4. 肝硬変・肝がんの治療

肝臓がんの特徴は、一つのがんを治療しても、残った肝臓に再発を繰り返すことです。再発をいかに予防するかが問題になっています。 抗酸化力、免疫力、解毒機能、新陳代謝、血液循環を良くすることは、肝機能の改善、肝炎の進展予防、発がん予防、肝がん治療後の再発予防に有効です。
西洋医学的な診断法や治療を尊重しながら、病状と体調や体質に応じて、漢方治療や健康食品などで、解毒機能や治癒力を高めます。 肝炎の病期や病態に応じたオーダーメイドの漢方治療を行ない、免疫力、抗酸化力、解毒機能、血液循環など自然治癒力を高める健康食品や、発がんを予防する抗がん生薬などを組み合わせて行います。

【肝臓の慢性炎症が肝臓がんの再発を促進する】

わが国では、肝臓がんによる死亡者数は1980年代から急激に増え始め、2000年前後にピークになり(年間死亡数約3万5千人)、最近(2017年)では年間約2万8千人が肝臓がんで亡くなっています。悪性腫瘍の死亡順位の中で肺がん・大腸がん・胃がん・膵臓がんについで第5位です。
肝臓がんの治療後の再発には、治療した肝臓がんがすでに肝臓内や他の臓器に転移していた場合と、肝臓がんが別の場所に新たに発生する場合があります。
日本人の肝臓がんのほとんどはB型C型肝炎ウイルスの持続感染者で、慢性肝炎・肝硬変を経て肝臓がんに至るという経過をたどっています。肝炎ウイルスによる慢性肝炎や肝硬変になった肝臓は、肝臓全体が発がんしやすい状態になっているため、一つの腫瘍を消滅させても、他の場所に新たに発生するリスクが高いのが特徴です。最初にみつかった肝臓がんを治療したあと、1年以内に約30%が再発し、5年以内に70%以上が再発しています。
肝臓がんの体積倍加時間(doubling time)は1~19ヶ月(平均4~6ヶ月)と報告されています。通常、3ヶ月おきくらいに検査を行い、がんが小さいうちに、局所療法などで除去することが西洋医学の再発予防の基本になります。
さらに、がん細胞のDoubling timeを延ばすことができる治療法は再発予防に有効です
肝臓の発がんを促進する最大の要因は、炎症の持続によって活性酸素の害(酸化ストレス)が増えることと、細胞死に伴って細胞の増殖活性が促進されるからです。
ウイルスを排除できなくても、肝臓の炎症を抑え、肝細胞の壊死と炎症の程度を反映するGOTやGPTを低い状態に維持することにより、肝がんの発生率を有意に低下できることが示されています。

【慢性肝炎と肝硬変の漢方治療】

炎症が強く肝細胞の障害が著明なときには、炎症を抑え、肝細胞を保護する作用がある柴胡(サイコ)黄芩(オウゴン)茵陳蒿(インチンコウ)山梔子(サンシシ)五味子(ゴミシ)などが有効です。
炎症が持続して体力や免疫力や食欲が低下している場合には、抗炎症作用のあるサイコ、オウゴンに加えて、人参(ニンジン)甘草(カンゾウ)のような補益薬(抵抗力を高める薬)と半夏(ハンゲ)生姜(ショウキョウ)大棗(タイソウ)のような健胃薬を同時に含む小柴胡湯(しょうさいことう)が適する状態といえます。小柴胡湯のように抗炎症作用と同時に体の抵抗力を高める薬を組み合わせた漢方薬を和剤といいます。 エキス製剤の小柴胡湯は慢性肝炎には使えますが、肝硬変には使用が禁止されています。肝硬変に小柴胡湯を使った症例に間質性肺炎の副作用が認められたからです。 
一方、炎症の活動性が低く、体力や肝臓機能の低下した状態(=虚)であれば、人参(ニンジン)・黄耆(オウギ)・白朮(ビャクジュツ)・茯苓(ブクリョウ)などの滋養強壮薬(補益薬)を主体とした補中益気湯(ほちゅうえっきとう)人参養栄湯(にんじんようえいとう)のような補剤といわれる漢方薬を用いたほうが効果があります。これらに、さらに組織の血液循環を改善する生薬や、肝臓の解毒能や抗酸化力や免疫力を高める生薬などを、病状に応じて併用するとがんの発生を抑える効果が出てきます。
肝臓機能の低下は、肝臓の線維化によって血液循環が悪くなることが重要な原因となっています。したがって、肝臓の血液やリンパの流れを良くするだけでも肝機能や解毒機能を高める効果があります。組織の血流を良くする桃仁(トウニン)牡丹皮(ボタンピ)芍薬(シャクヤク)桂皮(ケイヒ)などを含む桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を併用すると良い場合があります。
欝金(ウコン)莪朮(ガジュツ)丹参(タンジン)田七人参(デンシチニンジン)などの生薬には血液循環を良くするだけでなく、肝機能を改善する効果も知られています。 炎症の持続は、慢性肝炎から肝硬変への進展や発がん過程を促進させる要因として重要です。炎症の過程で炎症細胞から分泌される炎症性サイトカインや増殖因子などが病気の悪化に関与しています。
腫瘍壊死因子-α(tumor necrosis factor-alpha, TNF-α)は、C型肝炎における炎症反応の中心的なメディエーターであることが報告されています。TNF-aの血中レベルは、C型肝炎患者におけるALT(肝細胞が障害されると血中に放出される酵素の一種)の血中レベルや線維化の程度と相関することが報告されています。また、インターフェロン治療によって肝炎が軽快した患者においてTNF-αの血中濃度が低下することが知られています。 このような炎症性サイトカインは発がん過程やがん細胞増殖に促進的に働きます。
シソ科のオウゴン、ハンシレン、カゴソウには、強い抗炎症作用やがん予防効果が知られています。 血中のTNF-αを低下させる生薬やハーブもいくつか知られています。お茶、イチョウ葉エキス、生姜、ナツシロツメクサ(feverfew)などが、TNF-αを低下させることが報告されています。
多くのハーブに含まれるケルセチン(quercetin)というフラボノイドには、TNFαの産生を阻害する強い活性があります。ケルセチン以外にも、フラボノイド類にはTNF-αの産生を阻害する活性をもつものが多くあります。 腫瘍は血管新生(angiogenesis)が伴わないと増殖しません。一般に炎症反応は血管新生を促進することが知られています。慢性炎症状態は酸化ストレスを増大し、腫瘍組織の血管新生を促進することになりますが、抗炎症作用や抗酸化作用をもった生薬は、酸化ストレスと血管新生を抑制して肝臓がんの発生を予防する効果が期待できます。
腫瘍の血管新生を阻害してがんの発生や再発を予防する方法をAngiopreventionと言います。 肝臓がんの化学塞栓療法に漢方薬を併用すると生存率を高めることができることが臨床試験で示されています。その理由の一つは、漢方薬が血管新生を阻害して肝臓がんの再発を抑制するためだと思われます。
また、抗がん作用をもった生薬(半枝蓮白花蛇舌草竜葵七葉一枝花など)も肝臓がんの再発予防に効果が期待できます。 漢方治療によって進行した肝臓がんが退縮した症例が報告されています。
このように、肝機能を良くする生薬や炎症や発がん過程を抑制する生薬を組み合わせることによって、肝硬変による肝機能低下を改善し、肝臓がんを予防する効果を高めることができる点が、西洋医学にない漢方治療の特徴です

