未認可医薬品の輸入使用や代替医療薬の処方に関する法的規制と医師の責任

海外では認可されているが日本では未認可の医薬品の輸入使用、日本で認可されている医薬品の保険適用疾患外の使用、海外のサプリメントなどの代替医療薬の処方に関する法的規制と医師の責任を解説します。

1。以下の条件を充たせば医師はどのような薬も使える。

日本国内において承認の有無を問わず、医師自らの責任において薬剤を使用することは可能です。しかし投薬も一つの生体的侵襲として違法性を具備するものであるから、一定の法的要件(目的、方法、同意)を充たす必要があります。つまり、

1)目的において治療とか治験という正当性がある。
2)治療方法において、医学的な根拠や、効果を期待しうる相当な理由がある。
3)インファオームド・コンセント(十分な説明と同意)により患者の同意がある。
の3点です。

つまり、医師の裁量でどのような薬も使用できますが、この3つの要件が充たされない未認可医薬品の使用や代替医療薬の処方は違法となります。
治療あるいは治験目的でない、有害となる可能性や効果の予測が困難、患者の納得と理解が不十分な場合は、外国で認可されていても使用は違法と考えられます。

2。患者が望んだからといって即処方できるわけではない。

最近のインファオームド・コンセントへの関心の高まりとともに、医師が患者の意思や権利を尊重する(あるいは尊重すべきであるとする)風潮が強まっているのは確かです。しかし、患者の希望があればそれに従って使用するということは許されません。

あくまで医師が適切と診断した上で治療方針を立て、正しい薬剤を選択し、それについてインファオームド・コンセントにより患者の同意を取るというプロセスが本来の治療の在り方です。
患者の懇願があったからといって、それが医学的あるいは医師の使命に誤っていたために万一事故でも発生すれば、それは医師の責任になります。
(例えば、安楽死を患者が希望しても、それを実行するような薬の使用はできません)

3。未認可医薬品は保険医療機関及び保険医は使用が困難。

医師が患者使用の目的で厚生労働省から薬監証明を取って個人輸入すれば、どこでも患者に投薬できるようにも考えられます。
しかし、「保険医療機関及び保険医療養担当規則」の第19条に、「保険医は、厚生労働大臣の定める医薬品以外の薬物を患者に施用し、叉は処方してはいけない」という規則が定められています。治験用に用いる場合に限って例外は認められていますが、基本的に、保険医療機関や保険医が未認可医薬品を患者に使用することは禁じられているのです。これは、保険診療自由診療の治療を組み合わせる「混合診療」が禁じられている事とも関連します。
したがって、癌治療に未認可医薬品を制限なく使うためには自由診療とせざるを得ないという事情が発生します。

(保険診療と自由診療についてはこちらへ)

4。保険診療の病院に入院していても未認可医薬品は使用できる。

保険診療機関で未認可医薬品を使用する場合には、病院の倫理委員会の許可が必要で、治験という目的に限られます。しかし、自由診療のクリニックから処方を受け、処方医から入院中の主治医に治療依頼を行なうという手続きをとれば、保険診療機関に入院中でも、未認可医薬品の使用は可能です。この場合、入院している病院の倫理委員会の許可は必要ありません。
未認可医薬品の丸山ワクチンやハスミワクチンなどと同じ扱いです。

しかし、この場合、処方医師と患者側で、薬の使用について十分なインフォームド・コンセントの手続きをとり、患者の自己責任で薬を使用するという意志を明確にしておく必要があります。

5。日本に輸入できない医薬品や、自主規制の必要な未認可医薬品もある。

海外で認可されていても、承認国で処方規制のかかっている薬もあります。たとえば、米国で認可されている抗がん剤の中には、副作用の問題などから、製造している製薬会社やFDA(米国食品医薬品局)が、処方医や薬局を登録制にしている薬もあります。このような医薬品は原則として日本の医師が輸入することはできません。
サリドマイドは医師の個人輸入によって処方は可能ですが、薬の管理などに関して、日本国内においても厚生労働省よりきびしい指導があり、安易な処方はできないことになっています。

このような処方上の規制や法律を遵守し、適切に使用することが大切です。