ヒスタミンH2受容体拮抗薬のシメチジンが脳腫瘍に効く可能性がある 

Cimetidine, an unexpected anti-tumor agent, and its potential for the treatment of glioblastoma  
神経膠腫に対するシメチジンの抗腫瘍効果と治療に対する可能性
Int J Oncol. 28(5):1021-30. 2006 Lefranc F, Yeaton P, Brotchi J, Kiss R.
Department of Neurosurgery, Erasmus University Hospital, Brussels, Belgium.

この論文では、シメチジンが神経膠腫に効果がある可能性を報告しています。マウスの脳内にヒトの神経膠腫細胞を移植した実験モデルで、神経膠腫の治療に使用されるテモダール(temozolomide)とシメチジンを併用すると、テモダール単独よりも延命効果があることを報告しています。

○シメチジンの抗腫瘍効果について:
生体内アミンであるヒスタミンは、炎症反応や胃酸分泌、アレルギー反応など様々な生理反応に関与しています。
ヒスタミンは細胞表面にある受容体に結合することによって細胞にヒスタミンの刺激を伝えます。
ヒスタミンの受容体は現在までに 3 種類のサブタイプ(H1~H3)が見つかっていますが、そのうち H2 受容体は胃酸分泌において中心的な役割を担っており、その拮抗薬であるシメチジンやラニチジンなどは胃酸の分泌を抑える効果により胃炎や消化性潰瘍や逆流性食堂炎などの治療薬として使用されています。

1980 年代後半に デンマークのTonnesen らにより、シメチジンが胃癌患者に対し延命効果を示すことが報告され、その後、大腸癌、悪性黒色腫に対しても同様の効果を示すことが報告されています。
例えば、治癒切除術後5-FU(200mg/日)投与を受けている原発性大腸癌患者(シメチジン800mg/日併用群34例、非併用群30例の計64例)において、平均10.7年の観察期間での10年生存率は、シメチジン併用群で84.6%、シメチジン非併用群で49.8%でした(P<00001)
腎癌においても、進行例に対してインターフェロンα+シメチジンを併用した場合、インターフェロン単独よりも抗腫瘍効果が高いことが報告されています。
今回の論文では、神経膠腫への効果も示唆されています。

○シメチジンの抗腫瘍活性のメカニズム
ヒスタミンには細胞障害性のTリンパ球の生成を抑制する作用が知られています。さらにヒスタミンH2受容体はサプレッサーT細胞にも発現が認められ、ヒスタミンによりサプレッサーT細胞が活性化され、宿主側の免疫システムを減弱させると報告されています。
そこでヒスタミンH2受容体拮抗薬が上記のヒスタミンの作用を抑制し、免疫システムを増強し、抗腫瘍作用を示すのではないかと推測され、ヒスタミンH2受容体拮抗薬のシメチジンを用いた多くの臨床試験が1980年代から行なわれてきました。
しかし、ヒスタミンH2受容体を介してヒスタミンの免疫抑制作用を阻害するという作用機序はシメチジン以外のヒスタミンH2受容体拮抗薬が活性を持たないことから疑問視されています。
 
現時点でのシメチジンの抗腫瘍活性は、癌細胞に対する免疫応答の中で癌抗原に対する免疫応答誘導において鍵となる細胞である樹状細胞の抗原提示能を増強させる可能性や、癌細胞が増殖能や組織侵潤能を増強し他の臓器に転移する際に重要な役割を果たす細胞接着因子であるE-セレクチン(血管内皮細胞表面に発現する)の細胞表面での発現を抑制する可能性、VEGF(vascular endothe-lial growth factor)の活性を抑え血管新生を抑制している可能性が考えられていますが、詳細は不明です。

○ E-セレクチンとシメチジンの関係:
 癌細胞が現発巣で増殖し、局所浸潤、血管外脱出を経て血行性に転移巣を形成する過程において、癌細胞の表面に発現するシアリルルイスXやシアリルルイスAなどの糖鎖抗原と標的臓器の血管内皮細胞に発現するE-セレクチンとの接着は、最初の重要なステップと考えられています。
 シアリルルイスXやシアリルルイスAとE-セレクチンの接着によって癌細胞は血管内皮細胞上をローリングし始めますが、この現象がインテグリンとフィブロネクチンとの接着に代表される強固な接着の引き金になると考えられています。
したがって、シアリルルイスXやシアリルルイスAなどの糖鎖抗原とそのリガンドであるE-セレクチンの接着を阻害すれば、転移を制御できる可能性があります。
 シメチジンは血管内皮細胞におけるE-セレクチンの生成を阻害する作用が報告されています。したがって、シアリルルイスXやシアリルルイスAなどを発現する癌に対しては抗腫瘍効果が期待できます。
実際に、腎癌、胃癌、結腸癌、悪性黒色腫などでの有効性が報告されています。

○シメチジンには血管新生阻害作用とアポトーシス誘導作用がある(015)