抗がん剤治療後のがん再発は漢方薬とCOX-2阻害剤の組み合わせで防ぐ 

Sさん(57歳、男性)は大腸(横行結腸)に直径が約5cmほどの大きさのがんがみつかり、腫瘍の摘出手術を受けました。手術前には大腸がんの腫瘍マーカーの一つであるCA19-9が800ng/ml以上(正常は37 ng/ml以下)と高い値でしたが手術後は30まで下がりました。肝臓や肺には肉眼的に見える転移はありませんでしたが、手術の時に摘出したリンパ節の2個に転移が見つかりました。
手術後は内服の抗がん剤で治療していましたが、8ヶ月後に腫瘍マーカーのCA19-9が100を超えたので検査したところ肝臓に2cmくらいの転移が見つかり、肝臓の転移巣を切除する手術を受け、注射による抗がん剤治療を受けました。腫瘍マーカーは正常値に戻りましたが、再発する危険が高いので、内服の抗がん剤を服用すると同時に漢方治療COX-2阻害剤(セレブレックス)を使った治療を併用しました。漢方治療開始後3年経過していますが、今の所、腫瘍マーカーは上昇していません。

全身にばら撒かれえるというがん転移の性質上、もし一個の転移巣が見つかれば、目に見えないレベルの転移巣は他の部位にも存在すると考えるべきです。
大腸がんの肝臓転移では、目に見える転移が少数であれば転移巣を切除するほうがより長く生存できることが報告されています。目に見えないがん転移巣が肝臓全体に広がっている可能性は高いのですが、大きな転移巣を取り去ったあとに、残った目に見えないがん細胞を抗がん剤などで増殖を抑制すれば、がんで死亡するまでの時間稼ぎができるからです。残ったがん細胞が少なければ、免疫力や自然治癒力を高めてやるだけでがんの増殖を押さえ込むことも可能です。

Sさんのようなケースでは抗がん剤だけでがんを抑え込むことは限界があります。抗がん剤の副作用で免疫力が低下すれば、残ったがん細胞の増殖が早められる可能性さえあるのです。免疫力を高める漢方治療を抗がん剤治療に併用することは再発予防に有益であることは間違いありません。
さらに、大腸がん細胞はCOX-2阻害剤で増殖が抑えられる可能性が高いがんですので、COX阻害剤のセレブレックスを併用すれば、さらに再発予防効果が期待できます。これでも再発の徴候が出てきたときには血管新生阻害剤のサリドマイドの出番になります。

たとえがんが体の中に存在しても、がん細胞の増殖速度を抑えることができれば、がんと共存した状態で永く生きることができます。残存がん細胞の増殖は、増殖を促進する因子と抑制する因子のバランスで決まります(図)。体の免疫力や抗酸化力を高めたり、炎症やフリーラジカルの害を抑えるような薬剤を用いれば、残存したがん細胞の増殖を抑えて再発を遅らせたり防ぐことができます。がん細胞が少数であれば、免疫力を高めてやれば免疫細胞が残っているがん細胞を殺してくれます。肉や動物性脂肪を減らすことはがん細胞の増殖を促進する原因を減らすことになり、野菜や果物はがん細胞の増殖を抑え、免疫力を高めることになるから、再発予防につながるのです。

固形がんのように塊をつくるがんが大きくなるためには血管の新生が必要になるので、確実な血管新生阻害作用のあるサリドマイドや、がん細胞の増殖を抑えるCOX-2阻害剤を併用すると、残ったがん細胞の増殖を抑え込む効果が期待できます。

 図。がんの再発は残存したがん細胞の増殖を抑制する因子と促進する因子のバランスで決まる。