炎症性腸疾患に使用されるサラゾスルファピリジンが神経膠腫に効果がある可能性

米国アラバマ大学のCivitan国際研究センター神経生物学部門の研究者らは,クローン病などの炎症性腸疾患の治療に認可されている薬剤サラゾスルファピリジンが脳腫瘍の神経膠腫にも治療効果が見込まれるとJournal of Neuroscienceの2005年8月号(2005; 25: 7101-7110)に発表しています。

(出典)
Inhibition of cystine uptake disrupts the growth of primary brain tumors.(シスチンの細胞内取り込みを阻害すると原発性脳腫瘍の増殖を抑える)
Chung WJ, Lyons SA, Nelson GM, Hamza H, Gladson CL, Gillespie GY, Sontheimer H.
Department of Neurobiology, Civitan International Research Center, The University of Alabama, Birmingham, Alabama 35294-0021, USA.


(要旨)
グルタミンは神経細胞に対して細胞毒性がありますが、脳組織において神経細胞の回りにいるグリア細胞は、このグルタミンをNa-依存性トランスポーターによって細胞内に取り込むことによって処理しています。
しかし、グリア細胞から発生した腫瘍(神経膠腫)細胞においては、このトランスポーターは機能しておらず、逆に神経膠腫はグルタミンを放出して周囲の神経細胞を殺してしまう原因となっています。
神経膠腫細胞が、グルタチオンを合成するためにシスチンの取り込みを増やしており、このときにシスチンとグルタミンを交換してシスチンを取り込む cystine-glutamate exchangerの働きを利用しているからです。このシステムはsystem xc-と呼ばれています。
グルタチオンは細胞内で活性酸素やフリーラジカルの害を防ぐ抗酸化物質であり、細胞を酸化ストレスから守り、いろんな毒性物質を解毒する働きがあります。シスシンはグルタチオン合成に必要な材料の一つです。
神経膠腫細胞はsystem xc-の作用で、細胞内にシスチンを多く取り込んでグルタチオンの合成を高めて、細胞の抵抗力を高め増殖を促進することができます。さらにグルタミンを細胞外に放出することによって、周囲の神経細胞を殺す作用にも関与しています。
したがって、このsystem xc-を阻害できれば、神経膠腫細胞内のグルタチオンの濃度が低下し、細胞内の活性酸素種が増加し、腫瘍細胞は死にやすくなると考えられます。
この論文では、クローン病などの炎症性腸疾患の治療に使用されているサラゾスルファピリジンが system xc-の働きを阻害し、神経膠腫の増殖を抑え、細胞死(アポトーシス)を誘導することができることを動物実験で示しています。

これまでも、腫瘍細胞内のグルタチオンの合成を阻害して腫瘍細胞の増殖を抑えようとする試みは発表されていますが、今回の研究結果は、神経膠腫で活性が高まっているsystem xc-を既存の医薬品によって阻害することでグルタチオンを枯渇化させることができる可能性を示した点で、今後の臨床試験の結果が期待されます。