【漢方薬は炎症や酸化ストレスを軽減する】

肝臓がんの発生予防効果という観点から、漢方薬の効果や作用機序を検討した報告は多くあります。漢方薬は複数の薬草を組み合わせて、熱湯で煎じた液を服用します。煎じ薬をインスタントコーヒーのように粉末にしたエキス顆粒製剤もあります。 
山梨大学医学部第一外科のグループは、十全大補湯(TJ-48)が肝臓がん手術後の再発を予防する効果を報告しています。この報告では、外科治療を受けた48例について、十全大補湯(TJ-48)を外科治療の1ヶ月後から投与した10例と、対象群(TJ-48非投与)38例とに分けて検討しました。
平均追跡期間25.8ヶ月の間に、肝臓がんの再発は対象群が38例中26例(68.4%)、TJ-48投与群が10例中4例(40%)でした。再発がみつかるまでの平均期間は、対象群が24ヶ月であったのに対して、TH-48投与群は49ヶ月でした。
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)は、人参・黄耆・茯苓・蒼朮・当帰・芍薬・川きゅう・地黄・桂皮・甘草の10種類の生薬から作られます。動物実験などで抗酸化作用、免疫増強作用、発がん抑制作用や抗がん作用が報告されています。
十全大補湯による肝臓がん再発予防効果の理由として、肝臓に存在するクッパー細胞(マクロファージの一種)や好中球の活性化を抑え、炎症性サイトカインや活性酸素の産生を抑える効果を指摘しています。さらに、がん細胞を殺す作用があるNatural Killer T細胞(NKT細胞)を活性化する効果も報告されているため、抗炎症作用や抗酸化作用や抗腫瘍作用などの複数の作用メカニズムが関与している可能性が指摘されています。
この報告はエキス顆粒製剤を用いた報告ですが、抗炎症作用や抗酸化作用を強化し、体質や症状に応じて作成した煎じ薬を服用すれば、もっと効果があがる可能性があります。
しかし、かつて肝硬変患者のがん発生を抑える効果が報告された小柴胡湯(しょうさいことう)は、間質性肺炎の副作用の危険があるため、現在で肝硬変や肝臓がん患者への使用は禁止されています。インターフェロンとの併用も禁忌です。十全大補湯も稀に肝機能障害など重篤な副作用が起こることが報告されていますので、漢方薬は専門家の指導の元に使用することが大切です。

◎ 台湾の医療ビッグデータの解析で、漢方治療が慢性肝炎患者の肝臓がんの発生を抑制することが明らかになっています。(詳しくはこちらへ

◎ 漢方治療で進行した肝臓がんが消滅した症例が台湾から報告されています。(詳しくはこちらへ

◎ 肝庇護療法としての漢方治療(詳しくはこちらへ

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