカルが含まれており、その中にエストロゲン作用をもった成分があり、これがホルモン依存性のがん(乳がんや前立腺がん)の発生を防ぐ作用があることが動物実験で示されています。その他にも、抗酸化作用やプロテアーゼ阻害作用や血管新生阻害作用を持つ成分などが含まれていいます。
このようなことから、大豆製品が多くのがん、特に乳がんの発生を予防するのではないかという観点から多くの研究が行われています。しかし、大豆のがん予防効果に関してはまだ不明な点が残されています。
乳がん患者の場合、伝統的なアジア料理で使用されているくらいの量を1日に3皿以内であれば、乳がんの再発に対して、特にメリットもデメリットも無いと考えられています。しかしながら、大量の大豆を摂取すると、その中に含まれているエストロゲン作用を持った成分の影響で、エストロゲン受容体陽性の乳がんの進行を早める可能性がありますので、大豆粉末や大豆イソフラボンのサプリメントを摂取しないようにすることが大切です。(*5)

*5:乳がんと大豆の問題はこちらをご参照下さい

【砂糖】

Q:砂糖はがん細胞に栄養を与えますか?
A:これは正しくありません。砂糖が、がんの発生や進行を促進することを示す直接的なデータはありません。しかしながら、
砂糖(蜂蜜、未精製の砂糖、黒砂糖、果糖の多いコーンシロップ、乳糖を含む)やこれらを含む飲料は、カロリーが豊富であり、体重がオーバーする原因となって、がんの進行や再発を促進する可能性があります。
さらに、糖分の多い食品や飲料は、多くの栄養素の補充には役にたちません。また、栄養素の豊富な食品の摂取を妨げる可能性もあります。したがって、砂糖の消費を制限することは推奨されます。
(追加:砂糖を多く摂取すると、インスリン様増殖因子の分泌を促進してがん細胞の増殖を促進する可能性を示唆する意見もありますので、甘いものを多く摂取するのは避けた方が良いのは確かなようです)

【サプリメント】

Q:ビタミンやミネラルのサプリメントはがんサバイバーにとって有益ですか?
A:がんの治療中や治療後は、食事から十分なビタミンやミネラルの摂取が困難なことが多いので、マルチビタミン・ミネラルのサプリメントを摂取することは有益です。しかし、1日必要量の摂取で十分であり、ビタミン、ミネラルやその他のサプリメントの過剰な摂取は勧められません。いくつかの研究では、大量のサプリメントの摂取ががんの発生を促進する場合があることも報告されています。

Q:サプリメントはがんの発生や再発のリスクを低下させることができますか?
A:野菜や果物やその他の植物由来の食品の豊富な食事が、ある種のがんの発生を予防することは多くの研究で証明されており、さらに最近のいくつかの研究では、乳がんや前立腺がんや卵巣がんの再発率を低下させて延命効果があることが示唆されています。
しかし、現時点では、サプリメントにがんの再発予防に有益な効果があることを示す証拠はありません。
野菜や果物から健康作用をもった成分が多く見つかっており、これらの成分はお互いに相乗作用によって有益な効果を発揮するものと考えられています。そして、サプリメントとして利用されていない食品成分のなかに、野菜や果物の再発予防効果に関連している重要な成分が存在する可能性もあります。
野菜や果物に相当する栄養成分を含むと表示されている小さな錠剤の中には、野菜や果物全体に含まれる成分の一部しか含まれていないこともしばしばあります。
ビタミンやミネラルの供給源としては食品が一番です

【野菜と果物】

Q:野菜や果物を多く食べるとがんの再発を減らすことができますか?
A:野菜と果物を多く摂取する食事は、肺、口腔、食道、胃、大腸のがんの発生を減らすことが、多くの疫学的研究で明らかになっています。しかし、野菜や果物の豊富な食事が、がんの再発を減らし生存期間を延ばす効果があるかどうかに関する研究は、まだ少ししかありません。
最近のいくつかの研究結果によると、
野菜を多く食べると、乳がん、前立腺がん、卵巣がんの再発率を低下させ、延命効果があることが示唆されています。
いずれにしても、がんの再発予防だけでなく、他の病気の予防にも有効ですでの、がんサバイバーは1日5皿以上の野菜や果物を食べることが推奨されます。
野菜や果物の中のどのような成分にがん再発予防効果があるかは十分に判っていませんので、
いろんな種類の野菜や果物を1日5皿以上食べるというのが、最も良いアドバイスです。

Q:野菜と果物は、新鮮なものと、冷凍したものと、缶詰のもので栄養的な価値が異なりますか?
A:栄養的な価値が異なるのは確かですが、いずれの場合も健康にはプラスになります。新鮮なものが、最も栄養価値が高いと、一般的には考えられています。しかしながら、冷凍したものは、熟したものを直ぐに冷凍して製品化しているので、新鮮なものよりも栄養価値が高い場合もあります。新鮮な野菜や果物は収穫したから時間が経つと少しづつ栄養素が減少していくからです。
缶詰のものは、製品化する過程で高温で加熱する工程があるので、熱で失われる成分や水に溶け出す成分が減少しやすい欠点があります。缶詰の果物の中には濃いいシロップの中に詰められていたり、缶詰の野菜はナトリウムが多い場合もありますので注意が必要です。野菜や果物はいろんな製品を利用するのも意味があります。

Q:調理は野菜の栄養価値に影響しますか?
A:野菜を熱水で加熱した場合、特に長い時間加熱調理した場合は、水溶性のビタミンが溶出して損失してしまいます。電子レンジや蒸気での調理法が野菜の栄養成分を保持する方法として最善です。

Q:野菜や果物はジュースにすべきですか?
A:野菜や果物をジュースにするのは、食事に多様性を与え、特に噛んだり嚥下に問題のあるがん患者の場合は推奨される方法です。ジュースにすると野菜や果物に含まれている栄養成分の吸収を高めることができます。
しかしながら、
ジュースは野菜や果物そのものを食べるよりも量が減り、食物繊維も減少します。特に果物のジュースは、多くを摂取するとカロリーが過剰になる可能性があります
市販されている製品の場合は、野菜や果物が100%のジュースで、病原菌を殺菌した製品を購入すべきです。
抗がん剤治療中のがん患者のように免疫力が低下している場合は、殺菌が不十分な製品は危険です。

【菜食主義の食事】

Q:菜食主義の食事はがんの再発リスクを低下させますか?
A:野菜や果物や全粒の穀物が豊富で赤味の肉の少ない雑食性の食事と比べて、菜食主義の食事ががんの再発予防において、さらにメリットがあるという直接的な証拠はありません。しかしながら、菜食主義の食事は、飽和脂肪酸が少なく、食物繊維やビタミンや植物成分が豊富であるため、米国がん協会が推奨するがん予防のための食事のガイドラインと一致するため、多くの健康作用が期待できるのは確かです。

【水や飲料】

Q:どの程度の水や飲料を飲むべきですか?
A:倦怠感やふらつきや吐き気は、脱水によって起こっていますので、脱水が起こらないような適度な水分摂取はがん患者に推奨されます。水やその他の飲料の摂取は膀胱がんや大腸がんの発生リスクを低下させる可能性が報告されています。
健常人にとって1日に少なくとも8杯の水分の摂取が推奨されています。したがって、何らかの医学的理由で水分制限が必要な場合以外は、がん患者にとってもその程度の水分の摂取が推奨されます。

 
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